●「だらしがない」勝利とオランダ代表の弱み

FIFAワールドカップカタール・グループA第2節、オランダ代表対エクアドル代表が現地時間25日に行われ、1-1の引き分けに終わった。初戦に続いてオランダ代表は、各駅停車のパス回しをはじめ、攻撃面の低調ぶりが目立つ。果たして、この問題はなぜ起きているのだろうか。(文:加藤健一)
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 オランダ代表の試合がつまらない。この2試合を見てそう感じた人は決して少なくないはずだ。「期待外れの内容だった」と評したのは初戦・セネガル代表戦後のオランダ紙『テレグラーフ』で、「ずさん」「だらしがない」という表現を使っていた。

 初戦から中3日で迎えたエクアドル代表戦では、それがもっとひどくなっていた。開始6分に先制したものの、その後のパフォーマンスはまさに「だらしがない」ものだった。

 この試合のシュート数は2対15。オランダ代表は前者である。先制点となったコーディ・ガクポが記録したものがファーストシュート。セカンドシュートは65分、トゥーン・コープマイネルスが放ったミドルシュートだった。90分でたったこれだけである。

 振り返ると、セネガル代表戦でも同じような問題を抱えていた。最終的に2-0で勝利しているが、84分に先制するまではどちらに転ぶか分からない展開だったし、さらに言えばアンドリーズ・ノペルトのビッグセーブがなければ全く違った展開になっていたかもしれない。

 ボール保持、非保持、そして保持から非保持(ネガティブ・トランジション)、非保持から保持(ポジティブ・トランジション)、サッカーを4局面に分類すると、オランダ代表は保持の局面が弱すぎる。

●エクアドル代表の思う壺

 最終ラインから組み立てようとする割に、まったくと言っていいほど繋げない。そして、この試合の3バックは右からユリエン・ティンバー、フィルジル・ファン・ダイク、ナタン・アケという並び。配球力や持ち運ぶ能力に優れた3人であるはずだが、各駅停車のパス回しが続いた。

 フレンキー・デ・ヨングが引き取りに来ても、相手の中盤がマンマークで対応しているので前を向けなかった。弧を描くようにボールを回しているだけ。どんなにうまい選手でも、組織としての形が落とし込まれていなければ苦戦するのは必然だった。

 各駅停車のパス回しは、トランジションを得意とするエクアドル代表の思う壺だった。3トップがウイングバックへのパスコースを切りつつ3バックへアプローチし、降りてくるMFに対しては中盤がマンマークで対応していた。オランダ代表は右ウイングバックのデンゼル・ダンフリースを高い位置に上げて4枚回しを試みるが、それもすぐに対応されてしまう。

 そして、後半開始間もない49分、オランダ代表は同点に追いつかれてしまった。

 ファン・ダイクからのバックパスを受けたGKノペルトに、ペルビス・エストゥピニャンが寄せる。なんとかこれはつないだが、デ・ヨングのパスを受けたティンバーがボールを奪われてしまった。この状況でゴール前は4対5と数的不利に。マイケル・エストラーダのシュートはノペルトが弾いたが、こぼれたところをエネル・バレンシアが詰めていた。

 他にもビルドアップの出口を見つけられずに中盤で奪われたシーンはあるが、基本的にはデ・ヨングと3バックがボールホルダーに寄せて時間を作り、ブロックを築く時間を稼いでいた。しかし、直前のプレーの影響もあり、このシーンではオランダ代表の陣形が崩れていた。そこでエストゥピニャンがGKにプレスをかけて蹴り出させ、オランダ陣内にカオスの状況を作り出した。プレッシングと速攻を得意とするエクアドル代表の思う壺となっていた。

●オランダ代表の優先順位とファン・ハールの想定

 ここまでのオランダ代表の戦いは、決して優勝候補とは言えない。ただ、肯定的に、好意的に、楽観的に捉えるとするならば、決勝トーナメント、それも準々決勝以降に力を発揮できるチームなのかもしれない。

 ルイ・ファン・ハール監督は、エースのメンフィス・デパイの起用に慎重である。9月のUEFAネーションズリーグで左太ももを負傷した背番号10は、公式戦の出場がないままワールドカップを迎えた。初戦は約30分、そしてこの試合では前日会見で指揮官が明言した通り、45分のプレータイムを与えられた。出場時間の管理は、再発のリスクを最小限に抑えるのと同時に、決勝トーナメントまでを考えたものとも考えられる。

 ゲームの主導権を握れていないが、「弱者」側の振舞いに関しては非常に高いレベルだ。最終ラインのタイトなマンマークディフェンスと、ネガティブ・トランジションにおけるボールホルダーへの素早い寄せは徹底されている。そこまで高い位置で奪おうとせず、ミドルプレスからカウンターに繋げる。

 デンゼル・ダンフリースを右サイドで相手最終ラインと駆け引きさせていたのは、相手の攻撃のストロングポイントであるペルビス・エストゥピニャンを低い位置で留めるためだったのかもしれない。強者側のサッカーをできる人材は揃っているのだが、自分たちの良さを出すのではなく、相手の良さを消すことにプライオリティーがある。

 あまりリスクをかけず、少ない人数で攻め切るのがオランダ代表の狙い。先制ゴールのようにフィニッシュまで持ち込めれば理想だ。これは、強豪国同士の対戦となる準々決勝以降を見据えたものと解釈することもできる。

 実際、セネガル代表、エクアドル代表のプレス強度は、今大会全体の中でも高い方だろう。そういった相手に苦戦しながら、2試合で勝ち点4を得ている。第3戦は開催国カタール代表。これまでの相手よりは数段力が落ちるはずで、グループリーグ突破の可能性は高い。ここまでの苦戦も、百戦錬磨のファン・ハール監督にとっては想定の範囲内なのかもしれない。

(文:加藤健一)

【了】