サッカーの世界では時間の流れが早く、次々と新星たちが登場してくる。カタール・ワールドカップでも、注目される若手が多い。その一方で、見逃したくないベテラン選手たちがいる。ベテランのサッカージャーナリスト・後藤健生には、3人のベテランW杯戦士の「日の出」の時代のエピソードがある。

■ベテラン勢の最後の輝き

 いよいよ開幕したFIFAワールドカップ・カタール2022。

 圧倒的な優勝候補不在の混戦模様のように思える。ともに無敗で南米予選を勝ち抜いたブラジルとアルゼンチン評価は高いが、ヨーロッパ・ネーションズリーグが始まったことによって、ともにヨーロッパのチームとの対戦がほとんどないあたりに不安材料がある。ブラジルがヨーロッパの中堅国であるスイスやセルビアでどのような戦いをするかが注目だ。

 選手個人に目を転じると、21世紀に入ってから世界のサッカー界をリードしてきたクリスティアーノ・ロナウドとリオネル・メッシが、ともに最後のワールドカップとなるのではないかと噂されている。ロナウドが37歳、メッシが35歳という年齢を考えれば、彼らにとってこれが最後のワールドカップとなる公算は大きい。

 一方で、スペインでは18歳のガビや19歳のペドリ、ドイツでは19歳のジャマル・ムシアラといった若手も台頭。ノルウェーが予選で敗退して、アーリング・ハーランドが見られないのは残念だが、次世代を担う若手選手の活躍も期待されており、いわば世代間の端境期に差し掛かっているのかもしれない。今さらではあるが、キリアン・エンバペだって、まだ23歳の若さなのである。

 そんなワールドカップでベテラン勢がその存在感を発揮するのか、若手が一気に世代交代を推し進めるのか……。

 ずっとワールドカップを見続けてきている僕としては、ベテラン勢の最後の輝きを見てみたいところである。

 そこで、今回はベテラン選手たちについての個人的な思い出について語ってみたい。

■19年前に出会った有望な若手

 僕が初めてクリスティアーノ・ロナウドのプレーを(生で)目にして、またロナウドと話をしたのは今からもう19年前も前の2003年4月のことだった。

『サッカー批評』のポルトガル特集の取材に行ったのだ。リスボンのジョゼ・アルバラーデで行われたスポルティングCPのホームゲーム。相手はヴィトリア・ギマラエス。

 将来有望な若手と聞いて期待していたロナウドはベンチスタートだったが、68分にようやく登場。プレー時間は少なかったが、左サイドでドリブルでしかけ、そして遠目から積極的にシュートを放ってその片鱗を見せてくれた。

 ちなみに、右サイドにはこれも長く活躍することになるリカルド・クアレスマがプレーしていた。

 その後、僕はスポルティングの育成の現場を取材するためにスポルティングのトレーニング・センター「アカデミア」のクラブハウスを訪ねた。首都リスボンからテージョ河にかかるヴァスコ・ダ・ガマ橋を渡った対岸、アルコシェテにある真新しい施設だった。

 施設を見学させてもらってから、広報の女性に若手の選手に話を聞きたいとお願いした。僕としては、アカデミアで練習しているユース年代の選手の話が聞ければと思っていたのだ。

 そうしたら、広報担当者はなんとクリスティアーノ・ロナウドとクアレスマを連れてきたのだ。

 こうして、突然、大物新人たちの予期せぬインタビューが始まった。

■スポーツカーから手を振ったロナウド

 2人の性格がまったく対照的なのが面白かった。

 クアレスマは内気な性格のようで、モジモジとしながら小さな声で淡々と話す。もともと、リスボンの下町の育ちだということだった。ロマ人という生い立ちもあるのだろうか朴訥な印象を受けた。

 一方のロナウドの方は、これは本当に快活な少年だった。「生まれがマデイラ島なので周囲からは訛りをからかわれるんだ。困ったもんだ」と言いながらも、明るく自分の生活や考えについて雄弁に語ってくれた。

 どんな話をしたのかは、今となっては記憶が判然としないが、当時の日本では右利きの選手は右サイド、左利きは左サイドで使われることが多かったので、その話をしたら「なんで?」とロナウドが目を丸くして驚いていたことにこちらも驚いたことを覚えている。

 インタビューを終えて、リスボンに帰るためにアカデミアの前で車を待っていたら、颯爽と真っ赤なスポーツカーに乗ったロナウドが、こちらに向かって手を振りながら笑顔を振りまきながら通り過ぎて行った。「とにかく、明るい奴」という印象の青年だった。

■フランスでの再会

 後日談もある。その夏にフランスで開かれていたトゥーロン国際大会を見に行ったときのことだ。日本代表が出場したコンフェデレーションズカップと兼ねての取材だった。そして、ポルトガルのユース代表の一員として、ロナウドも出場していたのだ。

 試合前にポルトガル・チームが集合している横を通りかかったら、ロナウドの方が僕のことを見つけて声をかけてきて、また笑顔で手を振っていた。

 注目株のロナウドにとっても、アジア人の記者のインタビューを受けたのはあれが初めてで、それで僕のことを覚えていたのだろう。

 その後のロナウドの成長と、毀誉褒貶については今さら言うまでもないことだが、いよいよ、そのロナウドが最後のワールドカップを迎えようとしているのである。