サッカー日本代表のカタール・ワールドカップに臨むメンバー発表前、最後の準備が終わった。今回のドイツ遠征では、得るものも多かった。これまでの歩みから浮かび上がってきたチームの現在地、そして本大会への展望をベテランジャーナリストの大住良之と後藤健生が語り尽くした。

■現状のドイツ代表の様子

――守備陣では、長友佑都が頑張っていました。

後藤「頑張っていたね」

大住「最初は血眼じゃなかったけど、攻められて危なくなると、ガッツポーズが飛び出すようなプレーをしていたもんね。本大会で長友が中3日で全試合出続けることは難しいから、どこで使うべきか相手次第で考えた方がいい」

後藤「ドイツ戦にすべてを懸けるのがいいんじゃないかな。第3戦のスペイン戦は、消化試合になっている可能性がある。それに今回のインターナショナルマッチデーで、ドイツはハンガリーに負けていた。全然良くなかったし、あれなら食えるぞ、という気にならない? 現状を見ると、ドイツ戦にすべてを懸けるべきだと思う。さらに第2戦でコスタリカに勝てば、スペイン戦は消化試合になって、ラウンド16でぶつかるであろうベルギー戦に向けて選手を休ませられる。ドイツに勝てば、そういう展望が開けるよ」

大住「ドイツに勝てなかったら、どうするの? もちろんドイツに勝つことを考えないといけないのだけれど」

後藤「日本代表が入ったのはすごく難しいグループだから、それくらい戦略性を持って戦わないと勝ち抜けない。だから、可能性が少しでも大きいところに戦力を集中して投入すべきだよ。初戦だからというのではなく、今のドイツなら勝てる可能性が高いから」

大住「試合を見ていても、ドイツがボールをキープしても変化がないから、全然怖さがないんだよね。カウンターは怖いかな」

後藤「怖いのは、クロスを入れられてヘディングされるパターンだね。でも今のドイツなら、うまく守備にはめれば今回のアメリカ戦のような展開に持ち込めるかもしれない」

大住「とにかく、全然手が届かない相手だという印象はなかった」

後藤「そういえば、スペインもホームでスイスに負けていたね。現時点の状態を比べれば、チーム力とか個人の力を抜きにして、チーム状態は日本が間違いなく一番良いと言える。それでもやられちゃうかもしれないけどね」

■遠征を通じての手応え

――2試合通じて、良かった選手は誰ですか。

大住「守田英正だよね。エクアドル戦でも守田が出ていたら、すごいプレーをしたと思う」

後藤「守田は急激に伸びてきた。あと、鎌田大地だよね」

大住「鎌田を見て、日本代表でのプレーで初めて良いなと思ったよ」

後藤「吉田麻也と冨安健洋、遠藤航と、チームの軸に良い選手がそろったのは素晴らしいよね。あとはCFがそろえばいいんだけど」

――1トップ問題は継続ですか。

後藤「誰にするか決めるというより、どうやって使い回すかだろうなあ」

大住「大迫勇也の代わりを探すより、レベルが高くて状態の良い選手たちで、どうやって攻撃をつないでいくかを考えた方がいいと思う。前田大然はひとつの解決策になったよね」

後藤「昔は“第二の釜本邦茂”を20年くらい探していたけど、そんな選手いるはずがないんだよ。90分の間にもFWの選手を入れ替えたりすれば、面白いと思うよ」

大住「そうだと思う。ドイツはちょこちょこ動く選手が苦手だし」

後藤「じゃあ久保建英のトップ起用もありだね」

――遠征全体を通して、どんな印象を持ちましたか。

後藤「期待よりもはるかに良かった。アメリカ戦のような完璧な勝ち方をすると思わなかったし、エクアドル戦はメンバーを総入れ替えしてもできた。すごいなと思ったよ。アメリカ戦の勝ち方は、ちょっと考えられないくらい良かったし、早めに追加点を取っていたら完璧だった。ゲームの90分間の運び方、前からのプレスのかけ方、攻め込まれた時の受け止め方といい、本当に完璧だったと思う。今まで見た日本代表の試合の中で、最高の試合だったと思う。ドイツの調子が良くなる前に、早く試合をしたいよ」

■日本サッカー協会の英断

大住「それほどに選手の状態は良かったよね。選手がヨーロッパから日本に帰ってくる負担がなかったのに加え、クラブでプレーする状態の良い選手をピックアップして使ったというのが良かった」

後藤「集合してから最初の試合だったにもかかわらず、アメリカ戦は良かった。これまで積み上げてきたものが形を取ってきた」

大住「苦しんだエクアドル戦でも、良いものをたくさん出せたというのは、本当に手応えとしては大きかったんじゃないかな。とにかく、ヨーロッパで2試合したのは、日本サッカー協会の大英断だった。韓国とオーストラリアはホームゲームで、オーストラリアに至っては壮行試合だと銘打っている。日本サッカー協会にとって、ワールドカップに向けての盛り上げや、興業的な意味を考えても、地元での壮行試合にするのが定番だけど、今回のデュッセルドルフで試合をするというのはチームファーストの英断だった」

後藤「ワールドカップで勝って、盛り上がるのが一番なんだからね」

大住「日本サッカー協会のヨーロッパの拠点があるし、日本人がとても多い街だから、デュッセルドルフが日本代表の第2のホームになる可能性は十分にあるよね。西ヨーロッパの中央にあるから、こちらでプレーしている選手が集まりやすい」

後藤「じゃあ日本サッカー協会がお金を出して、まずスプリンクラーを直さなきゃ(笑)。それで、中東勢と連戦の時には、一度日本に集合するのではなく、デュッセルドルフで初戦の“ホームゲーム”をしてから、第2戦のアウェイの地に行けばいい」

大住「公式戦もやるっていうの? そこまでは考えなかったな(笑)。11月のワールドカップの前にも、リーグ戦が終わったヨーロッパの選手がフリーになったらデュッセルドルフに集まってトレーニングして、ドバイに入って大会に備える。そうなったら、完璧じゃない」