2人合わせて「ワールドカップ25大会」を取材した、ベテランジャーナリストの大住良之と後藤健生。2022年カタール大会でも現地取材を敢行している。古きを温め新しきを知る「サッカー賢者」の2人がカタール・ワールドカップをあらゆる角度から語る!

■イランがイングランドに大敗

 この世の中に、人間でなくてはできない仕事、テクノジーには代わることのできないことって、いったいどれだけあるのだろう。後藤さんや私がやっている文章を書く仕事などというものの、私があの世に行って10年もしたら消滅しているかもしれない。

 だが、後藤さんの妄想をこれ以上膨らませないよう、ワールドカップのサッカーの話に戻すことにしよう。

 開幕戦でカタールがいいところなくエクアドルに完敗し、大会2日目の11月21日には「アジアの星」イランがイングランドに2-6という信じ難いスコアで大敗した。イランは2018年ロシア大会ではモロッコに勝ち、スペインとは0-1の際どい勝負をし、ポルトガルとは1-1で引き分けている。残念ながらラウンド16進出は逃したが、欧州勢に負けないフィジカルで堅固な守備を築き、速攻をかけるスタイルは、強豪を相手にしたときにより真価を発揮する。

 そのイランが5-4-1の形で守備を固めながら、イングランドのスピードとポジション取りの巧みさに翻弄され、失点を重ねたのはショックだった。「イングランド強し」の印象もあるが、アジアと世界の格差がこんなに広がったのかと思った。

■これは果たして偶然か

 22日には、サウジアラビアがアルゼンチンに挑戦し、オーストラリアはフランスにぶつかる。いずれも今大会で優勝しても不思議ではない強豪だ。もしアジアがこの2試合も負けると、本当に崖っぷちだ。残るは明日ドイツにぶつかる日本と、24日にウルグアイと対戦する韓国だけである。

 過去ワールドカップで優勝したことのある国は、わずか8つしかない。そして今大会、しかもその初戦で、そのうち5つが大会初戦でアジアのチームと対戦するのである。これは偶然なのだろうか。もしかして、アジアのサッカーにとって重要な試金石なのではないか。

 エクアドルと対戦したカタールは、明らかに「インテンシティ」で劣っていた。攻守両面でほぼ90分間相手に主導権を許してしまったのは、「インテンシティ」の差によるものだった。

 イランは、相手に対する寄せや当たりの強さでは負けてはいなかった。しかしサウスゲート監督が鍛えたイングランドの巧みなポジショニング、なかでも中盤のライス、ベリンガム、マウントのトリオの絶妙な三角形の組み方、数歩動くだけで状況を変えてしまう「立ち位置」の取り方は、世界の最先端のものと感じられた。そのポジショニングにまったく対応できなきなかった結果の大敗だった。

 サウジアラビア、オーストラリア、日本、韓国は、こうしたポイントをどのように整理し、世界的な強豪との戦いに挑むのだろうか。

 アジア勢大ピンチ! そのなかで強豪を相手に一矢を報いるのは、どの国か…。