カタール・ワールドカップの日本戦まで3週間を切った11月5日、ドイツ代表のマヌエル・ノイアー(バイエルン)が待望の復帰を果たした。ブンデスリーガ第13節のヘルタ・ベルリン戦で先発出場を果たすと、3-2の勝利に貢献。ファンを安堵させた。

 10月16日のフライブルク戦から欠場が続いていたノイアーは、カタール大会に間に合うかどうか心配されていた。しかし、「国の肩は大丈夫だ」というユリアン・ナーゲルスマン監督(バイエルン)の言葉通り、ドイツ代表の正GKがピッチに戻ってきたのだ。

 初めて「国の肩」という言葉を耳にしたのは2014年。ドイツが優勝することになるブラジルW杯の開幕前に、やはり肩を痛めていたノイアーを案じて用いられた。

 ドイツは言わずと知れたGK大国で、ノイアーの代役候補は少なくない。マルク=アンドレ・テア・シュテーゲン(バルセロナ)をはじめ、ケビン・トラップ(フランクフルト)、オリバー・バウマン(ホッフェンハイム)、ベルント・レノ(フルアム)など実力者がひしめき合う。しかし、36歳になった今もなお世界最高峰に君臨し、主将の重責も担っているノイアーがいるといないとでは、チームメイトが抱く安心感が違うという。
 
 ノイアーの凄さとは何なのか。シャルケ時代の彼のチームメイトであり、現在はシャルケ育成部門『クナッペンシュミーデ』(「炭鉱夫を鍛治する」の意味。転じて、シャルカーを養成する場所)の責任者を務めるマティアス・ショーバー氏はこう説明する。

「マヌエルはフィールドプレーヤーと共にプレーし、試合を速く進めるのがとても上手でした。例えば、角度のついたバックパスを先読みして受けて、少ないボールタッチで他の選手へと渡す。クロスやコーナーキックをキャッチした際は、時間をかけずに直ちに味方に投げてカウンターアタックの起点になる。試合を進めるスピードの速さ、チーム全体の動きに合わせたプレー、足下のスキルは当時から傑出していました」

 キャリア晩年、進境著しいノイアーのバックアッパーに甘んじたショーバー氏はきっと悔しい思いをしたはずだ。現役最後の試合となった2011年5月21日のDFBポカール決勝(デュイスブルクに5-0の勝利)では、サポーターたちから「ショーバーコール」が巻き起こっても出番に恵まれなかった。ノイアーに全幅の信頼を寄せていた当時のラルフ・ラングニック監督(現オーストリア代表監督)から声がかからなかったのだ。

 ともすれば苦い思い出かもしれないが、ショーバー氏は「ゴールエリア内の動きに関しては、マヌエルは私から学んだことが多いと思います」と言って笑う。そしてノイアーがワールドクラスのGKに育ったことを嬉しく思っているようだ。チーム内のライバルとして若き日の彼にプレッシャーをかけ、成長を促したことに誇りを抱いているという。

取材・文●円賀貴子(フリーランス)