堅守失ったベルギーは敗退もある モドリッチ健在のクロアチアは安泰

構図としては2強2弱という予想 しやすいグループといえる。前回大会準優勝のクロアチア、3位だったベルギーがグループを突破すると考えられる。

FIFAランキング2位、このグループの本命と目されているベルギーだが、世代交代が進んでいないのは 気がかりなところだ。とくにヤン・フェ ルトンゲン、トビー・アルデルヴァイ レルトがいまだにDFの中心というところに危うさを感じる。4年前の守備の重鎮ヴァンサン・コンパニに代わってレアンデル・デンドンケルが3 バックに組み込まれているが、高齢化によるDFのスピード不足が懸念されている。  

ケビン・デ・ブライネ、エデン・アザール、ロメル・ルカクの攻撃陣はそのまま。トマ・ムニエ、アクセル・ヴィツェルらMF陣にも変化がなく、ユーリ・ティーレマンスが加わったぐらい。手慣れたコンビネーションやカウンターアタックの鋭さは健在だが、過去のワールドカップで拠り所になっていたのは実は守備力なのだ。

黄金世代の台頭で多彩な攻撃力を持ったベルギーは、前回のロシア大会と前々回ブラジル大会はどちらも攻撃的なスタイルでグループリーグを勝ち抜いている。ただ、伝統的に慎重で堅固な守備型のスタイルも継承していて、前回大会でそれが発揮されたのが準々決勝のブラジル戦だった。ブラジルの強みである左サイドを封じるために変則的なシステムを組み、デ・ブライネを「偽9番」に起用して前半にペースを 握った。後半はブラジルの猛攻をしのいで勝利している。自分たちのスタイルで押し切るのではなく、相手に合わせた戦いのほうが本領を発揮するタイプなのだ。ノックアウトス テージからの対応型のベルギーこそが本当の姿なのだと思う。ところが今回は守備陣に脆さがあり、これまでの拠り所が揺らいでいる。意外とグループリーグ敗退もありえるかもしれない。

クロアチアはルカ・モドリッチ次第だろう。37歳の大ベテランだがレアル・マドリードでも相変わらずの活躍ぶりであり、フィールド内外での影響力は大きい。おそらくズラトコ・ダリッチ監督よりも大きな存在に なっていると思う。モドリッチ、マルセ ロ・ブロゾビッチ、マテオ・コバチッチのMFトリオは大会屈指のパートで、チームのエンジンかつ頭脳になる。ただ、さすがにモドリッチに頼りすぎるのは危険だ。基本システムは[4-3-3]だが、適宜にモドリッチを前残りさせる[4-4-2]のブロックも組んでいる。モドリッチを消耗させないための工夫だろう。

CBのヨシュコ・グヴァルディオル、FWロヴロ・マイェルといった新世代の台頭もあり、各ポジションに 実力者を揃えている。クロアチアの強みは職人的な選手を揃えながら対応力もあるところだ。システムを可変させるというより、相手に対応しているうちに[4-3-3]が崩れていく。ところが、その状態でも戦える。例えば、ウイングのイヴァン・ペリシッチが守備に追われてSB化してしまってもSBとしてちゃんとプレイできるのだ。各国リーグでプレイするクロアチア代表選手は良い意味でつぶしがきくタイプが多い。モドリッチにしてもレアルではロナウドやベンゼマを支える側であり、コバチッチはレアル時代にメッシをマンマークしたこともある。そうした経験を積んだ選手がほとんどなので、スペシャリストであるだけでなく攻守に対応力があり、結果的にチームとしての対応力にもつながっている。

“ハリル切り”もモロッコは順調 カナダは異質なダークホース

[特集/カタールW杯GS展望 GROUP F]危ういベルギーに襲い掛かるダークホース 対応力あるクロアチアが抜きんでる
レグラギ政権となって戻ってきたツィエク。左足から放たれる高精度のキックはモロッコを勝利に導く photo/Getty images

モロッコはヴァイッド・ハリルホジッチ監督を本大会まで3カ月となったところで解任、ワリド・レグラギが新監督となった。無敗で予選を通過し、歴代最高クラスの戦績だったハリルホジッチ監督が解任された背景には、モロッコのスターであるハキム・ツィエクやノゼア・マズラウィを外したことが発端だった。監督交代後はツィエク、マズラウィが復帰。ア クラフ・ハキミ(パリSG)、ユセフ・ エン・ネシリ(セビージャ)、ソフィアン・アムラバト(フィオレンティーナ) など欧州各国でプレイする選手たちを中心に編成されている。フランス生まれのレグラギ監督は「モロッコのグアルディオラ」と呼ばれ、ツィエクとマズラウィを加えたチームを短期間で機能させている。ベルギー、クロアチアにとってモロッ コは要注意の相手といえる。

カナダはアウトサイダーと見られているが、このグループで波乱を起こす可能性を秘めている。多彩なルーツを持つ選手たちを集めたカナダは強度の高いハイプレスが持ち味だ。バイエルン・ミュンヘンで活躍しているアルフォンソ・デイビスを筆頭にスピードがあり、球際に強いメンバーで構成されている。3バック、4バックを適宜に変化させるシステムもスムーズで、テクニカルな3チームとは異質なプレイスタイルといえる。ジョナサン・デイビッドらのFWに破壊力もあり、他の3チームとはタイプが違うだけにハマれば勝ち抜ける可能性もある。

ベルギー、クロアチアが優位とはいえ、モロッコとカナダにはジャイアントキリングを起こす力があり、ベルギーは緒戦のカナダ戦で不覚をとれば一気に崩れるかもしれない。

文/西部 謙司

電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)275号、11月15日配信の記事より転載