FIFAワールドカップカタールの開幕まであとわずか。サッカー日本代表がAFCアジアカップ準優勝やカタールW杯予選敗退の危機など、紆余曲折を経てきたのと同じように、選手個人にもこの4年間で様々なドラマがあった。今回は、前回大会後から長きにわたって日本代表を支えてきた南野拓実の4年間を振り返る。(取材・文:元川悦子)

●「鎌田大地の控え」4年前と対照的な現実

「もうワールドカップ(W杯)前なので言い訳はできない。チームを勝たせられるような選手になることだけですね。そのために、ゴールに関わるとか、間で受けて前を向いて多少強引でも突破するとか、周りと関わりながらコミュニケーションを取って中で解決策を見つけるとか、トライしたいと思います」

 9月のエクアドル代表戦に先発し、後半22分までプレーしながら、得点機に絡めなかった南野拓実は不完全燃焼感を色濃くにじませた。

 この日の南野に与えられたのはトップ下。2018年9月のコスタリカ代表戦で森保ジャパンが発足した際から主戦場としてきたポジションである。それだけに、本人も悔しさが募ったはず。ただ、現状では今季欧州で公式戦12ゴール3アシストと輝きを放つ鎌田大地の控え。厳しい現実を見据えて、今、やれることを地道にやっていくしかない。そんな割り切りのようなものが、本人から感じられた。

 振り返ってみると、4年前の南野は堂安律、中島翔哉との2列目コンビで爆発的な推進力を披露。眩いばかりの輝きを放っていた。新体制初陣で念願だった代表初得点をゲットすると、そこから3戦4発とゴールラッシュを見せる。もともとシュート技術の高さには定評があったが、ここ一番での決定力の高さ、冷静さを森保一監督も高く評価。新たなチームのエースと位置付け、彼を軸に攻撃陣を組み立てていく意向を示した。

●自ら掴んだビッグクラブ移籍

 その期待に本人も応えるべく、アグレッシブにチャレンジしていく。代表初の大舞台となった2019年のAFCアジアカップではなかなか得点機をモノにできず、報道陣に対して無言を貫くなど、本人も苦悩。カタール代表との決勝戦の1ゴールにとどまったが、19/20シーズンに当時所属のザルツブルクでのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)デビューで一気に飛躍の手ごたえをつかみ始める。

 自身も9月のヘンク戦での2アシスト、10月のリバプール戦での豪快な一撃など目に見える結果を残して復調。代表でも2次予選序盤で4戦連続ゴールを奪い、重要な得点源として大いなる存在感を発揮する。直後の2019年末にはリバプール移籍が決定。2015年1月にザルツブルクへ赴いた際から願い続けてきた「CLに出場し、ビッグクラブへ移籍する」という大目標を果たし、名実ともにトッププレーヤーの仲間入りを果たした。

 だが、世界最高峰クラブの壁は想像以上に高かった。当時のリバプールにはモハメド・サラー、ロベルト・フィルミーノ、サディオ・マネの強烈3トップが君臨。南野はカップ戦などで出番を得て、結果を出していたが、2020年夏にディオゴ・ジョッタが加入したこともあり、序列低下は避けられなかった。2021年2月にはサウサンプトンへのレンタル移籍を強いられた。ただ、同クラブでサイドを経験したことで、プレーの幅を広げたのも確かだ。

●停滞する南野拓実を襲う焦燥感

 クラブでの浮き沈みはあったが、代表では第一人者の地位をキープし、トップ下、あるいは鎌田大地と並んで左サイドでプレー。時には最前線にも入るケースもあった。得点頻度は森保ジャパン発足直後より少なくなったものの、世界最高峰のプレミアリーグで奮闘する彼の実績と経験値を森保監督も大いにリスペクト。2020年からエースナンバー10を託され、主力の重責を背負い続けた。

 2021年夏に「今季は勝負を賭ける」と決意を固めてリバプールに復帰する。しかし、ここでは再び厳しい立場を強いられる。代表でも鎌田、あるいは久保建英がトップ下を担うようになり、彼は左サイドへ移動。その結果、ゴールに絡む回数が減ってしまう。さらにはチームも停滞。背番号10への風当たりが強まっていった。

 その論調は、11月のオマーン代表戦で代表デビューした三笘薫が切れ味鋭いドリブルで決勝点をお膳立てしてからヒートアップしていく。「左サイドは南野よりも三笘の方がベター」という声が高まり、本人も苦悩の色をにじませることが増えてくる。

 10月のオーストラリア代表戦から4-3-3に布陣を変更したこともその一因だ。結果的に南野の守備負担が増え、得点チャンスが巡ってこなくなり、チームを勝たせられる仕事ができなくなったのだ。この時期には左サイドで縦に並ぶ長友佑都と打開策を深刻そうに話し合う姿も見られ、彼自身の焦燥感が透けて見えた。

 結局、最終予選のゴールは2022年2月のサウジアラビア代表戦の1ゴールのみ。全12ゴールの半数以上に絡んだ伊東純也やジョーカーとして強烈なインパクトを残した三笘に比べると影が薄くなったのは事実と言うしかなかった。6月シリーズでも最終予選終盤に代表から外れた鎌田や堂安らが調子を上げる中、背番号10は無得点。彼の立場はより一層険しくなった。

●酷評され続けてきた背番号10に期待する理由

 そんな停滞感を打破すべく、南野は2022年夏にモナコ移籍を決断。リバプールとの契約は残っていたが、カタールW杯にベストの状態でのぞむためにはコンスタントに試合に出ることが必要だと判断したからだろう。実際、モナコのフィリップ・クレマン監督も彼の才能を高く評価していたが、チーム練習の負荷が想像以上に高く、フィジカルコンディションが上がり切らない時期が続いてしまう。

 今夏赴いた新天地でいきなり結果を出した伊東や堂安、久保、昨季UEFAヨーロッパリーグ(EL)王者に輝いたフランクフルトで得点を取りまくる鎌田に比べると、やはり南野の状況は芳しいとは言えなかった。9月代表シリーズで、主力級がズラリと並んだアメリカ合衆国代表戦ではなく、エクアドル代表戦に起用されるのも、やむを得ないことだったのだ。

 森保ジャパン発足時からエースと位置づけられ、10番を背負ってきた男のスタメン落ちが現実味を帯びる中、本人は周囲の雑音をシャットアウトして、トップフォームを取り戻そうと努力し続けている。

「僕は(メディアの評価とか)そういうのを見ても何も解決しないってのは分かってるんで、自分が成長できると信じてやっていくだけだと思ってます」

 9月にこう強調した南野は約2カ月を経て、ようやく体のキレとゴール前の鋭さを取り戻しつつある。このままいけば、W杯本番はもっといい状態で迎えられるはず。となれば、酷評され続けてきた10番が爆発し、日本の救世主にならないとも限らないのだ。

 冷静に見れば、南野は森保ジャパンで17ゴールとチーム最多得点者。大迫勇也や原口元気といったW杯経験者も皆無で、攻撃陣では最も代表経験豊富なアタッカーなのだ。これまでW杯を逃してきた悔しさも含めて、彼にはカタールに賭ける並々ならぬ思いがあるはず。それを全てピッチにぶつけられれば、ひょっとすればひょっとする。

 4年前の香川真司がそうだったように、下馬評を見事に覆すような華々しい活躍を南野には強く期待したいものである。

(取材・文:元川悦子)

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