日本がブラジルに敗れたことを説明するには、2つの視点から考察する必要がある。守備面では、日本はプレッシングもリトリートも非常に良かった。遠藤航とリシャルリソンとの間の軽微な接触プレーがPKと判定され、せっかくの頑張りが台無しとなったが、ワールドカップでも優勝候補の一角に挙げられているブラジルに僅差の敗戦は日本が成長している証であり、ポジティブな結果だ。

 しかし、もう一つの視点である攻撃面では、物足りなさを感じた。守備をすることが精一杯で、攻撃の糸口をほとんど掴むことができなかった。日本のチャンスはほぼセットプレーに限定されていた。

 もちろん日本がW杯でスペインやドイツのような格上のチームと戦うには、粘り強い守備で対抗する以外にない。セットプレーからでも数少ないチャンスをモノにすることができれば、それが自信になり、勝点の獲得にも繋がる。それだけにブラジル戦における日本のボールを持っていない局面での動きは、評価されて然るべきだ。パラグアイ戦よりもベストに近い布陣で臨み、全選手が森保一監督仕込みのプレッシングを見せた。
 
 特筆に値するのは約束事がしっかりできていたことだ。南野拓実はダニエウ・アウベスを、伊東純也はギリェルミ・アラーナをそれぞれケアし、古橋亨梧はフォアチェックをかけるのではなく、カゼミーロへのパスコースを切り、相手の攻撃を限定させた。

 プレッシングのエキスパートである田中碧はフレッジを封じ、インサイドハーフのもう一角の原口元気は、パラグアイ戦で着ていたアーティストのコスチュームから、守田英正ばりのレンガ職人のオーバーオールに着替えるというサプライズを披露。ルーカス・パケタをマークしながら、カゼミーロにボールが渡ると素早い寄せを見せていた。その背後では遠藤が、ネイマールが2ライン(MFとDF)間でボールを受けた時に備えてカバーリングに目を光らせていた。

 ブラジルはこの日本の忠実かつ勤勉な守備に手を焼いた。ネイマールはゴールから遠ざかってプレーする機会が増え、エデル・ミリトンとマルキーニョスはロングボールを蹴らざるを得なくなり、その結果、ボールロストを繰り返した。

 サイドでもベテラン、長友佑都がヴィニシウス・ジュニオールを封殺。中山雄太はラフィーニャを苦しめた。さらに板倉滉はネイマールへのパスコースを限定しながら、右サイドが突破されそうになるとすかさずカバーに回るなど、高い危機察知能力と戦術理解力を見せた。結果的にブラジルも前半は、ロングレンジのシュートかセットプレーからしかチャンスを作ることができなかった。

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 日本のプレッシング戦術は機能していた。ブラジルは苦戦していた。しかし問題はプレスすることで完結してしまい、その次のアクションである敵陣でボールを奪うまでには至らなかったことだ。

 日本はもともと縦志向の強い攻撃を強みにしている。この日も自陣でボールを保持してもテンポがなかなか上がらず、自ずと技術に勝るブラジルに優位に試合を進められ、権田修一が守るゴールに迫られる結果となった。

 そんな中でも、長友のオーバーラップや伊東のクロスなどいつものようにサイド攻撃に活路を見出そうとしたが、南野が低調なパフォーマンスに終始しブレーキに。72分の三苫薫との交代は当然の判断だった。森保監督が後半頭から、守備が手薄になるリスクを冒してでも(実際、フレッジにそこを突かれた)、鎌田を投入したことも理解できる。しかし日本が攻勢を強めようとしていた矢先に、PKを献上し、万事休した。
 
 一方のブラジルも、勝利を手にするために多くのリスクを冒さなければならず、それは後半、攻撃的な選手を立て続けに投入したチッチ監督の采配にも表れていた。ブラジルのような強豪国にもプレッシング戦術が有効だったことは日本にとっては大きな自信になったはずだ。

 しかし同時に課題も明確になった。W杯開幕まで5か月余りの間にそこからボールを奪い、良い攻撃に繋げるまでの戦術的練度を高めていかなければならない。日本は善戦した。しかし攻撃の手数が不足し、セットプレー頼みの姿勢が余りにも強かったのもまた事実だ。

文●ダビド・フェルナンデス(ラジオ・マルカ)
翻訳●下村正幸