●不安要素を抱えたサッカー日本代表

サッカー日本代表は27日、キリンチャレンジカップ2022でエクアドル代表と対戦し、0-0の引き分けに終わった。アメリカ合衆国代表戦から11人を入れ替えて臨んだが、好感触を得た4日前の試合とは対照的な展開となった。森保一監督が考える「2チーム構想」は現実的な課題に直面している。(取材・文:元川悦子【デュッセルドルフ/ドイツ】)
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 2022年カタールワールドカップ(W杯)でドイツ・コスタリカ・スペインと中3日でグループリーグを戦わなければならない日本代表。登録メンバー26人・交代枠5人とこれまでよりチームの幅は広がったとはいえ、全試合同じメンバーで戦うことは不可能だ。

 その現実を踏まえ、森保一監督は27日のエクアドル代表戦のスタメンを4日前のアメリカ合衆国代表戦から全て入れ替えるという大胆策を講じてきた。古橋亨梧、南野拓実、柴崎岳、長友佑都ら前回出番なしの面々を揃ってピッチに送り出したのだ。

 前向きなトライは歓迎すべきこと。ただ、やはり懸念されるのが選手個々の連係面だ。一例を挙げると、センターバック(CB)の谷口彰悟と伊藤洋輝。2人は6月のパラグアイ代表戦とガーナ代表戦で揃って先発しているが、その時はCBと左サイドバック(SB)の関係で、CBではコンビを組んでいない。違う位置で共闘した場合には、感覚なズレが生じないとも限らなかった。

 中盤にしても、柴崎と田中碧のダブルボランチは初。そこにトップ下・南野が入るトライアングルの形もやったことがない。遠藤航、守田英正とともに4-3-3の3ボランチを形成した際には「阿吽の呼吸」を見せる田中碧も同じようにはいかないはず。そんな不安要素を抱えた状態での船出となった。

 案の定、日本はエクアドルの強度と球際の激しさ、カウンターの鋭さに手を焼き、序盤から劣勢を強いられる。

●ボランチコンビは「難しかった」

 ピッチ状態の悪さも災いしたのか、柴崎の縦パスが簡単にカットされたり、南野がモイセス・カイセドにつぶされてカウンターの餌食になるなど苦戦が目立ち、連動性のある攻守を見せられない。

 堂安律と三笘薫の両サイドが幅を取っていたこともあって、中央の南野との距離が空き、古橋が孤立してしまう傾向も顕著だった。そして三笘も得意のドリブルで抜け出す場面も見られたが、低い位置からのスタートで効果半減といった印象が拭えなかった。

 ボール支配率こそ前半は6対4と日本が上回ったが、脅威を与えていたのは相手の方。日本のチャンスらしいチャンスは40分に南野のハイプレスから古橋が左足シュートを放ったシーンのみ。エクアドルはアメリカ戦の日本のようなしたたかさを押し出していた。

「(柴崎とのコンビは)難しかったですね。やっていないと分からない部分もありますし。それでもやれなきゃいけないし、誰と一緒にやってもうまく合わせられるのが自分の良さだと思うので、だからこそ、拓実君もそうですし、みんなのよさを引き出せるようなプレーをもっと自分がしたかった」と中盤のダイナモ・田中碧も不完全燃焼感を吐露する。

 彼自身も、遠藤、あるいは守田と組む時のようなスムーズさを出せない。時間がない中、息の合った連係連動を作り出すのは至難の業なのだ。そこは森保監督も改めて痛感した点ではないか。

●「やはりターンオーバーは難しい」

 それでも失点しなかったことを前向きに捉え、後半に突入した。上田綺世の投入もあって、少し流れが変わり始めた。三笘の左サイドの突破から南野がボレーで合わせた12分のチャンスなどゴールの形も垣間見え始める。

 ただ、もう一段階ギアが上がったのは、遠藤航、鎌田大地、相馬勇紀の3枚が入った21分以降。遠藤が中盤を落ち着かせ、鎌田がタイミングよくボールを持ち上がり、相馬も得意の局面打開でリズムを作り始めたことで、ようやくエクアドルと互角に戦えるようになる。上田からラストパスを受けた堂安が左足シュートを放った後半34分の決定機が決まっていたら勝利も夢ではなかった。そこまで盛り返したのは確かだ。

 終盤に伊東純也と上田を2トップに配する3-5-2の布陣にトライしたのも収穫だったが、シュミット・ダニエルの好守とPKセーブがなかったら、今回のゲームは負けていた可能性が高い。日本の誰もが大幅入れ替えの難しさを強く感じたのではないか。

「やはりターンオーバーは難しいんじゃないかな。今回は出た選手全員がアピールできたかと言ったらそうじゃないと思う」と悔しい結果に終わった南野も吐露したように、やはり2チーム編成でW杯を乗り切るというのはそうそうできることではないのだ。

●「2チーム分の選手層」は可能なのか?

 森保監督は「より多くの選手を入れ替えながらプレーできる確認はできた」と前向きだったが、本番の相手は一瞬の隙を確実に突いてくる相手ばかり。エクアドルは決め手を欠いたために助けられたが、2カ月後の大舞台で楽観は許されない。現実を直視することもやはり大切だ。

 おそらく指揮官は、「2チーム分の選手層がないと8強の壁は越えられない」という思いが強いのだろう。コーチとして帯同した2018年ロシアW杯で、西野朗監督が3戦目のポーランド戦でターンオーバーを試み、主力の体力を温存したにもかかわらず、ラウンド16でベルギーにひっくり返される戦いを目の当たりにしている。

 その理想はよく理解できるが、今回は直前合宿もなく、連係面を熟成させる時間もない。ならば、やはり吉田や遠藤、守田、鎌田、伊東ら軸を担うメンバーはフル稼働前提で考えるしかないのかもしれない。

 もちろん本番まで約2カ月あるから、南野がモナコでブレイクし、三笘がブライトンでスタメンをつかみ、田中碧も完全復調することもあり得る。エクアドル戦に出た選手の大半が所属先で状態を引き上げられれば、ターンオーバーに近い選手の大胆な入れ替えも可能になるだろう。それだけ個々のパフォーマンスが重要になってくるのだ。

「今までの代表でこんなに同じようなレベルの選手が揃うのはなかなかなかった。総力戦ですよね」と大ベテランの長友はチーム力の底上げ、選手層の拡大に自信を見せるが、その強みをどう生かすのか。全ては指揮官のマネージメント力にかかっていると言っても過言ではない。

(取材・文:元川悦子【デュッセルドルフ/ドイツ】)

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