カタール・ワールドカップに臨む26人の日本代表メンバーが発表された。会見に臨み一人ひとりの名を読み上げた森保一監督の表情からうかがえるように、選出は非常に難しい作業だったに違いない。この26人の決定は、日本代表の行く末をどのように定めていくのか――。ベテランジャーナリストの大住良之と後藤健生が、徹底的に語り合った。
■カナダ戦ですべきこと
――メンバーも決まり、大会直前の強化試合のカナダ戦では、グループ全3戦もにらみながらメンバーを決めるでしょうか。
大住「そんな余裕はないよ」
後藤「それは優勝を狙うチームがやることだよ」
大住「例えば出場時間を選手によって60分や30分と分けていくということにはなるかもしれないけど。とにかく初戦に向けて流れを良くして、ベストメンバーをドイツ戦に出していくしかない」
後藤「ドイツ戦に向けて最高の準備をして、メンバーを組むしかないもんね。日本は先を考えるほど強いチームではないと思うけど、そこが付け入る隙になるんだよ。スペインやドイツは、7戦目や決勝まで見据えてチームを組むけど、日本は初戦にすべてを懸ける。だからこそ、ドイツに勝てるんじゃないか、と思う」
大住「最近のワールドカップでは、どんなチームも初戦は100%の力でくると思っているけど」
後藤「でも、ドイツの選手はどうしたって第2戦のスペイン戦のことを考えながら最初の試合に出てくる。そこが唯一最大の狙い目じゃないかな」
大住「ドイツって、そういうチームじゃないんだよね。オランダあたりだったら期待できるんだけどさ。3点取っても気を抜かず、4点目、5点目と取りにいくからね」
後藤「ブラジル相手にもそうだったからね。その辺の独特のメンタリティをうまく突いていくのがいいと思う」
■日本を警戒していないドイツ
――あまりに初戦に懸けすぎるのも危険なように感じます。
後藤「いつも、初戦が大事だとか、いや第2戦だと言われるけど、僕はそんなことはないといつも思っているんだよね。初戦に負けたって、その後に勝てばグループを突破できるかもしれないんだから。でも、今回だけは初戦がすごく大事だと思ってるんだよ。3戦目でスペイン相手に勝てるかは分からないけど、初戦ならドイツに勝てるんじゃないかと、ずっと思ってる」
大住「違いは何なの?」
後藤「大住さんが日本代表の取材でドイツに行った時に、現地では日本が気にかけられていないと言っていたよね。その隙を突くんだよ。こちらはデュッセルドルフに日本サッカー協会の出先機関があって、ブンデスリーガでプレーしている選手がいっぱいいて、ドイツの選手のことをよく分かっている。丸裸にしているんだよ」
大住「主力の多くが所属するバイエルン・ミュンヘンを見れば、だいたい分かるしね」
後藤「もちろん、負けたら終わりというわけじゃないけど、初戦でドイツ相手に一発やってやろう、というわけ。強い相手が2チームいるグループを勝ち抜くには、それしかないというくらいに思っているんだけど」
大住「まあ、そうだよね。勝つチャンスがあるとしたら、お互いに勝ち抜けを懸ける3戦目よりは、初戦だよね」
■「ホーム」でドイツを叩け!
――ポジティブな意味で、初戦に懸けるということですね。「おいしいチャンス」だと。
後藤「日本代表にはブンデスリーガでプレーしている選手がたくさんいて、キャプテンを任される選手までいるんだよ。ドイツには、Jリーグでプレーしている選手はひとりもいないのに。映像で分析するんじゃなくて、ピッチ上での肌感覚として相手を知る選手がいっぱいいるというのは大きい。スペインは第3戦までに、日本の2試合を偵察できるけど、ドイツはあまり日本についての情報は持っていない、はず」
大住「日本にはスペイン人の監督が多いしね(笑)」
後藤「しかも、ドイツはハリーファ・インターナショナルスタジアムで試合をするのが初めてだけど、日本はよくやっているスタジアムだしさ。そういう意味で、ここで勝つしかないな、というくらいに僕は思っている」
大住「ドイツ遠征した日本代表に対して、どうしてあんなに関心が低かったのか、今でも不思議に思うよ。メディアによっては結構、日本代表の記事を書いていたようだけど、記者は本当に少なかったしさ」
後藤「デュッセルドルフで試合をするというから、なんでドイツ人に見せるようなことをするのかと最初は思ったんだけど、大住さんの話を聞いて、これは幸いだと思ったよ。最高の付け入る隙じゃない」