昨夏の東京オリンピック・卓球混合ダブルスで伊藤美誠選手とともに悲願の金メダルを獲得した水谷隼さん。幼少期から卓球エリートとして知られているが、本職以外にも様々なスポーツを経験してきた。Jリーグ・ジュビロ磐田のホームタウンとして知られる静岡県磐田市出身だけにサッカーも楽しんでいたという。オリンピックで合計4つのメダルを獲得し、現在はテレビでもタレント・キャスターとして活躍する水谷さんのサッカー愛に迫った。

――水谷さんが小学生の頃はジュビロ磐田が黄金時代で毎年優勝を争っていました。当時はスタジアムにも観戦に行かれていたんですか。

水谷 当時は常に首位争いをするぐらい強くて、僕も含めて地元の男の子たちはみんなサッカーをやっていましたし、ヤマハスタジアムにもよく試合を見に行っていました。好きな選手はやっぱりゴン中山さん(中山雅史)。中山さんが得点を決めると、サポーターがゴール裏で選手チャントを歌うんですが、僕も一緒に声をはりあげて応援していました。「中山隊長ゴンゴール ゴンゴール ゴンゴール」って、今も歌えちゃいますね(笑)。サッカー界では三浦知良さんが「キング」と呼ばれていますけど、僕にとっては中山さんも同じぐらい「キング」的な存在です。なんでかわからないけれど、自宅にはゴン中山さんのサインが飾ってあって……多分、磐田市民は全員持っているんじゃないかなぁ。

ジュビロと過ごした少年時代

――やはり地元の人にとってジュビロ磐田は親しみのある存在なんですね。

水谷 かなり近いですね。磐田の駅前の商店街にある道を『ジュビロ―ド』というんですけど、そうやって街全体でサッカーを支持するみたいな感じでしたし、『ジュビロサブレ』というお菓子が磐田定番の土産になってました。小学生の頃、家族でボウリングに行ったときに、『外国人がいるな』と思って隣のレーンを見てみたらドゥンガがいたこともあります。ドゥンガじゃん!って。

 一番、印象にのこっている試合は、静岡スタジアム・エコパのこけら落としとなった清水エスパルス対ジュビロ磐田の「静岡ダービー」(2001年5月)ですね。磐田は中山さん、高原(直泰)さんがいて、清水も日本代表経験者がたくさんいました。どっちが勝ったのかは記憶が曖昧ですが、あのスタジアムの熱気は忘れられません(実際は0-0のまま突入した延長前半14分に平松康平がVゴールを決め、清水が劇的な勝利)。

――中学になると水谷さんは青森山田中に越境入学し、海外留学も経験されました。その間、そして現在はサッカーの試合をどの程度ご覧になっていますか。

水谷 ジュビロのツイッターはフォローしているので逐一アップされた情報は見ているんですが、やはり当時に比べると試合を見る機会はかなり減りましたね。

 ただ、2016年のリオ五輪前にヤマハスタジアムで始球式をさせてもらって、小林(祐希・現ヴィッセル神戸)選手と話をした記憶があります。こんな大きなハコの中でプレーできるなんてサッカー選手がうらやましいなと思いましたね。実はメダルを獲ったリオ五輪後には地元でパレードも開いていただいたんですが、集まってくださった3万人の方々を前に「次は金メダルを獲って帰ってきます!」という話をしたんですよ。東京五輪後は新型コロナウイルスの影響でパレードはできなかったですけど、伊藤選手と一緒に参加したヤマハスタジアムでの凱旋報告会ではいい報告が出来たなと思いましたし、有言実行できたというか、やってやったぞという感じがありましたよね。

気になるのは“熱”を持った選手

――水谷さんは昨年現役を退かれ、他競技のアスリートの方など、いろいろな方を取材する機会も増えたと思います。今、気になるサッカー選手やチームはありますか。

水谷 実は少し前に日本代表の三笘薫選手(ブライトン)といろいろとお話しさせてもらったんです。6月のブラジル代表戦では途中交代で起用されていましたが、持ち味の突破力で果敢に攻撃を仕掛けていましたよね。強気なところが、日本人らしくないプレーだなという印象が強くて、僕も見ていて興奮しました。今季からプレミアリーグのピッチに立たれていてやはり気になるというか応援したくなりますし、W杯にも選ばれたら是非注目したい。基本的には感情が豊かな選手や“熱”を持っている選手……“自分を持っている選手”が気になります。以前、母校の青森山田に行った時、当時高校生だった松木玖生選手(FC東京)とも話をする機会があったのですが、彼もすごく芯が強い選手だなと感じました。

伊藤美誠とペアを組んだ東京五輪の卓球・混合ダブルス決勝戦では、最終ゲームまでもつれ込む接戦を制し、金メダルを獲得した ©JMPA
伊藤美誠とペアを組んだ東京五輪の卓球・混合ダブルス決勝戦では、最終ゲームまでもつれ込む接戦を制し、金メダルを獲得した ©JMPA

〈現役時代は男子卓球界の第一人者として活躍した水谷さんは、サッカーのW杯同様に4年に1度開催されるオリンピックに4度出場した。2016年リオ五輪男子団体で銀メダル、男子シングルスで銅メダル、東京五輪は混合ダブルスで金メダルを獲得した卓球界のレジェンドはサッカーW杯をどのように見ているのだろうか。〉

――過去のW杯のなかで記憶に残っている大会はありますか

水谷 先ほどお話しした静岡ダービーもそうですが、どちらかと言うと、僕は代表よりもジュビロ磐田の試合の方が印象に残っているんですよね。でも、W杯の本大会ではありませんが、1993年のアジア最終予選、ドーハの悲劇は印象深いですね。当時4歳なのでリアルタイムではもちろん見ていないんですが、W杯初出場を逃してピッチに座り込んでがっくりとうなだれている選手たちの光景は、W杯前になると必ずテレビで流れていたので印象深い。あと、2002年の日韓W杯で稲本潤一選手がゴールを決めたシーンも記憶に残っています。

――サッカーの試合や選手のプレーを見て卓球に役立つなと思うことはありましたか。

水谷 どうしてもマイナーな競技の選手って「自分たちのプレーを見てよ」という感じにはならないんです。でも、メジャーな競技の選手はすごく自信を持ってプレーしているように見えるじゃないですか? 自分自身のプレーに対してもそうですし、それが発言にも表れていて、そこはサッカー選手を見習わなければいけないと感じたし、尊敬する部分ですね。本田圭佑さんなんかはその典型ですよね。

 卓球の場合は、個人競技なのですぐに「勝ち」「負け」という結果が明確になりますが、団体競技はそれ以前に、チーム内の競争を勝ち抜いてメンバーに選ばれるためにアピールする必要があり、そのために、みんなが必死になって自分の良さを表に出しているところがすごくいいですよね。

5歳で卓球を始める一方、サッカーやバスケットボールなど様々な競技に取り組むスポーツ万能少年だった
5歳で卓球を始める一方、サッカーやバスケットボールなど様々な競技に取り組むスポーツ万能少年だった

中国卓球の強さをサッカーで例えると…

――今年11月20日にいよいよW杯カタール大会が開幕します。今大会で楽しみにしていることがあれば教えてください。

水谷 今回、日本代表がドイツとスペインと同組。長年、世界のトップを走り続け、W杯でも優勝経験のある欧州の2強と対戦できることは、勝ち負けは別にしても、僕もそうだし日本中が本当に期待する一戦。純粋に楽しみたいですね。

――ドイツやスペインと戦うのは、卓球でいうところの最強・中国と対戦するような感覚とも言えますか。

水谷 実は僕らと中国の距離は、みなさんが想像している以上に離れているんです。卓球で日本が中国に勝つのをサッカーで例えるなら、ドイツに5点差をつけて勝たなきゃいけないくらい難しいんです。奇跡が1回、2回起きただけではどうしようもなくて、4ゲームとらないとダメですから。東京五輪で金メダル? あれは新種目の混合ダブルスですから、ちょっと話が違うというか(笑)。

 もちろん、サッカーの世界でも強豪に勝利することは決して簡単なことではないと思いますが、過去のW杯で起こった様々な波乱を考えると、何が起こっても不思議じゃない。ドイツ、スペインにも勝つ可能性はあると思います。先に1点獲れたら本当にチャンスですよね。勝っていれば優位に作戦を進められますから。初戦の先制点がW杯のすべてを変えるのではないかと僕は予想しています。

 そういえば今大会はネット配信で全試合視聴できるんですよね。スマホなら外出先やどこにいても見られるのですごくうれしい。よくABEMAでMリーグを見ているんですが、この秋はW杯もMリーグも見たいと思います!(笑)

必要なのは「強い気持ち」

――オリンピックを4度も経験されている水谷さんだからこそ、W杯を控えた選手の気持ちをよく理解できる部分もあると思います。選手たちにエールを送るならどんな言葉をかけたいですか。

水谷 サッカー選手である以上はW杯で活躍することが一番の目標でしょうし、選手みなさんがベスト4や優勝を目指して頑張っていると思います。卓球も昨年の東京五輪まで一度も金メダルを獲っていませんでしたが、「五輪で金メダル」と言い続けて20年ぐらい経って、ようやく成し遂げることができました。自信を持って、「優勝できる」というくらいの強い気持ちでぜひ臨んでほしいですね。

(構成=石井宏美)

©Kiichi Matsumoto
©Kiichi Matsumoto

水谷隼(卓球)(みずたに・じゅん)

1989年6月9日、静岡県生まれ。北京から4大会連続でオリンピック出場。リオでは日本人初のシングルスメダリストになり、東京大会の混合ダブルス金を含めて、合計4つのメダルを獲得した。


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