先日行われたカタール・ワールドカップへ向けたドイツ代表メンバー発表の記者会見の場で、多くのドイツ人記者から声をかけられ、いろんな話をした。

 例えばフランクフルトの番記者がいた。開口一番に聞いてきたのは長谷部誠についてだ。

「ハセベは入っていないのか。彼はとても素晴らしい選手だ。今でもトップレベルだ。カマダは本当に優れたゲームメーカー。フランクフルトではゲッツェと二人で見事な連携を築いている。頼もしい選手だ」

 初参戦となったチャンピオンズでグループリーグを突破し、ブンデスリーガでも4位につけているフランクフルトへの評価はとても高い。その中心選手のマリオ・ゲッツェと鎌田大地がW杯で対戦する。フランクフルト記者にとってそれは何よりワクワクするテーマなのだ。
 

 ハノーファーの記者からはこうだ。最初に上がった名前は、久しく代表には招集されていない室屋成だった。

「ムロヤはどうした?彼は今季ハノーファーで素晴らしいシーズンを戦っているよ。攻撃だけではなくて守備もいい。攻撃面ではコンスタントに優れたプレーでアクセントを加えている。今までで一番いい。代表では若くないのか? 守備面で不安視されていた? 今季のプレーを見ているのかな?まあハノーファーは2部だけど。でもこれまでで一番いいパフォーマンスを見せているのは間違いないよ」

 続けて聞いてきたのは、元ハノーファーの原口元気の落選についてだ。

「ハラグチもいないんだろう?なぜなんだ?彼もハノーファーでプレーしていたからよく知っている。ムロヤもそうだけど『2部だからワールドカップのメンバーから外れる』というのなら少しはわかるんだけど。でもハラグチはウニオンで戦力としてプレーしている選手じゃないか。シュート精度にはまだ難があるけど、彼は本当に優れたスピリットとチームのためにプレーする好選手だよ。彼よりも優れた選手が選出されたということなのか?」

 ハノーファーでプレー歴のある日本人はかなり多い。そのあとも酒井宏樹、清武弘嗣、山口蛍の名前を挙げてはその当時の思い出話をし、最後には今季ハノーファーは昇格できるかのテーマになっていった。

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 ケイタリングコーナーでコーヒーと小さなケーキを取ってテーブルに戻り、今度はドルトムントからきていた初老の記者と話をした。記者歴は30年というベテランだ。

「よく知っているだろう。あのシンジ・カガワ(香川真司)がプレーしていたクラブだよ。彼はまだプレーしているのか。そうか、ベルギーでプレーしているのか。本当に素晴らしい選手だった。いまでもあのシーズンのことはよく思い出すよ」

 ドルトムントが最後にリーグ優勝した時のメンバーだ。ドルトムントファン、記者、関係者にとっての特別感は半端ない。彼の話も尽きない。

「ドイツ代表のメンバーはとてもバランスがいいね。各ポジションに優れた選手を招集できて、ベテラン、中堅、若手のバランスもいい。これまで問題視されていたセンターフォワードのポジションにも期待できる候補選手が入った。ハンジ(フリック監督)はいい決断を下したと思う」
 


 ドイツ代表のW杯メンバーについて満足げに語った後、今度は自分の一押し日本人選手について語りだした。

「日本人選手はブンデスリーガで多くプレーしているよな。いい選手が多いよ。フランクフルトの彼もいいな。えーっと、年を取ると名前を覚えるのが大変なんだ。うーん、そうカマダ、カマダだ。すぐれた中盤の選手だな。ゲームオーガナイズができて、決定機に絡むことができる」

 そういえば、「鎌田はドルトムントの補強リストに入ってるなんてニュースが出てたけど?」とふってみたら、初老の彼はニコッと笑って「どうなるだろうね。移籍話は最後までわからないものだよ」と答えた。

 しばらく話した後、W杯を何度も取材している彼がこれまでの大会を振り返りながら、こんなことをつぶやいた。

「国が違って、土地が違えば、人の考え方だって、常識だって違うだろう。サッカーだってそうだ。その違いがサッカーにも表れてくるんだ。ワールドカップとはそうした違いの中で戦う大会なんだよ」

 ベテラン記者の言葉は深い。違いに気づき、順応し、対応する。大会会場となる土地への順応や対応も含まれているし、それぞれの試合における順応や対応もそうなのだろう。クラブレベルでの試合とは違う何かがワールドカップにはある。個々の選手のプレーも、チームとしてのプレーもやはり違う。

 そうした違いに戸惑うのではなく、新しい発見として受け止めていきたい。選手にとっても、監督・コーチにとっても、スタッフにとっても、関係者にとっても、サッカーファンにとっても、僕ら記者にとっても、ワールドカップは4年に一度の世界の祭典なのだから。

取材・文●中野吉之伴