カタール・ワールドカップ(W杯)の日本代表の命運を左右する、重要な初戦・ドイツ戦は11月23日に開催される。

 1-2の逆転負けという不完全燃焼感の濃い結果を余儀なくされた17日のカナダ戦を経て、森保一監督がチームをどう立て直していくのかが肝心だ。

 指揮官は通常、試合2日前から非公開練習を実施してきたが、今回は4日前からに変更。「森保のカーテン」を引いて、ドイツ対策を徹底させる構え。いよいよ本番モードに突入していくのだ。

「過去3大会を振り返っても、初戦の前の試合が良くないほうが、良い結果を残せるというのを僕は2大会、見ている。今回も(カナダ戦が)良い教訓になってエネルギーにできる」

 こう強調するのは、36歳のベテラン、長友佑都(FC東京)だ。彼が指摘する通り、16強入りした2010年の南アフリカW杯では直前のコートジボワール戦(0-2)に敗れ、そこから岡田武史監督の本田圭佑の1トップ起用という秘策が出て、初戦・カメルーン戦(1-0)の勝利につながった。

 もう1つ、同様にラウンド・オブ16に進出した2018年のロシアW杯では、直前のパラグアイ戦(4-2)は勝利したが、そこまでのガーナ戦(0-2)、スイス戦(0-2)の2試合が散々だった。

「課題が出たほうが修正しがいがある」とキャプテンの吉田麻也(シャルケ)も語ったが、確かに危機感を持って意思統一を図れるという意味で、カナダに敗れたことは良かったのかもしれない。
 
 そこで、長友が果たすべき役割を考えてみると、1つは経験値の注入だ。今回はW杯初参戦の選手が19人。鎌田大地(フランクフルト)のようにヨーロッパリーグ決勝のような大舞台を経験した選手もほんの一握りで、大一番のドイツ戦を迎えるに当たって過緊張になったり、本来の自分を出せなくなる選手も出かねない。

 そんな彼らを率先してサポートしつつ、一体感を作り、戦い方の方向性を確立させていくのがフィールド最年長男のタスクだ。

 もう1つ重要なのが「左のエースキラー」の仕事である。ドイツの右サイドにはヨナス・ホフマン(ボルシアMG)、あるいはセルジュ・ニャブリ、ジャマル・ムシアラ(ともにバイエルン)など強烈な個の打開力を誇るアタッカーが陣取ってくる。誰がきても強度・技術・駆け引き・戦術眼に優れ、手強い相手だ。

 カナダ戦を見ても、相手のディジョン・ブキャナン(クラブ・ブルージュ)の縦の突破力に日本の左サイドが翻弄され、繰り返しCKを与え、その流れからリスタートで失点している。こういった形を招かないように、目の前の相手を完封する必要があるのだ。

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 左SBでその大役を担うのは、やはり長友だろう。シュツットガルトで高度な経験値を積み重ねる伊藤洋輝も成長株ではあるが、やはりW杯の大舞台を数多く経験し、南アフリカ大会ではサミュエル・エトー(カメルーン)、エルイェロ・エリア(オランダ)ら各国のキーマンを封じてきた長友の対人守備は、36歳になった今も特筆すべき点がある。

 そこは森保監督もよく理解しているはず。今回は南アフリカ大会の再現を期待して送り出すのではないだろうか。

「相手は誰が出てきてもビッグプレーヤー。ただ、誰が出てきても、自分が止めてチームが勝つという準備はできています。ドイツの試合は見ているし、しっかり分析はしています。あれだけのレベルの相手ですから、楽しみじゃないですか。ガチンコの勝負ができるんだから。楽しまないと損だなと思いますね」

 長友本人は意欲満々だが、一瞬の隙でも与えたら決定的な仕事をされてしまうのは、誰よりも分かっているはずだし、そうはさせまいと覚悟を決めているはず。代表キャップ数138試合の百戦錬磨の仕事人。最近もブラジル、エクアドルといった強敵に的確なマーキングを示してきただけに、期待して良さそうだ。
 
 カナダ戦の終盤のようにウイングバックで出る場合は、攻撃的役割の比率も上がるだろうが、ドイツ戦は、まずは守備。しかも、自身の前に久保建英(レアル・ソシエダ)が入るのであれば、なおさらだ。

 後ろがしっかり安定しなければ、21歳の若武者の鋭いアタックも活かせない。左の攻撃を活性化させるためにも、やはり左SBの安定感は不可欠と言える。

 自身の集大成とも言えるカタール大会で、長友には持てる力の全てを出し切ってもらうしかない。「日本のエースキラー」として世界を驚かせ、インテルへのステップアップの足がかりを築いた12年前を思い出して、彼には原点回帰で強固な守りを徹底的に見せてほしいものである。

取材・文●元川悦子(フリーライター)