キリンカップ決勝戦のチュニジア戦、0ー3という結果は残念です。課題が見えた試合で、攻撃の課題がより大きかったと感じています。

 前半は、攻撃の形が右サイドからしか作れなかった印象がありました。伊東純也選手の縦の突破に加え、ハーフスペースに入ると長友佑都選手や原口元気選手が外に出るなど、右サイドのローテーションは上手くいっていました。左サイドは南野拓実選手が立ち上がりこそ裏抜けが何回かありましたが、それ以降は外に張ることも減り、ローテーションは見られませんでした。

 後半に入ると、三笘薫選手を投入し、南野選手のポジションを中に入れて左サイドの形が変化。真ん中では、同じく途中交代の田中碧選手がボランチに降りて遠藤航選手とダブルボランチ気味となりローテーションするなど、工夫しようとする様子は見られました。

 ただ、ペナルティエリア内にほとんど入れませんでした。私の集計で、前後半合わせて11回。その要因は中に人が少ないことも挙げられます。日本代表は両ウイングを起点に仕掛けられるのですが、中で点を取る人が、質・量ともに足りない。浮き球のクロスはほとんど通っていません。
 
 サイドの選手がボールを持っている時に、「逆サイドのウイングやインサイドハーフの選手たちは、必ずペナルティエリアに入りましょう」といった約束ごとを作る必要があると思います。もしあるとしても、現象として明らかに入れていないので、徹底させることですね。

 ペナルティエリア内に入る人数として、3人とか4人以上とか具体的な数字を示す。センターフォワードが1枚しかいない今のシステムの中で、3人、4人と入っていくのは誰なのか。詰めていかないと、難しいと思います。

 今回に限らず、ワールドカップのアジア最終予選でもクロスボールに対し4人、5人と入ってくるシーンはあまり見られませんでした。チームの約束というより、リスクマネジメントを考えているかもしれません。ドイツは直近の試合でイタリアを相手に5点を決めましたが、最初のゴールも3点目も中に4人いました。それくらいの迫力が見たいですね。

 また、サイドからの突破やクロスへの対応ももちろん大事ですが、中央からも崩せるようになる必要もあると思います。相手からすると、中を固めて外に出させて、そこで対応すればいいとなってしまうので。
 
 4-1で勝利したパラグアイ戦は、色んなパターンで得点できました。外からも、真ん中からも、やり直して3人目での崩しも。どの試合でも様々な形で崩す必要がありますし、チュニジア戦でも中からの崩しを見たかった。

 チュニジアの真ん中が堅いとは、個人的には思わなかったです。ヨーロッパや南米の試合と比べれば、全然堅くない印象でした。あの守備をものすごく堅いというならば、スペインやドイツは崩せません。中央での崩しのパターンを作らなければワールドカップでベスト8は難しいかもしれません。

 一方の守備では、3失点したものの、ペナルティエリア内に入られたのが前半は1回、前後半合わせても3回のみでした。遠藤選手を中心にミドルゾーンでボールを奪う回数が多く、ディフェンスラインの背後を突かれなかった。裏のケアはしっかりできていた印象です。個人のミスで失点はしました。ただ、チーム組織として守備が破綻していたかというと、そうではないと思います。

 ペナルティエリア内に入られた回数は、パラグアイ戦、ガーナ戦ともに2回。相手からしてみたら「全然日本に対して攻撃できない」と感じるぐらいの守備でした。
 
 チュニジア戦は3失点してしまったので、高く評価することはできません。ただ、今後改善できる部分だと思います。もう少し、選手間のコミュニケーションなど、ちょっとしたチームとしてのコンセプトを修正するだけで防げる。修正という意味では、本戦まで5か月あることを考えると、十分修正できる範囲だと思います。

 とはいえ、それは対強豪となると違いますよね。特に、6月の4試合を通してみると、ブラジル戦で世界は遠いと感じました。前半にペナルティエリアに入られた回数は12回、前後半合計だと23回にも及びます。ここまでの差があるかと衝撃的でした。

 スコアこそ0-1でしたが、「PKのみの1点に抑えた」とか、「それ以外はよく身体を張った」「センターバックがネイマールにもしっかり行けていた」という話ではないというくらい、差があり過ぎると見せつけられた試合でした。
 
 ブラジルは親善試合ということも含め、選手の状態は7割か8割程度。日本はブラジルとの試合は貴重なので真剣に臨んだ。それにもかかわらず、「大人と子どもか」というぐらいの感じで、いなされていたような気がしました。

 攻撃面でも、ペナルティエリアに入れたのは3回だけでした。「90分でペナルティエリア3回」はめったにありません。「枠内シュート0」は、結構あります。Jリーグでもありますし、ヨーロッパのビッグマッチでもあります。ただ、「90分でペナルティエリア3回」はJリーグの首位と最下位のチームが戦っても出ないような数値です。強豪との対戦で、それが浮き彫りになったわけです。

 シュートの質よりもっと手前の「入るところすら課題だらけ」という点は、フォーカスすべきだと思います。

 組織としては難しいかもしれませんが、個人のレベルをワールドカップまでに上げることは可能だと思います。実際に伊藤洋輝選手はアジア最終予選までは選ばれておらず、短期間で成長してここまで来た。他の選手でも同じようなことは、十分ありえると思います。

 組織は個によるので、個のレベルが上がれば組織のレベルも上がる。個人でレベルを1段階、2段階上げてアップデートすることは、この半年の目ざすべきところかなとは思います。

 ヨーロッパで活躍している選手たちは、ほどなくして新シーズンを迎えます。鎌田大地選手のように、ヨーロッパリーグで優勝する選手もいます。来季は鎌田選手を筆頭に、チャンピオンズリーグに出場できそうな選手もいますし、彼らがパワーアップして還元してほしいですね。
 
【著者プロフィール】
杉崎健(すぎざき・けん)/1983年6月9日、東京都生まれ。Jリーグの各クラブで分析を担当。2017年から2020年までは、横浜F・マリノスで、アンジェ・ポステコグルー監督の右腕として、チームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも大きく貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、プロのサッカーアナリストとして活躍している。Twitterやオンラインサロンなどでも活動中。

◇主な来歴
ヴィッセル神戸:分析担当(2014~15年)
ベガルタ仙台:分析担当(2016年)
横浜F・マリノス:アナリスト(2017年~20年)

◇主な実績
2017年:天皇杯・準優勝
2018年:ルヴァンカップ・準優勝
2019年:J1リーグ優勝

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