ついに幕を開けたカタール・ワールドカップ。森保一監督が率いる日本代表は、いかなる戦いを見せるか。11月23日、初戦の相手はドイツ。ベスト8以上を目ざすサムライブルー、26の肖像。今回はMF柴崎岳(レガネス)だ。

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 青森県の出身で、地元の野辺地SSSという街クラブでサッカーの楽しさを学んだ柴崎岳。高校サッカー屈指の強豪である青森山田高では、1年生にして10番を背負った。

 高校2年生で“常勝軍団”として知られる鹿島アントラーズと仮契約。初めて目にした時も、視野の広さやボールを扱いながらのルックアップ、正確なパスなど、特別な才能を感じた。

 ただ、中盤の選手にしてはあまり動かないという印象も受けた。エレガントだが、ガツッとしたところがないクラシカルな司令塔のイメージそのものだが、柴崎なりのビジョンに裏打ちれるものでもある。

 当時から周りの状況をよく観察して、無駄なことをしない選手だった。高卒ルーキーとして鹿島で1年目から11試合に出場した柴崎は、2年目にブレイク。2012年のJリーグ・ベストヤングプレーヤー賞を獲得し、その時のスピーチを覚えているファンも少なくないだろう。
 
「今年のヤングプレーヤー賞を受賞にするに値する選手は0人でした。世界に目を向ければ、ACミランのエル・シャーラウィ、レアル・マドリードのヴァラン、サントスのネイマール。彼らのような活躍をしている選手がいるかといえば、そうではありません。彼らに一歩でも近づき、日本を代表する選手になっていかなければ世界とは戦えない」

 そうした意識の高さを裏付けるように、柴崎は鹿島で堂々と振る舞いながら、誰よりも勝者のメンタリティを持つ小笠原満男の隣で成長を続けていく。

 鹿島で活躍を見せる一方で、代表で頭角を現すのは遅めだった。ロンドン五輪のメンバーに選ばれず、ザックジャパンでも2012年の親善試合で呼ばれたが、出番はなく、東アジアカップ(現在のE-1選手権)は体調不良で辞退に。

 なかなかチャンスをモノにできないまま、W杯を前にした2014年の国内合宿でもアピールが叶わず、ブラジルW杯のメンバーには選ばれなかった。

 本格的にA代表入りしたのはアギーレジャパンだったが、14年10月にシンガポールで行なわれたブラジル戦で、ネイマールを擁するブラジルに0-4の惨敗を喫した。そこで改めて痛感した世界との距離感。一歩でも近づくために、スペインでの挑戦を続けてきた。
 
 今でも、がむしゃらにハードワークするよりは、周りをよく見ながらベストなプレーを見出していくスタンスだが、味方を活かすという部分で、さらに成熟してきているのはピッチ内外の振る舞いからも伝わってくる。

 個人のキャリアを振り返れば「こんなにもうまく行かないものかな」という正直な感想だが、日本代表がカタールW杯で可能な限りの結果を残し、次に繋げていく役割に対する自覚には強いものを感じる。

 本番直前にUAEで行なわれたカナダ戦では、キャプテンマークを巻いて先発した。「特別なものだと思います」と語った柴崎は、それが森保一監督からの信頼の証であるという。
 
 田中碧(デュッセルドルフ)と中盤で上手くバランスを取りながら、相馬勇紀(名古屋)のゴールをアシストするなど、柴崎らしい持ち味を発揮していたが、そうしたことをポジティブにもネガティブにも受け取ることなく、本大会でベストのパフォーマンスを出すために、何をしていくべきかに集中している。

「現代ではゲームメイカーという立ち位置よりも、チーム全体としてどうマネジメントしていくか、みたいな。そのなかで1つポイントになるのがボランチというポジションの認識でやっていますけど、周りと連係しながらプレー選択の部分でチームが長い目というか、その場限りのシーンだけじゃなくて、そういうのを思い描けるような声かけはしていきたい」

 前回のロシアW杯では長谷部誠とともに、日本のベスト16進出を支えた柴崎が、今大会ではどういった働きを見せるか。ただ、そこで見えるものは、その場の頑張りだけでなく、試合に向けて日頃の取り組みからやってきたことのエビデンスである。

文●河治良幸

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