「自分のミスもあるし、ミスからの失点が4試合全てで出てしまっている。課題は明確かなと。(森保一)監督も言っていたが、ビルドアップは絶対に日本には必要だし、持てるところを持たないと勝てない。そのミスをどれだけなくすか。1つのミスが起きた時に2つ目、3つ目が起きないようにみんなでカバーし合わないといけないと思います」
6月14日に行なわれたキリンカップサッカー決勝のチュニジア戦で、日本は0-3の完敗を喫した。全失点に絡んだキャプテンの吉田麻也(サンプドリア)が沈痛な面持ちを浮かべた通り、2022年カタール・ワールドカップ(W杯)アジア最終予選で堅守を誇った日本守備陣の綻びが大いに目立っている。
6月2日のパラグアイ戦(4-1)では新戦力・伊藤洋輝(シュツットガルト)のミスからカウンターで失点。6日のブラジル戦(0-1)ではネイマール(パリSG)に左サイドを突破され、マークがズレて中が空いたところを遠藤航(シュツットガルト)がカバーしきれず、リシャルリソン(エバートン)をエリア内で引っかける形になり、PKを献上。これをネイマールに決められた。
10日のガーナ戦(4-1)では相手のハイプレスに遭った山根視来(川崎)がパスミス。最終的にジョーダン・アユー(クリスタル・パレス)に一発で仕留められた。そして直近のチュニジア戦ではミスが頻発。とりわけ2失点目は、相手のロングボールに対し、吉田が板倉滉(シャルケ)、シュミット・ダニエル(STVV)との間で対応に迷ったところをユセフ・ムサクニ(アル・アラビ)に入れ替わられる自滅状態となり、そこから失点につながった。
「まずコミュニケーションを取ること。後ろから見えているほうがどうするべきかを伝えてあげるのが一番プレーしやすい。そこをしっかり伝えるところはやり直さなければいけない」
最後尾のシュミットは反省しきりだったが、W杯5か月前の現段階で基本中の基本を徹底しなければならない状態というのは厳しい。ただ、そこに目を向けて、再出発することもまた重要だ。
吉田が言う「ビルドアップが必要」という意見はチーム全体の共通認識だろうが、W杯になればある程度は持たしてくれても、中盤からグッとプレスをかけてボールを刈り取り、一気にカウンターを仕掛けるチュニジアのような国もある。日本のダイナモ・遠藤が狙われたら苦境に陥ることを、チュニジアは改めて教えてくれた。
ドイツやスペインが相手ならば、そもそもボール支配率で上回れない。そうなった時、日本はどこまでビルドアップにこだわるべきかという難題にぶつかる。2010年の南アフリカW杯のような超守備的戦術がいいとも言えないが、甘んじてそれを受け入れなければいけない時間帯や状況もある。持つべきか、引くべきかというメリハリをしっかりつけられなければ、大舞台で無失点という結果は残せない。
「ワールドカップという大きな大会は、もう失点することが一番ダメ。僕たちがゼロで長い時間プレーできればできるほど、スペースが空いてくる。耐えられる力が必要」と、フランクフルトでヨーロッパリーグ優勝を経験した鎌田大地も今一度、強調する。
ブラジル、チュニジアを相手に枠内シュート“ゼロ”という日本攻撃陣の現実をしっかり認めたうえで、まずは相手を跳ね返すこと。理想のビルドアップよりも無失点で乗り切ること。そこから出直すことも一案ではないか。
もう1つ目を向けるべきなのが、守備陣の構成だ。チュニジア戦で代表119試合目だった吉田が、これまで長くCBの軸を担ってきたのは周知の事実。だが、本人が「サッカーではワンプレーで人生が変わるし、進退を失ってしまう」と認めるように。1試合でこれだけミスが続くようだと、現体制の再考に踏み切らざるを得ないかもしれない。
チュニジア戦のシャレル・カドリ監督も「日本に弱点があるとしたら守備。ディフェンスは難しい状況に置かれるとミスをする。今回は特に背後にボールをつけることに注力していた」と指摘していた。W杯対戦国も同じような攻め方をしてくる可能性が高まっただけに、何らかの改善を模索すべきだ。
幸いにして、板倉の成長は著しいし、伊藤も粗削りで不安定感もあるがポテンシャルは非常に高い。そこに冨安健洋(アーセナル)が怪我から戻って万全の状態で加われば、彼らで回してもいいのかもしれない。
もちろん、吉田が来季もサンプドリアに残留して試合に出続ける、あるいは別の欧州クラブに赴いてコンスタントにピッチに立ち続けるといったことが可能なら、コンディションは今よりも上がってくるはず。経験値では頭抜けているのだから、そうなれば安心して起用できるし、そうなってほしい。彼には最善の道を選択してもらいたい。
吉田のみならず、怪我がちの酒井宏樹(浦和)、右サイドで新境地を開拓したものの、間もなく36歳という年齢が気になる長友佑都(FC東京)らの動向も不安視される。板倉をCB起用する場合には、遠藤の代役もメドが立たない。4試合が組まれた6月シリーズで出てきた守備の課題を一つひとつ検証し、改善していかなければ、本当にカタールW杯で惨敗ということも考えられる。
最悪のシナリオを回避するためにも、今シリーズ、特にブラジル戦とチュニジア戦で直面した守備面の問題点を洗い出すことが肝要だ。振り替えれば、日本がベスト16入りした2002年、2010年、2018年のW杯前は順風満帆ではなかった。むしろこうやって問題が噴出した時のほうが本番では好結果が得られた。
そんな過去も踏まえつつ、強豪相手に無失点で乗り切る鉄壁な守備を構築すること。その術を徹底的に探り、実践すること。森保監督と吉田ら選手には気持ちを切り替えて、全力で前に進んでほしいものである。
取材・文●元川悦子(フリーライター)
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