●ワールドカップで待ち受けるは悲劇か歓喜か

サッカー日本代表は6月の親善試合4試合を2勝2敗という結果で終えた。11月に開幕するカタールワールドカップに向けて、日本代表は何を課題として見つけ、何を収穫として持ち帰ったのか。(文:ショーン・キャロル)
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 ワールドカップイヤーに行われる親善試合には、より徹底的な分析の目が向けられるのが毎回のことだ。観戦者は普段以上に熱心に何らかの結論を引き出したり、改善が必要な部分を指摘したり、監督や選手らが現在やっていることに対する代案を提示しようとしたりする。

 日本代表が戦ってきた今月のパラグアイ代表戦、ブラジル代表戦、ガーナ代表戦、チュニジア代表戦も例外ではなかった。ドイツ代表とスペイン代表の巨大な存在感が影を落とす中、ファンにもメディアにも、そしてもちろん森保一監督自身にも、考えるべき材料を大量に与えてくれた4試合だった。

 これまで日本代表が出場した6回のワールドカップ本大会も、それぞれ異なる空気感に包まれていた。各大会に向かう上での様々な周辺事情に応じて、盛り上がりや期待のレベルは大きく異なっていた。

 1998年には国全体が、とにかくフランスでの大会についに参加できることだけで幸せだった。2002年は開催国として戦う一世一代のチャンスとなった。ドイツ大会は、代表チームが期待に応えられず後退するという経験をファンが味わったおそらく最初の機会だった。かなりのスター軍団だったチームがグループステージで不甲斐なく大会を終えてしまった。

 2010年の南アフリカでは、サムライブルーは大会前の想像をはるかに上回る結果を残した。2014年は逆に、力のピークにあった選手たちが大舞台に萎縮してしまい、わずか1ポイントしか獲得できず涙ながらにブラジルを後にした。2018年は直前の監督交代もあり悲劇的な大会が予想されたが、西野朗監督と選手たちはまたも下馬評を覆して準々決勝進出目前にまで迫った。

●ドイツ「と」スペイン。日本代表は終わったのか?

 カタール大会の抽選が行われる前までは、今回のチームにはチャンスがあるのではないかという、ある程度の期待感もあった。だが抽選のボールが取り上げられ開かれると、暗雲が立ち込めてきた。

 ドイツとスペイン。

「ドイツ」と「スペイン」。ドイツ「と」スペイン。過去3大会の優勝チームのうち2つ。サッカー界の紛うことなき超大国であり、今回もやはり世界王者に戴冠する有力候補として大会に臨む。日本代表は終わった、とほとんど誰もが考えた。

 だがもちろん、ピッチ上ではいつも予想通りに事が運ぶとは限らない。コスタリカ代表も決して草刈り場とはならないことを忘れるべきではないし、日本代表がこれまで味わった中で最も厳しいグループであることは明らかだとしても、森保監督のチームがドーハへと旅立つ前から大会が終わってしまったと考えるのは馬鹿げたことだろう。

 2006年ワールドカップでは共にグループステージ全勝を記録したドイツ代表とスペイン代表だが、直近3大会ではいずれも困難を味わってきた。ドイツ代表は2010年大会でセルビア代表に敗れ、2014年大会ではガーナ代表とドロー。ロシア大会ではメキシコ代表と韓国代表に敗れてグループ最下位に終わった。

 スペイン代表は南アフリカ大会でスイス代表に苦杯をなめ、ブラジル大会ではオランダ代表とチリ代表に敗れてグループステージ敗退。前回もポルトガル代表、モロッコ代表と引き分けていた。今年の冬に、彼らが苦戦した相手として日本代表が加わることが不可能だと考える理由はない。

●「一対一のところは強豪相手にやれる」

 パラグアイ代表戦とガーナ代表戦では、攻撃陣においては森保監督の手元に豊富な選択肢があることが見て取れた。堂安律も鎌田大地も三笘薫もファイナルサードでそれぞれ確かな力を披露し、中盤を支配した遠藤航も改めてチームにとって欠かせない存在となっていることを印象付けた。

 シュトゥットガルトの男はパラグアイ戦4日後のブラジル戦でも粘り強い戦いぶりを見せてくれた。ネイマールらを擁する相手に対し、日本のチーム全体がフィジカルで意欲的に勝負する姿勢を見せたことが非常に印象的な試合だった。日本代表がトップレベルの相手を苦しめるためにはそういった気概こそが絶対に不可欠であることを、遠藤自身も試合後に強調していた。

「一対一のところは日本代表も強豪相手にやれると思います。相手も嫌がっていたし、しつこさは日本らしさでもある。ブンデスでもこだわってやってきたことを出せた。ワールドカップに向けても、そこが重要なのは間違いないと思います」

 神戸で行われたガーナ代表戦でもその激しさを見せることはできていた。フレンドリーマッチらしからぬ雑な試合でタックルが飛び交う中、南野拓実も接触プレーを躊躇せず勝負していた選手の一人であったのは喜ばしいことだった。久保建英はついにA代表での初ゴールを記録し、伊東純也と前田大然も交代出場から貢献。彼らもやはりチームの一員であることを森保監督にアピールしていた。

●三笘薫・久保建英・堂安律を使うべき

 だがパラグアイ代表とガーナ代表にプレゼントしてしまった失点は不安を感じさせるものではあったし、吉田麻也にとって悪夢となったチュニジア代表戦の後半にも守備面で心配な場面が何度か出てきてしまった。本番ではこういった自滅的ミスは許されない。グループEで戦う270分間の中ではわずかな失敗すら致命的な結果を生むことになりかねない。

 一方で攻撃面では、今回の各試合を通して、日本代表は前線の強力な武器を活用することに全力を注いでいくべきであることが示された。私自身としては、森保監督にとって無難な選択肢である南野や浅野、伊東ではなく、ボール扱いに創造性を発揮できる三笘、久保、堂安を使っていくべきだと思う(伊東はインパクトをもたらす交代選手として使いたい)。

 雨の大阪でチュニジア代表に敗れ、6月シリーズは尻すぼみに終わった。だが1試合悪かったことを過度に立てる必要はない。日本代表が積極的にボールを持つスタンスから相手に仕掛けていく姿勢を見せ、守備面での致命的なミスを避け、デュエルに物怖じしない戦いを続け、そしてもちろんどんなチームにも必要となる多少の幸運にも恵まれたとすれば、11月にも戦えるチャンスは十分に出てくるはずだ。

(文:ショーン・キャロル)

【了】