●日本代表対策を徹底したチュニジア代表

サッカー日本代表は14日、キリンカップサッカー2022でチュニジア代表と対戦し、0-3で敗れた。試合を通してチュニジア代表の術中にハマった日本代表は、後半にミスから失点を重ねた。南アフリカワールドカップやロシアワールドカップのように、直前の戦略変更が良い結果をもたらす前例はあるが、今回ばかりはそれも難しいかもしれない。(取材・文:元川悦子)

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 2022年カタールワールドカップ(W杯)を5カ月後に控えた日本代表にとって、14日のキリンカップ決勝・チュニジア戦(吹田)はチームの現在地を問われる重要な一戦だった。2002年日韓W杯から20年の節目の日に同じ大阪で同じ相手と対峙する「因縁マッチ」を制して、6月4連戦を実りある形で終えたかった。

 森保一監督は今回も吉田麻也と遠藤航の両大黒柱を先発させた。他のメンバーは試合ごとに入れ替わったが、彼らだけは4戦連続先発。それだけ確固たる信頼を寄せているということ。だが、肝心な2人がチュニジアに狙われることになるとは想像しなかっただろう。

 序盤は決して悪い展開ではなかった。日本代表がボールを保持し、右サイドの伊東純也を中心に繰り返しチャンスも作った。だが、「日本はサイド攻撃が非常にうまい。我々はそれに対応するための練習を積んできた」とシャレル・カドリ監督が話したように、外からのボールには必ずと言っていいほど屈強なDF陣が対応していた。

「中盤の試合だった」とも敵将は語ったが、日本のダイナモである遠藤航のところにマークをつけ、自由を奪うことを徹底させた。それも影響し、スムーズなビルドアップをさせてもらえない。右インサイドハーフの原口元気が敵陣深い位置まで走り込んでもボールが出てこず、左の鎌田大地もボランチ脇のサポートに入る場面が目立つ。となると、攻めはサイド一辺倒になりがちだ。こういった形はチュニジア側が狙っていた通りだったのかもしれない。

●吉田麻也・遠藤航に依存したツケ

 鎌田のリスタートから南野拓実がフリーでシュートに行った前半27分の場面、伊東の右クロスに鎌田がファーから飛び込んだ35分のシーンと、この2つの決定機をモノにできていたら、もちろん展開は変わっていた。が、決めきれなかったことで、相手に希望を与えてしまったのは確かだ。

「我々の強さは秩序立った守備ができること。日本は時間が経つごとにスペースができるので、そこを突くことを考えた」とカドリ監督が強調したように、前半は粘って耐え、日本代表が落ちてくる後半に勝負に出るという思惑だったということだろう。

 案の定、日本代表は後半の早い段階で失点してしまう。後半9分に吉田がFWケニシを倒したのは痛かった。「あれは個人的なミス」とキャプテンは話したが、この日の彼は明らかに疲労困憊状態。森保監督が吉田と遠藤に依存したツケを払わされたという見方もできる。これをロムダンに決められると、日本代表は大きなダメージを受けた。

 指揮官は三笘薫という切り札をいち早く投入し、局面打開を試みる。三笘が2人3人とドリブルで引き付けるが、作った数的優位を生かしきれない。中に折り返そうにもDF陣が確実にチェックに来ていたし、得たCKもゴールにつながらない。

 たまにクロスが通っても、味方同士の連係や意思疎通が不十分なのか、古橋亨梧ら攻撃陣がシュートの打てるポジションに入り込めていない。そういったバラバラ感が目についた。

 試合後に三笘はこう振り返る。

●三笘薫と鎌田大地が語る改善のヒント

「相手が複数人いてもそこに行くのか、うまく周りを使いながらチームとして攻撃に人数をかけていくのかってところの判断は自分自身の課題でもありますし、チームとしてもそう。点を取りに行くバリエーション自体が少ないし、シュートもあまり打てていない。自分が行ってカウンターを受けるという流れは本大会でやっていけない。チームとしての攻めの決まり事を持たないといけないと感じています」

 再三再四、チャレンジしてゴールに結びつけられなかった三笘が本音を吐露したが、2週間以上の活動期間がありながら、重要な部分のすり合わせができていなかったのは、やはり気がかりな点と言っていい。

 伊東と三笘という両サイドが日本代表の武器なのは最終予選から分かっている。彼らの個の力で大苦戦したアジアを突破し、7大会連続W杯出場を果たしたのも事実だ。しかしながら、それだけで世界基準の相手からゴールを奪えないのも確か。サイドでの数的優位をいかにして得点に結びつけるかが本大会に向けてのポイントになってくる。

 その重要課題を貴重な6月シリーズの間に解決できなかったことは、今後に暗い影を落としかねない。攻撃の手詰まり感が後半31分、そしてロスタイムのミスからの連続失点につながったと言っても過言ではないだろう。

 0-3というスコアは敵将が思い描いた通り、それ以上の結果だったはず。20年前のリベンジを果たされ、日本としては不安ばかりが募る結末になってしまった。

 6月4連戦を振り返ってみると、W杯出場国であるブラジル代表とチュニジア代表からノーゴールだった点はやはり見逃せない。枠内シュート数はどちらも0本と厳しい状況だ。これではドイツ代表やスペイン代表、この日出場権を獲得したコスタリカ代表を撃破するのは至難の業と言わざるを得ない。

●過去のようなミラクルが期待できない理由

「今日もチャンスになっているシーンは奪ってからのカウンターだった。ブラジル戦もそう。いい守備からいい攻撃っていうのは相手が格上になるほどそういう戦いになる。ただ、うまく行っていない時間帯はハイプレスからロープレスに変えるとか、チームとしてもっとうまく変えられると思う。W杯のような大きな大会は失点することが一番ダメ。僕らが失点ゼロで長い時間プレーできればできるほどカウンターのスペースが空いてくる」

 鎌田がこうコメントした通り、ショートカウンターに望みを託すのであれば、もっと精度を高め、フィニッシュに持ち込む鋭さと迫力をチームとして身に着けるしかない。普通にサイドからクロスを入れても、W杯出場国の守備陣は崩れない。チュニジア代表のように高さのある最終ラインであれば、空中戦でもそうそう勝てない。リスタートもなかなかチャンスに結びつかないだろう。

 ゆえに、彼が指摘した通り、カウンターを磨くことは有効な手だてかもしれない。三笘も指摘したように、チームとしてもっと細かい部分を詰めて、サイドと中央の使い方を明確にしておくことも肝要ではないか。

 ただ、その作業が次の9月の国際Aマッチデーまでできないのは頭が痛い。しかも11月の直前合宿もほとんどない。16強入りした2010年南アフリカ、2018年ロシアの時のように直前の戦術変更で結果を出すようなミラクルは期待できないということになる。

 森保監督はここから時間との戦いを強いられるが、今は数多くの問題点が出たことを前向きに捉えるしかない。日本代表の現在地を痛感させられたチュニジア戦をどう今後に生かすのか。そこにフォーカスするしかないのだ。

 いずれにせよ、伊東と三笘のサイド攻撃一辺倒では点が取れない。その現実を直視しなければ何も変わらない。世界にも通じる彼らの打開力を生かしつつ、ゴール前の迫力やバリエーションを増す術を早急に見出すこと。それを強く求めたいものである。

(取材・文:元川悦子)

【了】