2人の恩師が揃うアーセナルで輝きを取り戻す

2021-2022シーズンまではマンチェスター・シティに所属していたが、クラブがノルウェー代表FWアーリング・ハーランドを獲得したのに伴って、押し出されるようにジェズスはアーセナルへの移籍を決断した。

現アーセナル監督のミケル・アルテタは、かつてマンチェスター・シティでアシスタントコーチを務めるなどジェズスの指導経験もあり、恩師と再会した形だ。またアーセナルのテクニカルディレクターを務めるエドゥは以前、ブラジル代表でディレクターを務めていたことからジェズスのことをよく理解しており、以前より関係性があった二人の人物がいるクラブを新天地として選んだことになる。

 今季は開幕から得点、アシストのどちらも量産しており、チームを去った元ガボン代表FWピエール=エメリク・オーバメヤンと元フランス代表FWアレクサンドル・ラカゼットという二人のストライカーの後釜として、チームの攻撃の中核を担う活躍を見せている。

欧州中から注目を集めたブラジル時代。エースになれなかったシティ時代

ブラジル・サンパウロの出身で、地元からほど近いブラジル1部リーグ、パルメイラスユースで育った。18歳で順調にトップチーム昇格を果たすと、その翌年、2016年にはリーグ戦で13得点を挙げただけでなく、パルメイラスのコパ・リベルタドーレス優勝を果たす原動力ともなり、欧州中の注目を集める存在となった。その中でジェズスは欧州初挑戦の舞台としてマンチェスター・シティを選択した。

シティでは合計で236試合で95得点を記録するなどまずまずの成績を残したと言えるが、スター軍団のなかではどうしても、あくまで多くいるスーパースターのうちの一人、という印象を拭い去ることができなかった。シティでの晩年には本職ではない右ウイングでの起用が増えるなど、元アルゼンチン代表FWセルヒオ・アグエロのような、絶対的なエースストライカーになれずにいた。

スピードと技術、得点力を兼ね揃えた万能アタッカー

ジェズスはスピードと技術、得点力を兼ね備えた非常に万能なアタッカーだ。守備の献身性もFWとしてはトップクラスで、南米の選手らしいトリッキーなドリブル突破もお手の物、パス能力も高いため味方とのパス連係に積極的に絡むこともできる。

身長こそ高くないものの、落下地点の予測が抜群なため空中戦に強く、屈強なDFを背負った状態でも簡単にボールを収めてしまう。ペナルティーエリア内ではこの予測を生かした抜群のポジショニングで相手のマークを外し、ヘディングでもゴールを量産する。

またジェズスはここまで挙げたプレミアリーグでの62得点全てがペナルティエリア内からのものである興味深い記録を保持しており、同様の記録を持っている選手の中では最多の得点数となっている。

移籍していきなりアーセナルで第3キャプテンを任されており、キャプテンマークを巻いてプレイすることもあるなど、リーダーシップも持ち合わせた選手だ。

万能型アタッカーから生粋のストライカーへ。カタールでのゴール量産に期待

ジェズスのブラジル代表でのキャリアは、近年は少し停滞してしまっている印象がある。その契機となったのが2018 FIFAワールドカップ ロシア(ロシアW杯)であったのは間違いないだろう。

それ以前、パルメイラスでの台頭に伴って10代でブラジル代表のストライカーに抜擢された2016年は、デビューからW杯予選6試合で5得点4アシストと圧倒的なパフォーマンスを見せていた。しかし、少しずつサイドの盟友ネイマールをより活かすための、よりサポート型のストライカーとしてのプレーが増えていった。

器用なジェズスはこの役割を上手くこなしてはいたものの、サポートに回る分自身の得点は伸びず、ブラジル代表が結果を残せなかったロシアW杯では特に、ブラジル国内のファンからの苛烈な批判にさらされることとなってしまった。

その後はチームメイトのロベルト・フィルミーノの好調もあり、2019年以降は右ウイングとしてのプレーすることが増えている。2019年7月のコパ・アメリカ決勝から2022年6月の韓国との親善試合までの約3年間ノーゴールが続くなど結果を残すことができず、他の選手が台頭してきた最近に至っては控えに回ったりメンバー外なったりすることも増えている。実際に、9月の代表ウィークではブラジル代表への招集を見送られた。

ただし、最近のブラジル代表のサイドアタッカーは非常に層が厚い一方で、中央はやや手薄なため、今季のアーセナルでの活躍を考えるに、ブラジル代表で出番があるとすればストライカーになりそうだ。

かつて生粋の点取り屋としてブラジルを熱狂させ、マンチェスター・シティでジョゼップ・グアルディオラの下のもと万能性を身に着けたガブリエウ・ジェズスが今季アーセナルと2022 FIFAワールドカップ カタール(カタールW杯)でブラジル代表をどこまで上に導くことができるか、注目だ。

文・山中拓磨

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