6月6日に開催された日本対ブラジルの親善試合は、ブラジルがネイマールを始めヴィニシウス・ジュニオールやハフィーニャ、カゼミロ、ダニエウ・アウベスらベストメンバーで来日したため、チケットは“プラチナ・ペーパー"となり、雨の降りしきる生憎の天候にもかかわらず国立競技場には実に6万3638人の観客が詰めかけた。
言うまでもなくブラジルは現在FIFAランク1位で、W杯優勝5回の「サッカー王国」である。それが2002年の日韓W杯以来20年ぶりに来日ということもあってチケットは早々に売り切れた。
それというのもJFA(日本サッカー協会)は、4月に入るとJFAに登録している第2~4種などの年代別選手、女子サッカー、さらには40歳以上のシニア登録のチーム代表者に、各都道府県協会からチケットの先行販売の連絡をしたからだった。
東京都からの連絡を受け、私が所属する東京都リーグのオーバー60チーム内で観戦希望者を募ったところ、かなりの数の観戦希望者がいたものの、全員分のチケットを購入することができた。
コロナ禍で代表戦がなかなか開催できず、開催しても無観客試合だったり、W杯予選は地上波テレビで放映されなかったりと、ここ2年で日本代表を取り巻く観戦環境は激変した。試合を開催すれば観客が集まるという時代ではなくなった。
加えて欧州ネイションズリーグの創設もある。本来なら日本もブラジルも、ヨーロッパでW杯本大会を戦うヨーロッパ勢とスタイルの似たチームとテストマッチをしたかったはず。しかしネイションズリーグの誕生によりヨーロッパ勢との対戦はほぼ不可能になった。このため日本もテストマッチは南米、北中米、アフリカ勢に限られ、国内で試合を開催しても観客動員(コロナによる入場制限はあったが)は苦戦を強いられてきた。
そんな苦しい時期を乗り越えて、入場制限のない国立競技場でのブラジル戦である。JFAの努力の甲斐もあって、久々に6万人超の観客が国立競技場に詰めかけた。
しかし、満員の観客席を見ると、座席の狭さを改めて感じてしまった。例えば試合中にトイレへ行こうとしたら、座っている列の観客全員に立ってもらわないと移動できない。昨年の東京五輪は無観客試合だったこともあり、さして問題にならなかったが、今後の利用を考えると陸上トラックを撤去するかどうかも含めて幅広く意見を募り、議論すべき問題だろう。
試合はネイマールのPKによりブラジルが1-0の勝利を収めて連勝を伸ばした。日本も善戦したが、残念ながら決定機はゼロ。ゴールの可能性としてはカウンターが有効なのは言うまでもないが、ブラジルはしっかりと対策を取ってきた。
伊東純也にはスペースへ飛び出す、スペースそのものを与えず、足元へのパスを選択させることで彼のスピードを封じにきた。古橋亨梧にはマルキーニョスとエデル・ミリトンのCBがしっかりと対応し、ミドルシュート1本に封じた。
チッチ監督はロシアW杯のラウンド16でメキシコを2-0で下した後、日本対ベルギー戦を見て日本が2-0とリードしたため、準々決勝では日本との対戦を予想したと言った。結果はご存じの通り日本はベルギーに逆転負けしたが、日本がW杯でジャイアントキリングを起こすにはカウンターが有効な武器になることは言うまでもない。
攻守の切り替えの速さや前線からのプレスによるショートカウンターが強豪国に対して有効なのは事実だが、そうしたリスクにもブラジルは、チッチ監督は対処しようとしているのかもしれないと6日の試合を見て感じてしまった。「サッカー王国」として20年もファイナリストから遠ざかっているだけに、万全を期すのは当然だろう。
そしてドイツのハンジ・フリック監督、スペインのルイス・エンリケ監督も同じように考えているのなら、それを上回る“サプライズ"を日本は用意しなければならなくなる。それは“個の力"なのか、それとも“組織力"なのか。ブラジル戦を取材して、楽しみ半分、不安半分の森保ジャパンだった。
【文・六川亨】