ポスト・大迫勇也に名乗りを上げた上田綺世
日本サッカー界において、FIFAワールドカップロシア2018からの4年間、ずっと話題に上がることがある。それは『ポスト大迫勇也は誰か』ということだ。
大迫は正確なポストプレーとシュートセンスを駆使して、前線で起点を作れてかつ点も取れるストライカーとして、長く日本代表のエースとして君臨していた。2014年のブラジルW杯に出場し、2018年のロシアW杯においても、初戦のコロンビア戦で日本を勢いに乗せる先制ヘッドを叩き込むなど、ベスト16入りに貢献した。
森保一監督が就任してからも日本は前線に1トップを置く形を継続。そこで32歳とベテランになる大迫に次ぐストライカーに待望の声が上がった。
その第一候補となったのが上田綺世だ。182cmの高さとフィジカルの強さに加え、シュートエリアへの侵入の質がずば抜けて高い。フリーランニングでのスペース侵入に加え、ワンタッチで叩いてからのセカンドアクション、ポストプレーからの展開と前線で多彩な動きを見せる。多少無理な体勢でも次のプレーがしやすいポイントにボールを置いて一気にフィニッシュまで持ち込める力強さも彼の魅力だ。
鹿島アントラーズでゴールを量産。ベルギー一部へと羽ばたく
高校時代から点の取れるストライカーで、法政大進学後にさらなる成長を遂げた。中盤に落ちてゲームメイクに関わってからのプレーの質など、さらにプレーエリアを広げていった上田は、大学3年生だった2019年7月にサッカー部を退部しての鹿島アントラーズ入りを果たすほどの逸材となった。
かつては大迫もエースを張った鹿島では1年目の2019年からすぐに出番を掴み、デビュー3戦目で初ゴールをマーク。半年のシーズンで4ゴールを決めると、プロ2年目で10ゴール、3年目で14ゴールをマーク。あっという間に鹿島のエースに登り詰めた。
今季も前半戦だけで3シーズン連続2桁となる10ゴールをマークし、7月にはベルギー1部リーグのサークル・ブリュッヘに羽ばたいていった。
成長の理由は圧倒的な吸収力。新時代の日本代表エースストライカーへ
トントン拍子でステップアップを成し遂げた上田だが、A代表では今年4試合出場でノーゴールと結果を残せていない。だが、これは爆発の前の静けさとも感じられる。なぜならA代表においても上田のポストプレーや叩いてからの動きの多彩さ、そしてゴール前のチャンスとなるポイントに走り込むタイミングと強度は、間違いなく相手にとって大きな脅威となっているからだ。
大学時代、上田はこう言っていた。
「武器は点を獲ることですが、人間的な部分で吸収力というものを武器にしていて、『1回の経験』でどれだけのモノを学び、生かせるかを重要視しています。例えばライバルの選手がいたら、その選手の特徴を分析して、自分に足りない部分を補えるか。代表や所属チームで常に自分に何ができて、何ができなかったのか。他の選手はどうだったのか。自分にベクトルを向けて考えるようにしています。いかに自分を知ることができるかが、サッカー選手として問われる質だと思っています」
決して自分の才能に頼ったり、驕ったりすることなく、冷静に周りを見て自己分析をして吸収してきたからこそ、今の地位までたどり着くことができた。
ロシア以降ずっと議論されていた『ポスト大迫問題』解消のキーマン・上田綺世。もちろん彼は大迫になろうとしているわけではない。自分のプレーを磨き、周りとリンクするために努力を重ね、オリジナルの日本のエースストライカーになるべく、来るべき舞台を待っている。
文・安藤隆人
photo:徳丸篤史 Atsushi Tokumaru