ワールドカップ・カタール大会3日目は、優勝候補の一角を占めるアルゼンチンとフランスが初戦に臨む。それぞれサウジアラビア、オーストラリアとアジア予選を勝ち抜いた国との対戦だ。

 いずれも背番号10のメガクラック(リオネル・メッシ、キリアン・エムバペ)を抱える強国だが、やはり本日の16時(日本時間22時)からチュニジアと激突するデンマークにも要注目だ。この国の10番を背負うのは、クリスティアン・エリクセン。2021年に開催されたEUROで心停止というアクシデントに見舞われた攻撃的MFは、自身三度目となるW杯でどんなパフォーマンスを披露するか。

 デンマークの10番と言えば、ミカエル・ラウドルップを思い出す方も少なくないかもしれない。1980年代から90年代にかけて、ユベントスやバルセロナ、レアル・マドリーなどで活躍し、キャリアの晩年にはヴィッセル神戸にも所属した往年の名MFだ。

 そのレジェンドがW杯と母国のサッカー史に残した英雄譚とは――。

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 98年W杯の準々決勝。対戦相手は王国ブラジル。もしかすると、何か大きなことをやってのけるのではないか。観戦者たちが期待を膨らませていたのは、デンマークに有名な兄弟が、とりわけ兄のミカエル・ラウドルップがいたからだ。

 デンマークなら、大きなことをやってのけるのではないか。なぜならミカエル・ラウドルップがいる――。多くのサッカーファンがそう期待するようになったのは、86年のメキシコ大会からだろう。デンマークはW杯本大会初出場ながら、破竹の3連勝でグループリーグを突破する。そのうち2勝は、歴代優勝国のウルグアイと西ドイツを倒すどちらも金星だった。

 以来、大国からも畏怖される“ダニッシュ・ダイナマイト”の中心にラウドルップは君臨し続ける。
 
 世界中の度肝を抜いたのが、ウルグアイを6-1で粉砕した86年大会のラウドルップのドリブルだ。52分にはバイタルエリアから敵の守備者が5人は構えていた密集地帯に侵入すると、最後はGKまでかわして自らスコアラーとなる。

 続く67分には右方向からボックス内に入り込むと、守備者3人を置き去りにしてGKとの1対1に持ち込み、デンマークの追加点に繋げてみせる。ゴールへの道をどこか気品を感じさせながら切り拓く、エレガントな仕掛けを大きな魅力としていたラウドルップは当時21歳。どこまで伸びていくのだろうかと、そんな楽しみも残してくれた。

 迎えた98年W杯。本大会出場が12年ぶりとなったラウドルップは、ユベントスに4年、バルセロナに5年、レアル・マドリーに2年在籍という輝かしい経歴を携え、キャリアの集大成となる自身最後のW杯に背番号10番をつけて臨む。

 惜しくもその大会の準優勝国となるブラジルに2-3で敗れはしたが、W杯でのベスト8は現在に至るまでデンマークの最高成績となっている。その中心に君臨し続けたのが、ブラジル戦を最後にプロキャリアに終止符を打つラウドルップだったのだ。

文●手嶋真彦

※『ワールドサッカーダイジェスト』2022年11月17日号より転載