不思議なことが起こるもので、ブラジル、セルビア、スイスは2018年ロシアW杯でも同じグループだった。前大会は残る1チームがコスタリカだったところに、今大会はカメルーンが入った。ブラジル、スイスがラウンド16に進み、セルビア、コスタリカが敗退したのが前回である。順当にいけば、同じ結果になりそうである。
ブラジルはグループステージ突破の大本命であり、優勝候補の筆頭でもある。2016年6月から指揮を執るチッチ監督は[4-2-3-1][4-3-3]を使い分けて継続性のある強化を行ってきた。チームは抜群の安定感を誇り、19年コパ・アメリカ優勝、21年コパ・アメリカ準優勝、南米予選無敗など、ここ数年は相手に隙をみせていない。付け加えるなら、U-24が東京五輪で金メダルを獲得している。
そのブラジルは11月7日に登録選手26名を発表した。圧巻はやはり攻撃陣の顔ぶれで、ネイマール、ヴィニシウス・ジュニオール、ロドリゴ、ハフィーニャ、ガブリエウ・ジェズス、ガブリエウ・マルティネッリ、アントニー、リシャルリソン、ペドロと並ぶ。ロベルト・フィルミーノ、フェリペ・コウチーニョ(負傷中)といった経験ある選手の名前がなくても十分に豪華な選手層となっている。
フラメンゴでプレイする25歳のペドロは代表経験こそ浅いが、2022年コパ・リベルタドーレスで12得点をあげてチームを優勝に導き、得点王にも輝いている。身体が大きく前線でボールを収められるタイプで、ガツガツいけるファイターでもある。既存のセレソンにいない感じのプレイスタイルであり、対戦相手は戸惑うかもしれない。
力強さと粘りがあるセルビア、試合巧者なスイス、一発を起こすポテンシャルがあるカメルーンと続く対戦スケジュールは、平均的な国であればこれほど嫌な連戦はない。しかし、ブラジルは平均的な国ではない。いつの時代もどんなメンバーでもブラジルはブラジルで、W杯のグループステージ(1次リーグ)で敗退したのは1966年まで遡らなければならない。
しかも、今大会は攻撃陣にタレントが揃ううえ、後方には経験豊富なチアゴ・シウバ、ダニエウ・アウベス、カゼミロなどがいる。突発的なアクシデントがあっても、落ち着いて対応できるチームに仕上がっている。また、セレソンの象徴であるネイマールにとって3度目のW杯で、今大会が最後の挑戦になるとの噂もある。当然、照準を世界一に合わせている。難敵が揃っているが、ブラジルがグループステージで敗退するとは考えにくい。
2番手スイスを脅かすセルビアの破壊力
2位争いに目を向けると、どの国にもチャンスがある。とはいえ、やはり突破の可能性は各国で違い、もっとも優位なのはスイスだ。5大会連続出場となるスイスは大舞台に強く、14年W杯、18年W杯でいずれもベスト16に進出。21年のEUROでもベスト8入りしている。今回の予選ではそのEUROを制したイタリアと同組になり、5勝3分けの無敗で首位通過している。
守護神のヤン・ゾマー、CBのマヌエル・アカンジ、ニコ・エルヴェディ、ファビアン・シェアなどで固める最終ラインは高さ、強さ、速さ、ポジショニングの良さがあり、予選8試合でわずか2失点だ。中盤にはグラニト・ジャカ、ジェルダン・シャキリがいて、強度の高い守備でボールを奪うと彼らにボールが渡り、左SBリカルド・ロドリゲス、右SBシルヴァン・ヴィドマーなどが素早く攻撃参加してサイドを攻略する。そして、前線のブレール・エンボロが精度の高いカウンターを完結させる。
前任者のウラジミール・ペトコビッチからチームを引き継いだムラト・ヤキンはこうしたスタイルを踏襲しており、一貫性のある戦いを続けている。チームの完成度を考えると、スイスが2位通過する可能性が高い。
ただ、経験ではスイスに一日の長があるが、ドラガン・ストイコビッチ監督が指揮を執るセルビアには勢いがある。アレクサンデル・ミトロビッチ、ドゥシャン・ヴラホビッチの2トップは破壊力があり、欧州予選ではポルトガルをプレイオフに追いやってこちらも無敗で首位通過している。スイスとセルビア。両者が対戦するのは12月2日の3戦目で、この一戦でラウンド16進出チームが決まることになる。
カメルーンも前線が強力で、バイエルンのエリック・マキシム・チュポ・モティング、ナポリのアンドレ・フランク・ザンボ・アンギサがいる。さらに、守護神はバルセロナの下部組織で育ったアンドレ・オナナだ。選手個々の能力が高く、間違いなく番狂わせを起こすポテンシャルはある。しかし、今大会は相手が悪い。
試合巧者スイスと初戦で当たり、力強さと粘りのセルビアと2戦目で戦う。最後に優勝候補ブラジルが待っているのでこの2試合で答えを出しておきたいが、両国は勝負強く、どちらも予選を無敗で勝ち上がっている。カメルーンが波乱を起こすのは、今大会ではない。
文/飯塚 健司
電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)275号、11月15日配信の記事より転載