2022年6月、サッカー日本代表戦を久々に見た人も多くいるはず。なぜなら、あのブラジルとの対戦があったからである。FIFAランキング1位であり、FIFAワールドカップ(W杯)最多優勝回数を誇るブラジルとの対戦を含め、日本代表は4つの国際親善試合(キリンチャレンジカップ、キリンカップ)に挑んだ。
2試合目となったブラジル戦(6月6日)は0-1と敗北はしたが、勝利の可能性を見せてくれた選手たちに拍手を送りたい。もちろん、負けに対する拍手ではない。世界の強者と戦うための術を見せてくれたことに対してである。結果に対しては、みんなでブーイングを送りたいと思う。しかし選手たちは、日本がある程度W杯で戦えるのではないかと希望を見せてくれた。そう、3試合目(6月10日ガーナ戦)までは。
問題は、最終戦のチュニジア戦(6月14日)である。それまでの3試合と違い、守備の圧倒的崩壊が見られた。あの崩壊具合は正直、驚きであった。森保一監督自身も、想定外の崩れ方をしたと驚いているはずである。なぜ守備があそこまで崩れたのか。試合中におきた状況と選手のメンタルを考えながら原因について考えていく。
日本代表の守備が崩れた原因は・・
- 試合:2022年6月14日(キリンカップ決勝)日本VSチュニジア
- 会場:パナソニックスタジアム吹田
- 結果:日本0-3チュニジア
1)開始フォーメーション
まず、前半。既に日本にディフェンスが機能しなくなる前兆はあった。相手チュニジアの守備の仕方はタイトであった。そのシーンは攻撃開始時にみられていた。
遠藤航をアンカーとして、前への推進力があるタイプが揃うオフェンス陣(浅野拓磨、南野拓実、鎌田大地、原口元気、伊東純也)。遠藤が前を向いてプレーする時間が長ければ、このオフェンス陣は前へパワーを持っていける。
しかし、チュニジアのディフェンス陣がその推進力を封じた。
2)前半起きていた現象
遠藤へボールが入ると、チュニジアは2人でアプローチをかけ、前を向かせない。原口や鎌田へ横にボールを散らそうとしても、他のチュニジア選手が横を切って、2選手へのパスコースを消している。この状況になると遠藤は、伊藤洋輝、吉田麻也、板倉滉、長友佑都の誰かにボールを下げるしか選択肢がなくなる。
3)ディフェンスラインへボールを下げると起きる現象
長友にボールが入ると、彼の選択肢は前の伊東か浅野へのロングボールを蹴るしかなくなる。囲まれても突破できるスキルがあればよいが、長友はそれができるタイプのサイドバックではない。
4)前に蹴ることで生まれる相手のチャンス
長友が前に蹴りだしたボールを、伊東が自分のボールにできた回数は数える程度。チャンスにつながったのは2回ほど。ほとんどのボールをチュニジアのディフェンス陣が跳ね返してした。そうすると黄色のゾーンでチュニジアは前を向いて攻撃を開始することができる。いわゆる「セカンドボールを奪う」というのがこの行為を指す。
試合55分に起きた1失点目を振り返ると、この現象が発生していた。日本のオフェンス陣とディフェンス陣に空間がうまれ、そこへ前を向いて推進力を持ったチュニジアの選手たちが日本陣地へ侵入してきた。その対応に遅れた吉田が、日本ディフェンス陣の人数が数的に足りているにも関わらず、ファールでPKを献上したのである。
なぜ、あのシーンで経験豊富な吉田があのようなプレーをしたのか。ここからは想像でしかないが、前3戦、日本のディフェンスはある程度機能していたが、チュニジア戦は違ったのだ。それに対して多少の焦りとコンビの板倉と伊藤の経験が足りない(という吉田の自覚?)から「頑張りすぎてしまった」のではないかと推測できる。責任感が強い選手だけに、やってしまいがちなミスである。PK献上直後の吉田の表情をみれば、やってしまった感をは本人も感じていたはずだ。
5)2失点目のシーン
試合76分に起きた2失点目も、日本ディフェンス陣とオフェンス陣の間に相手が走りこんできたパターンである。日本の攻撃時にディフェンス陣の準備ができていないのが2失点目の原因であり、ここに対してケアできる選手が不在であった。元代表の長谷部誠がいないことが非常に悔やまれる。
アディショナルタイムでの駄目押しの3失点目については、チュニジアのゴラッソであったが、日本よりチュニジアの選手の方が枚数は多かった。最後のシーンといえど、しっかり走れるチームは強い。
チュニジア戦は前3試合と様子が異なっていた。シーズンを終え切った海外組の4連戦による疲労はかなりあったはずである。そのなかでもW杯に向けて可能性を示してくれただけに、最終戦の守備はもったいないと感じてしまった。
ここの穴を埋める選手は誰になるのか。攻撃陣を削ってディフェンス重視でいくのか。11月開幕のカタールW杯までの残り期間でどのように守備を構築していくか、森保監督の腕の見せ所である。