トッテナム生え抜きのエース
ハリー・ケインはトッテナムのエースであり象徴だ。今季もその事実は揺るがないだろう。昨季も開幕戦を除くリーグ戦37試合にフル出場し、17ゴール9アシストを記録。
ここ数シーズン、トッテナムは完全にケイン中心にチームが周っている。彼が攻撃の起点となり、フィニッシュにも絡む。この2つのタスクをケインは高次元で両立させており、ケイン不在時や不調の際には攻撃が停滞してしまうことが多い。
ユヴェントスから期待の若手スウェーデン代表FWデヤン・クルゼフスキ、エヴァートンのエースだったブラジル代表FWリシャルリソンらを獲得し、攻撃陣の層は間違いなく厚くなったが、依然としてケインの後釜は見つかっていない。
ケインの現在の華々しい個人タイトルとは裏腹に、トッテナムでエースになるまでのキャリアは地味で堅実なものだ。
9歳の時に2年間過ごしたアーセナルアカデミーを退団し、トッテナムアカデミーに加入。順調にステップアップしていき、17歳の時、当時イングランド3部に所属していたレイトン・オリエントに武者修行のためローン移籍する。18試合5ゴールとそこそこの成績を収め、今度はステップアップして当時イングランド2部に所属していたミルウォールへローン移籍する。
その後、ミルウォールで22試合7ゴール2アシストの成績を収め、同じく英2部のノリッジに移籍するものの、加入2試合目で中足骨を骨折してしまいシーズンの半分を棒に振る。シーズン後半は、同じく当時英2部に所属したレスターに移籍するも泣かず飛ばずの結果でトッテナムへ帰還。ここまでのキャリアからは、今のケインの活躍を想像するのは難しい。
しかしトッテナムに帰還して参加したU21プレミアリーグにて8試合8ゴール5アシストと爆発。ユースカテゴリーでの活躍を認められ、トップチームでの出場機会を得るようになる。
トッテナムに復帰して2年目となる2014-2015シーズンには、ポチェッティーノ監督のもと21ゴールを挙げ、自身初の1シーズン2桁得点を達成。翌シーズン、ケインは更なる覚醒を遂げ、25ゴールを挙げ22歳にしてプレミアリーグ得点王へと輝く。ケインの勢いは止まらず、続くシーズンも29ゴールを記録し2年連続のプレミアリーグ得点王となった。
2017年には1年を通して56ゴールを記録し、リオネル・メッシ、クリスティアーノ・ロナウドを抑えて欧州年間最多得点王に輝き、さらにキャプテンとして望んだ2018年のロシアW杯では6得点を挙げて大会得点王を受賞した。
スコアラーとしてはトップオブトップにまで上り詰めたケインだったが、その稀代の得点能力に加えて、ジョゼ・モウリーニョ監督の下で、チャンスメイカーとしての能力も覚醒。2020-2021シーズンにはプレミアリーグ史上2人目となる得点王とアシスト王のW受賞し、現在では歴史上に語り継がれるべき選手の一人に数えられている。
イングランドを代表する完成されたストライカー
ケインの最大の魅力はやはりなんといっても抜群のシュートセンスだ。左右両足から高精度かつパンチ力あるシュートを放つことができ、膝下の振りが早くキックも非常にコンパクトなので守備も対応が難しい。ヘディングシュートの技術も高く、左右両足頭でゴールを決められる完成されたストライカーだ。
加えてポストプレーやチャンスメイクも上手い。低い位置まで降りて行き、味方からボールを引き出し、急所をつくスルーパスで得点を演出する形も得意としている。カウンターアタックを得意とするトッテナムのサッカーとは相性抜群で、ケインがボールをキープし、その間に2シャドーがケインの脇を駆け上がるダイナミックな攻撃は迫力満点だ。特にソン・フンミンとの連携は抜群でプレミアリーグ史上最高のデュオであると推す声も多い。
ハリー・ケインは代表でもエースであることは間違いない。イングランド代表ではトッテナムの時よりもゴールに近い位置でのプレーが多く、よりフィニッシャーとしての役割が求められている。
トッテナムではフランス代表GKウーゴ・ロリスがキャプテンを務めているが、イングランド代表のキャプテンはケインが務めている。イングランドは世界的に見ても若手選手の台頭が著しいため、ピッチに多くの若手選手が並ぶ。得点を決めるだけでなく、若手を正しく導くのもケインの役目だろう。
イングランドの命運を握っているだけに、彼のプレーからは目が離せない。
(文・熊谷和浩)