過去4度のワールドカップ優勝を誇るドイツ代表は、カタール・ワールドカップでどこまで行けるだろうか。18年ロシア・ワールドカップではグループステージ敗退、昨夏のEURO2020年では決勝トーナメント1回戦でイングランドに敗れるなど、最近はビックトーナメントで少し元気がない。

 そんなドイツ代表に再び活気と希望をもたらしたのが、バイエルンを6冠に導いたハンジ・フリックだ。昨年8月に就任すると、そこから8戦8勝。ワールドカップ出場もヨーロッパで最も早く決めている。

 3月の代表戦では、本戦に向けて、選手選考に目を光らせた。26日のイスラエル戦(2-0)を前に「このチームで重要になれるというクオリティを誰が持っているのか、というのを見ていく」とコメントしていたフリックが、試合内容に満足したのが29日のオランダ戦だった。

 結果こそ1-1の引き分けで就任9戦目で初めて勝てなかったとはいえ、それまでの8連勝という結果以上に、世界的トップレベルにある強豪を相手に内容のある試合で引き分けたということがドイツ・メディアから高く評価された。
 
「サッカーをプレーしようとする両チーム同士の非常にいい試合となった。ファンは試合を楽しんでくれたことだろう。後半に2-0としなければならなかった。1-1としたあとオランダはプレッシャーを高めてきたが、それに対抗することができた。インテンシティは非常に高かった。満足している。我々はとても勇敢だった」

 フリックはこのように試合を振り返っていたわけだが、主軸選手のCBニコラス・ジューレ、MFヨシュア・キミッヒとレオン・ゴレツカ、オフェンス陣のマルコ・ロイス、セルジ・ニャブリ、カリム・アデイェミ、ヨナス・ホフマン、フロリアン・ビルツを様々な理由で欠きながら、内容的に納得のいく試合運びができただけに、収穫は大きいといえる。

 CBではフライブルクのニコ・シュロッターベックがポジティブな驚きをもたらした。1対1の強さ、空中戦での安定感に加え、ボールを持った時のクレバーなビルドアップはここ最近のドイツ代表にはなかったものだっただけに、面白い存在となりそうだ。左SBでアピールしたのはホッフェンハイムのダビド・ラウム。攻守に躍動し、特にタイミングのいい攻め上がりとセンタリングの質で攻撃にバリエーションをもたらしていた。
 
 また中盤のポジション争いが激化している点にも注目だ。これまではキミッヒ、ゴレツカ、そしてマンチェスター・シティで主力のイルカイ・ギュンドアンがリードしていると思われていたが、ここにきてバイエルンの19歳、ジャマル・ムシアラの評価がうなぎのぼりだ。

 イスラエル戦とオランダ戦でも、どれだけ相手にプレスを受けてもボールを失わなかった。ドリブルで持ち運べるのも魅力で、パスを出すタイミングも素晴らしい。オランダ戦でトーマス・ミュラーのゴールを生み出したプレーの様にペナルティエリア内に侵入してゴールメイクに寄与することもできる。課題とされていた守備でもコンスタントに競り合いの強さとボール奪取能力の高さを披露。バイエルンでもボランチで起用されるようになったことが、プラスに働いているようだ。

「誰もが、彼にどれほどのクオリティがあるかを見たことだろう。自分たちがボールを保持しているときに、彼が上手く抜け出して、スペースをチームのために作り出してくれるというのはわかっていた。1対1でもとてもいい。ボールを上手く準備することもできる。守備もよかった。素晴らしい」

 指揮官はそう称賛し、バイエルンでも指導した愛弟子を温かい目で見守っている。それは69分の途中交代シーンでも感じられた。

「ハンジからは僕がもっとプレーしたがっていたように見えていたと思うし、僕もそう思っていたけど、『いいプレーをしたし、今は気持ちを落ち着けたほうがいい』と話してくれた。僕にとって大事な監督だし、お互いに素晴らしい関係を持てている」

 ムシアラは交代シーンについてそのように振り返っていた。信頼関係の深さがそこにある。フリックの作り上げるチームへの満足感は選手全員に広がっている。中心選手であるトーマス・ミュラーも「方向は合っている。自分たちを信じる気持ちはいい感じになってきている」と手ごたえを口にしていた。
 
 また、この試合を通してドイツが「『ワールドカップでやはり侮れない相手となる』という印象を取り戻すことができたのが一番大きい」と、RND編集長のハイコ・オステンドルプは指摘するが、そうした空気感を生み出したフリックの手腕たるは特筆すべきものがある。

 日本との初戦を皮切り、スペイン、大陸間プレーオフ勝者(コスタリカ対ニュージーランド)と対戦する本大会へ向けて、6月のネーションズリーグでイタリアとイングランドと対戦できるのは大きい。

「選考メンバーはどんどん小さくなっていく」とフリックは明言している。テスト期間は終わった。

 オランダ戦後に「まだまだボールロストが多すぎる。自分たちのプレーにもっと落ち着きをもたらす必要がある。そのための各選手のポジションもいつも理想的にはなってはいない。90分間自分たちのパフォーマンスを出し続けなければならないというのはわかっている」と改善点を明らかにしていた指揮官。ここからは熟成期間だ。

 本戦に向けてどのようなチーム作りを見せるのか。その手腕に期待したい。

文●中野吉之伴

【キリンチャレンジカップPHOTO】日本4ー1パラグアイ|森保ジャパン4発!ブラジルとの大一番に弾みつける勝利