デスク カタールワールドカップがついに開幕しました。そして日本代表のグループステージ初戦となるドイツ代表との一戦(23日、日本時間22時)が近づいてきました。ドイツが強いことは百も承知ですけど、ネーションズリーグでは今一つパッとしませんし、最後のテストマッチ(16日)でもオマーン相手にミスが目立っていましたよね。終盤に何とか1点奪って勝利しましたけど、調子があんまりいいとは言えないんじゃないですか。
二宮 テストマッチはあくまで調整。対戦相手のオマーンはほぼ国内組で仕上げてきていますから「ドイツが悪かった」というよりも「オマーンがまずまず良かった」と言えると思うんですよ。だからこのオマーン戦から1週間で、どれくらいコンディションを上げて、連係を高めていけるかじゃないですかね。
悪い面ばかりだけじゃなくて、ケガで本大会メンバーから外れたティモ・ベルナーに代わって選ばれた29歳のニクラス・フュルクルクが代表デビュー戦で決勝点を奪ったのは、ドイツにとって明るい材料になりましたよね。それに悪いと言っても、別に点を取られたわけじゃないですし。
日独で異なる初戦へのアプローチ
デスク 日本がアップセットを起こす機運がちょっとずつ高まっているようにも感じるんですけどね。
二宮 「Number渋谷編集室with ABEMA」の座談会企画でサッカー解説者の戸田和幸さんが「約1週間前まで試合をやって中断ですから(大会前に)十分な準備期間が取れない。初戦にいろんなことが起こり得るかもしれません」と語っていましたけど、初戦だからこそチャンスはあると思います。決勝を含めて7試合を想定し、徐々に上げていくであろうドイツに対して日本は初戦からある程度100%で入ってくるでしょうから。
デスク 日本のメンバーの大半は欧州でプレーする選手。準備期間が足りないのはドイツとあまり変わらないとも思うのですが、100%近く持っていけることって可能なんですかね。
二宮 今春、グループステージの組み合わせが決定した後、森保一監督にインタビューした際にその話になったんですよ。「日本人選手は適応能力が高く、すぐに同じ絵を持てる能力がある。準備期間がないとしても準備力のメリットを活かせれば逆にパワーに変えられるんじゃないか」と言っていて、短い準備期間をデメリットと捉えていないんです。
デスク ほう。
二宮 成功体験としてワールドカップ出場を決めた今年3月のアジア最終予選、アウェーのオーストラリア戦があると思うんです。集合して2連戦の一発目はいつもパフォーマンスが良くなかったのに、この日は体が少々重い部分をみんなで補って集中力とテンションを落とさなかった。聞けば事前に相手のスカウティング情報などを渡して“予習”させていたみたいで、選手たちは今回もそういった事前準備をしたうえでカタールに入ってきたことは容易に想像できます。
デスク 心配なのは、ケガや体調不良の選手のコンディションですよね。本番前、最後のテストマッチとなったカナダ戦では遠藤航が脳しんとう、守田英正、冨安健洋がケガ、そして三笘薫が体調不良による合流遅れで欠場しました。
カナダ戦で見えた課題
二宮 こればかりは回復を願うのみですが、そのカナダ戦ではケガで代表から離れていた板倉滉、浅野拓磨のコンディションを見ると悪くなさそうでした。ケガ明けの田中碧も問題なさそうです。ただ別メニューが続くと報道されている守田の状況は気になりますね。
デスク カナダとの試合を簡単に振り返ると、柴崎岳のパスに合わせて飛び出した相馬勇紀のゴールで先制しましたけど、セットプレーから同点に追いつかれて1-1に。最後の最後、山根視来がペナルティーエリア内で相手選手を倒してPKを与えて、結局は1-2で敗れました。守備のセットプレーは大きな課題ですね。
二宮 カナダは北中米カリブ海予選を1位で突破しただけあって強い相手でした。守備のセットプレーのことで言うと、失点シーンの前に右CKが2度あっていずれも先に相手に当てられています。そして3度目の右CKで決められてしまった、と。現時点で明白な弱点だと言えますし、間違いなくドイツは狙ってくるでしょうね。ファウルで与えた直接FKを含めてセットプレーのチャンスがカナダには多かった。逆に日本はあまりもらえていません。セットプレーの修正はもちろんのこと、押し込まれてセットプレーを多く与えるような展開になれば、失点は時間の問題になるかもしれません。全体をコンパクトにして極力、前で食い止めたいですよね。
デスク とはいえ、3バックのカナダに対して前線からのプレッシングもなかなかハマりませんでした。
二宮 (ボールを)奪えないとなったときに、前線がプレスに行っても後ろが躊躇してしまうという場面も散見されました。ただ前半13分の場面のように、連動したプレスからボールを下げさせ、そして蹴らせたボールを回収して柴崎が左サイドのスペースに出そうとしたり、前半35分には久保建英、南野拓実のプレスからマイボールにして久保のシュートにつなげたり、とチャンスがなかったわけではありません。チャンスの数をもっと増やせばいいですけど、ドイツ相手になかなかそれは考えにくい。確実に決めることができればそれに越したことはありませんが、シュートまで結びつけて枠内に飛ばして多少なりともビビらせておくことが大事。嫌な印象を植えつけておけば、相手のミスを引き出せる確率が多少なりとも上がってくるはずですから。
デスク 二宮さんがドイツ戦を控えたという状況を踏まえた上で、カナダとの試合で注目した選手は誰ですか。
二宮 いつものトップ下ではなく、ボランチで後半途中から起用された鎌田大地ですね。フランクフルトではボランチでもプレーしていますし、体が強いからまったく当たり負けない。圧巻だったのは後半30分です。ボールを奪って右サイドをドリブルで駆け上がって、自分の外を回るように味方を走らせつつ、逆サイドでフリーになっている相馬にパスを出してゴール前へ。結局ファーに送られたボールをうまく折り返せなかったものの、ポジションがどこであろうがゴール前のチャンスに絡んでいける。
ドイツもハイプレスが売りですし、ボランチの位置でボールを失わず、当たり負けもせず、チャンスを捻出できるという点では非常に心強いですよね。代表でも「ボランチ鎌田」は十分にあり得るんじゃないかと感じました。ほかにもパスで違いを見せた柴崎、ゴールを挙げるなど調子の良さを感じさせる相馬などはいいアピールにはなったのではないでしょうか。
ドイツ戦のスタメンは?
デスク さてドイツ戦はどのようなスターティングメンバーになりますかね。
二宮 まずもってコンディションがいい選手を選ぶことが第一条件になりますよね。そこを基本として、9月に行なわれたアメリカ戦のスタメンが軸になるんじゃないかとは考えています。
デスク そうなると1トップは前田大然。
二宮 そうですね。プレッシングの強度、連続性に彼を「いい守備からいい攻撃」の先導役にしたいと森保監督は思っているのではないでしょうか。
デスク 中山雄太がケガによって本大会のメンバーから外れたことで、左サイドバックはカナダ戦で先発起用の伊藤洋輝、そして経験豊富な長友佑都のどちらになる、と。
二宮 カナダ戦のパフォーマンスだけで言えば、決め手に欠けた印象もあります。ならば、別のプランもあるのではないか、と。
デスク ん? と言いますと。
二宮 中山の欠場に伴って誰と入れ替えるかと考えたときに、同じサイドバックか、またはそのポジションもやれるユーティリティータイプかのいずれかだと思ったんです。でも選んだのはフォワードの町野修斗でした。つまり今のメンバーで併用できると森保監督は判断しているのだと読みました。ならば冨安が初戦のドイツ戦でプレーできるコンディションなら、アーセナルでやっているように左サイドバックもあり得るな、と。
デスク ドイツの2列目はレロイ・ザネ、セルジュ・ニャブリ、トーマス・ミュラーそして19歳のジャマル・ムシアラとワールドクラスのタレントがそろっています。サイドのアタッカーをどう封じるかが守備のポイントになりそうです。
二宮 やっぱりサイドをえぐられたくないし、なるべくならクロスも上げられたくない。カナダ戦を見ても酒井宏樹には守備における安定感がありました。守備の時間が長くなり、ドイツが空中戦に強いことなども総合的に考えると、ケガから間に合った板倉をセンターバックに置いて、右サイドバックに酒井を、そして左に冨安という結論に至っても何ら不思議ではありませんよ。
データが語る初戦の重要性
デスク 日本代表は過去6大会、初戦に敗れた3大会はいずれもグループステージ敗退というデータがあります。逆に言ったら、負けなかったら可能性が広がるということ。食らいついてでも勝ち点をつかんでほしいですよ。
二宮 ドイツが相手ですから勝利を目指しつつも、現実的には勝ち点1取れればOKくらいに考えたほうがいいと思います。中3日での戦いが続きますし、もし負けたとしても気持ちを引きずらず、切り替えていかなければなりません。
その意味でも大切なのは、第2戦のコスタリカ戦につながるような試合にすること。決して腰っぴきにならず、勇敢に戦っていけば自ずと道は拓けてくるんじゃないでしょうか。何かが起こりそうな初戦、それが日本代表だと期待しています。