意外にもイングランドの強みは堅守 厄介なのは対ウェールズ
グループリーグ通過の本命はイングランド。力関係は1強3弱の構図になっている。ただ、3弱とは書いたが他の3チームが弱いという意味ではない。力関係でイングランドが格上というだけで、それも絶対的なものではない。というのもこのグループの4チームはプレイスタイルが似ているからだ。
いずれもパワフルで組織的なプレイスタイルである。英語圏の3カ国が似ているのは自然だが、イランもプレイスタイルとしてはわりと近いのだ。
戦術的に世界最先端のプレミアリーグ強豪クラブの選手を集めているイングランドだが、なぜかプレイスタイルはプレミアの中堅クラブのようになっている。もっといえば、スウェーデンに近い印象だ。定規で引いたようなきれいなゾーンのライン形成による堅固な守備が特長。そこから繰り出すカウンターはさすがに鋭いのだが、最先端の戦術というより堅守速攻型の仕上がりになっている。
もともとスウェーデンのスタイルはイングランドの監督が持ち込んだものなので、イングランドとスウェーデンが似ていて不思議はない。ただ、マンチェスター・シティやリヴァプールなど、最先端のクラブのあるイングランドの代表チームが原点回帰しているのは面白い現象だと思う。
個々のタレントではこのグループで抜きんでているので優位性はある。ただし、対戦相手がことごとく似たタイプなのでイングランドは相手の守備ブロックに対峙することになるだろう。そうなったときのイングランドは持ち味が出にくい。
おそらく最も厄介なのは勝手知ったるウェールズだろうが、対戦順はイラン、アメリカ、ウェールズなので悪くない。ハリー・ケイン、ラヒーム・ スターリング、ブカヨ・サカによるカウンターは威力十分。フィル・フォーデン、マーカス・ラッシュフォード、ジャック・グリーリッシュと個で突破できるアタッカーにも不足はないが、グループリーグはジュード・ベリンガム、デクラン・ライスなどMF中央を司る選手たちのかじ取りにかかってくるのではないか。意外と苦戦する可能性はある。
プリシッチ、タレミ、ベイル “3弱”とはいえタレント揃い踏み
次回開催国のアメリカはハイプレスの強さに定評がある。しかし、緒戦は堅守速攻のウェールズなので、ここで負けると次がイングランドという土俵際になってしまう。ただ、この2戦を勝ち越せれば自信を持つだろう。テクニカルなチームのないグループなので、ハイプレスがハマればチャンスはある。ウェストン・マッケ ニーとクリスティアン・プリシッチが 攻撃の切り札だ。
堅固な守備とパワフルな攻撃のイランは緒戦のイングランド戦がカギになりそうだ。選手たちを知り尽くしたカルロス・ケイロス監督の老練 な手腕に期待がかかる。アリレザ・ジャハンバフシュ、サルダル・アズムン、メフディ・タレミの3トップはパワーがあり、3戦とも重厚感のある攻防がみられそうだ。
64年ぶりの出場となるウェールは、ワールドカップの経験こそ3カ国に劣るとはいえ、EURO2016 ではベスト4、2021年開催のEUROでもベスト16入りしていて 実力はある。5バックの堅守からエースのガレス・ベイルによるカウンターが持ち味だ。イングランドのリーグでプレイしている選手が大半なので、イングランドについてはよく知っている。
似た者同士のパワフルな激突の連続となるグループ。イングランド 苦戦したとしてもおそらく突破はすると思う。残り1チームは予断を許さないが、対応力が優れているウェールズが勝ち抜くのではないか。ヨーロッパの試合でさまざまな相手と対戦していて、システム変化など対応力の高さをみせている。米国、イランにはこれがあまりない。イングランドとの対戦が3戦目というのも悪くない。米国に勝てば、イランには連勝して一気に突破を決める可能性もある。
ちなみにこれまでの大会のような 移動による影響はおそらくほとんどないだろう。飛行機を使うような長距離移動がなく、会場の多くもドーハに集中している。その点では移動のハンデがない大会といえる。
11月といえども日中の気温は高いが、夕方以降は一気に涼しくなる。今大会は6月開催用に用意したスタジアム内の冷房を使うそうなので、フィールド内の選手たちの体感 温度はかなり低いのではないかといわれている。それからすると、フィジカルなこのグループの4チームは戦いやすいはずで、フルパワーの対決が期待できそうだ。
文/西部 謙司
電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)275号、11月15日配信の記事より転載