アジア人史上初となるプレミアリーグ得点王
ソン・フンミンは現在アジアのみならず世界を代表するアタッカーだ。トッテナムでは主に、ウイングや2シャドーの一角をになっており、チームに欠かせない中心選手の一人である。2021/22シーズンは世界最高峰のプレミアリーグで23ゴールをあげ、アジア人史上初となるプレミアリーグ得点王に輝いた。
イングランド代表で10番を背負い、トッテナムの同僚でソンとともにWエースの一角であるハリー・ケインとのコンビは欧州屈指の破壊力を誇る。二人だけで攻撃を完結させてしまうことも多く、世界最高峰のリーグの一つとして数えられている。長い歴史のあるプレミアリーグでも、史上最高のコンビだと推す声も多い。その証拠に二人だけで完結したゴールの数はリーグ史上最多である。
幼少期から父親の指導を受けて世界に飛び立つ
ソン・フンミンのキャリアは他の選手とは一線を画すため、学生時代から紹介したい。ソンの技術の高さは元プロサッカー選手である父親の指導によって形成された。例えば、高校に入るまではチームではプレーをさせず、トレーニングは基本的なドリブルやパスの練習のみ。シュート練習は靭帯や関節を怪我させる恐れがあるとして15歳までさせないなど、一般的には考えられないものだ。このように一癖も二癖もある父との二人三脚でソンは技術を磨いていった。
その後、ソン・フンミンは韓国サッカー協会の交換留学制度を利用してドイツ1部ハンブルガーSVのユースチームに加入した。ハンブルガーSVのユースチームでしっかりと実績を積んだソン・フンミンは、18歳の誕生日にプロ契約を結び、ドイツでプロキャリアをスタートさせた。
ハンブルガーSV時代の同胞であるオランダのレジェンドであるファン・ニステル・ローイは「1回目のドレーニングセッションでソンが特別であることがわかった」と語っており、18歳の時すでにソンの活躍は約束されていた。レジェンドの先見の明は正しく、ハンブルガーSVでプロデビューして3年目、ついにソン・フンミンは覚醒し、公式33試合で12ゴール2アシストを記録。ブンデスリーガのスターの仲間入りを果たした。
スターとなったソン・フンミンの獲得に乗り出したのは若手育成に定評があるドイツの強豪レヴァークーゼンだった。2013年の7月、ソンは1400万ユーロ(約22.4億円)の移籍金でレヴァークーゼンに加入。加入1年目となる2013-2014シーズンには公式戦43試合12ゴール7アシストを記録した。続く2014-2015シーズンにはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)で予選を含め5ゴールを挙げて、国際舞台でも名を挙げた。
2015-2016シーズンにはイングランドの強豪トッテナムへステップアップ移籍を果たす。1年目はブンデスリーガ時代ほど活躍できず、現地からは「ワースト補強の一つ」と揶揄されてしまうなど苦しい時期を過ごした。しかし、翌シーズンはその鬱憤を晴らすかのように自身のキャリアハイを塗り替えるリーグ戦14ゴールを記録し、改めてその才能を世界に知らしめた。
その後、2015-2016シーズンから6シーズン連続で二桁得点を記録するなど、プレミアリーグの看板選手となるまで成長を遂げた。
父親独自メソッドで鍛え上げられたシュート技術
ソン・フンミンの最大の武器はシュート技術の高さだ。先述した通り父親の独自メソッドの下、鍛えられたシュートのパンチ力、精度ともに一級品だ。利き足がわからないほど左右遜色なくシュートを打つことができ、右サイドでも左サイドでも脅威になれる。特にカットインからのシュートは得意としており、バイタルエリアでソンをフリーにするのは致命的と言えるだろう。
またトップスピード、ボディバランスともにアジア人のレベルを超えており、スピードに乗った状態でのプレーも魅力の一つだ。ソンのフィジカルを活かした象徴的なシーンといえば、2019年12月7日に行われたプレミアリーグ第17節のウェストハム戦で見せた86mドリブル独走弾だ。自陣深くでボールを引き受け、屈強なウェストハムのDFをスピードに乗ったドリブルで何人も置き去りにして冷静にフィニッシュした場面は、ソンの魅力が存分に詰まっている。
ゴール前では冷徹な表情を見せるソン・フンミンは誰とも分け隔てなく接する明るい性格で、チームメイトみんなから慕われている。現在トッテナムの監督であるアントニオ・コンテからも「ソンは私の娘の結婚相手にしたいくらいナイスな男だよ」と人間性に太鼓判を押されている。
この韓国人ストライカーはプレーだけでなく、人柄でも多くの人々を魅了しているようだ。
韓国代表を牽引するエースストライカー
ソン・フンミンは2010年に18歳の若さで韓国代表デビューを飾っており、当然ながらエースとして活躍している。2018年以降は主将を務めており、チームをピッチ上だけでなくロッカールームやトレーニングでも引っ張っている。コンテはソンについて「デリケートな一面も存在する」と語っているが代表では、しっかりとリーダーシップを発揮しているに違いない。
プレー面についても今シーズンの開幕のスタートダッシュには出遅れたものの、プレミアリーグでのレスター戦では途中出場からのハットトリック、コスタリカ代表との親善試合では見事な直接フリーキック弾を叩き込むなど調子は右肩上がりだ。
選手として脂の乗った状態で臨む2022 FIFAワールドカップ カタール(カタールW杯)での活躍は期待していいだろう。
(文・熊谷和浩)