11月にカタールで開催される4年に1度のサッカーの祭典・FIFAワールドカップ。アジア予選を突破した森保一監督率いる日本代表は、来るべき本戦に向けて強化の最終段階に入っている。

 今回、国内では6月2日の国際親善試合でパラグアイ代表と対戦。6日のキリンチャレンジカップでブラジル代表と激突し、10日、14日のキリンカップではガーナ、チリまたはチュニジアと対戦する。世界の強豪と対峙する森保ジャパンはどのようなメンバーが揃い、どのようなサッカーを展開するのか。

 まずは今回の国内遠征のメンバーに目を向けると、ヨーロッパでプレーする「海外組」と呼ばれる選手たちが28人中22人も選出されている。

 近年、日本は海外進出する選手が急増している。かつては三浦知良が日本人で初めてセリエAでプレーをして以降、中田英寿、本田圭佑、香川真司などが後を継いで海を渡り、今では毎年のように有望な選手が海を渡るようになった。その結果、2018年のロシアW杯ではメンバー23人のうち半数以上の15人が海外組となり、日本のW杯における過去最多人数に達し、2019年8月のカタールW杯アジア二次予選ではメンバー23人のうち、海外でプレーする選手は実に19人を占めた。

 今後もその波は加速をしていくだろう。かつて本田圭佑が「行けるならできるだけ早く海外に行くべきだ」と公言していたように、日本で頭角を表した選手がすぐ海外に渡り、多くの経験を積むことで、日本代表における国際舞台の経験値として還元される。サッカーは世界を相手に戦うスポーツだからこそ、なおさら個人の国際経験値が重要となってくる。

■“森保ジャパン”の肝は「サイドアタック」「前線からのプレス」「規律と献身性」

 森保監督のサッカーに目を向けると、両サイドに特徴的な選手を配置するサイドアタックをメインとする。前線からのプレスも連動性を持って、全体をコンパクトに保ち全員で守備をする。規律と献身性が求められるサッカーだ。

 ピッチ外では1人1人に綿密なコミュニケーションを図る監督だと感じる。アジア予選を見ていても、試合後に円陣を組んで激しいアクションを入れながら、選手たちにメッセージを送る姿が印象的だった。常に会話をしながら、選手の意思確認や状況把握を丁寧に行っていくからこそ、選手たちも森保監督に信頼を寄せるようになる。このコミュニケーション術こそ、森保監督の武器かもしれない。

 メンバー選考も選手との信頼関係に基づいているものだと感じる。森保監督はこれまで、ほぼメンバーを固定してきた。W杯までの活動期間は4年もあり、当然その時々に“旬”と言える選手が現れる。森保監督はそういった選手の動向に目を光らせてはいるが、招集したケースは少ない。今回も抜擢と言えるのは、ドイツ・シュツットガルトで躍動をする23歳の長身MF伊藤洋輝のみだった。

 代表選考は非常に難しい。毎日のように顔を合わせてトレーニングを積み、 1週間に1回は試合があるクラブでの活動とは違い、日本代表は世界的に設けられた「代表ウィーク」という1~2週間の短い期間で、かつスポット的に集められた状態でチームを強化していかないといけない。

 さらに今回に関しては、W杯の開催時期が通常と異なる点も難しい。本来であれば、ヨーロッパの各リーグが終了する6月ごろに開催されるが、この時期のカタールは日中の気温が45℃近くに達し、夜間も30℃を下回らないような酷暑の時期。そのため比較的気温が落ち着く11月開催となった。

 11月といえばヨーロッパのリーグ戦の最中。この時期にリーグ戦を一次中断して行うため、準備期間がほぼない状態で大会を迎えないといけない。それゆえにここから新たな戦力を抜擢するのはますます難しくなるだろう。

■“ポスト大迫”として期待がかかる「上田綺世」

 では、ここで実際の選出メンバーに目を向けてみよう。森保監督は吉田麻也、長友佑都、原口元気、柴崎岳、遠藤航、酒井宏樹などW杯を経験しているベテランを常に招集し、主軸ではないがGK川島永嗣もその経験値とリーダーシップを買って選出し続けている。

 一方で若手、中堅に関してはサンフレッチェ広島を指揮していた時のエースだった浅野拓磨に大きな信頼を寄せている。遅れてブレイクの時を迎えアジア突破の立役者となった29歳の伊東純也も攻撃の中枢として不動の存在だ。

 そして森保監督が兼任した東京五輪のU-24日本代表からも多くの選手を引き上げている。DF板倉滉、中山雄太、冨安健洋、MF三笘薫、堂安律、久保建英、田中碧、FW前田大然、上田綺世は森保監督が主軸として重宝した選手たちだ。ちなみに東京五輪でオーバーエイジとして招集し、主軸に据えたのは吉田、遠藤、酒井の3人だった。

 勝手知ったる選手たちを選出し、選手と監督、選手同士の強固な信頼関係を綿密なコミュニケーションで構築してピッチ上でパフォーマンスを発揮させる。これが森保監督のチームビルドの真骨頂だ。

 今回のメンバーの中で大きな話題となったのが、これまで森保監督が全幅の期待を寄せて起用し続けていた大迫勇也の選外だ。大迫と言えば、ロシアW杯で再ブームとなった「大迫半端ないって」で知られる日本の絶対的なエースストライカー。だが、32歳という年齢を考えると「ポスト大迫」の台頭は日本サッカー界において大きな課題だった。大迫の武器だったポストプレーや裏抜け、個でも勝負ができるストライカーという3つの条件に当てはまるのは、今回のメンバーで言うと上田が一番近い存在だ。

 東京五輪でもエースストライカーを張った彼は、鹿島アントラーズでコンスタントにゴールを挙げており、得点のバリエーションが豊富だ。チャンスメークや起点になるプレーも精度が上がり、カタールでは主役になれる存在といえる。彼の成長がW杯での日本の躍進の鍵となるといっても過言ではないだろう。

 個人的に、海外組はかなり消耗した状況でW杯に臨まないといけないと思う。逆にJ1リーグはW杯開幕1カ月前の10月23日に終了し、コンディション調整をしながら挑むことができる。狭き門だが、Jリーグの選手たちにもチャンスは残っているし、今回招集されなかったが、海外でプレーする選手はまだ多くいる。W杯で悲願のベスト8以上を成し遂げるための準備と最終メンバー入りに向けてのサバイバルレース。この2つの顔を持つ今回の強化試合にぜひ注目をしてほしい。

文=安藤隆人
写真=高橋学