“堅守”を誇るコスタリカ スタイルを崩さず冷静沈着にタスクを遂行

 カタール・ワールドカップ(W杯)の初戦で、日本代表が優勝候補の1つであるドイツ代表を2-1で撃破。日本全体が歓喜に沸いた夜から中3日、日本は27日に第2戦のコスタリカ戦に臨んだ。スペイン代表との初戦を0-7で落としていたコスタリカにとって、日本は負けられない相手。堅守を武器にゴールを守る相手を攻めあぐねた日本は、たった1度のゴールを許し、敗戦した。

 1勝1敗。これで日本はグループリーグ突破のためには、第3戦のスペイン戦に勝つことが必要になったが、この敗戦をどう見たらいいのか。4度のW杯メンバーに名を連ねた元日本代表GKの楢﨑正剛氏が試合を振り返る。(取材・文=藤井雅彦)

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 W杯は簡単ではない。初戦でドイツに勝ったことで日本列島全体が鼻を伸ばしてしまい、それをへし折られた第2戦のコスタリカ戦。油断大敵と肝に銘じていても、恐れていた結果になってしまうのがサッカーの恐ろしさです。

 いま振り返ってみると、コスタリカが初戦のスペイン戦を0-7で落としていたことも落とし穴の1つだったのかもしれません。大量失点で敗れたコスタリカを、心のどこかで勝手に格下だと思い込んでしまった。

 実際には、2014年ブラジル大会でベスト8に進出した実績を持つ難敵です。今大会では同グループに実力上位のドイツとスペインが同居したのだから、彼らにしてみれば日本戦は勝ち点3を計算する試合になる。そのタスクを見事に遂行したわけです。

 初戦のスペイン戦を落としたことで、なおさら勝利が必要になったのは言うまでもありません。それでも『堅守』という自分たちのスタイルを崩さず、冷静沈着にゲームを進めたあたりが強さであり、経験の成せる業でしょう。スコアレスの状況に焦らず、カウンターでの一発や相手のミスをしたたかに狙っていました。

 その展開は序盤から終盤までほとんど変わらず、日本としてはある程度ボールを持てる状況から相手の堅い守備を崩すことが最大のテーマに。5人の選手が並ぶ最終ラインに揺さぶりをかけるためにアクションを起こす必要があり、それを個人としてもグループとしても考えなければいけない試合でした。

ピッチに立つ選手たちが感じるカウンターの恐怖がリスク回避を優先させた

 難しかったのは、同時にカウンターのリスク管理を徹底すること。強引なパスを狙って奪われた場合を考えると、どうしても安全な組み立てになってしまいます。前半の日本はボールの動かし方が相手の守備ブロックの外側ばかりで、効果的な縦パスがなかなか入りませんでした。

 一見、コスタリカのカウンターにはあまり怖さがないようでした。でも、それは映像で見ている側の印象でしかありません。実際にピッチに立ってプレーしている選手たちは、ちょっとしたことがきっかけで恐怖心を感じるもの。W杯の舞台になれば責任も大きくなるので、どうしてもリスク回避を優先したくなるのです。

 日本は選手交代でゴールを狙いましたが、最後まで被カウンターのリスクヘッジだけは欠かさない戦い方でした。この狙いはコスタリカにカウンターからのチャンスをほとんど作らせなかったことからも奏功したと言っていいでしょう。前後半通じて相手の攻撃に慌てるような場面は皆無に等しかった。
 
だからこそ自陣ゴール近くでのボールロストとやや中途半端になったプレーが続いた失点場面が悔やまれてなりません。あの位置でボールを奪われてしまうと、どんな相手でも致命傷になってしまう。ほんのわずかな隙を見逃してくれないのがW杯です。

 凡ミスだったとは思いませんが、ちょっとしたズレが生じたのは事実でしょう。クリアすべきかどうか、コーチングの声はあったのか、あるいは聞こえなかったのか。パスをつなぐのならば、質はどうだったのか。90分のなかで隙をゼロにしなければいけない試合としては、一連のプレーに甘さがあった印象は否めません。

 GKとしては、ボールを奪われた状況から考えて万全の準備をするのは難しかったかもしれない。少なくとも前後のポジション修正は必要でした。権田修一選手としてはもっと強いシュートが飛んでくると予測していたはずで、タイミングを失った形でのセービングになってしまいました。

 本来であれば足を運んで簡単に取れるシュートにしなければいけなかったので、本人には悔いが残っているはず。日本代表としてW杯でゴールマウスを守るクラスの選手であれば過去に経験したことのある類だと思いますが、それでも対応が難しい場合はあります。ただ、もったいないプレーという見え方になるのも仕方ありません。

 あまりプレー機会がない展開での難しさもあったのでしょう。攻められ続ける展開はメンタル的にきついですが、ボールがあまり飛んでこない試合もリズムを作りにくい。ですが、良いGKは少ない登場機会でも確実にプレーします。

次戦の相手は優勝候補スペイン ボールを保持する相手には隙があるはず

 現役時代、スペインと対戦して0-1で負けたことがあります。スコアこそ最少得点差でしたがスペインが圧倒的にゲームを支配し、日本はピンチの連続でした。そのなかで、スペインの(サンティアゴ・)カニサレス選手はほとんどプレー機会がないにもかかわらず、ついさっきまでウォーミングアップをしてシュート練習でボールを受けているかのようなパフォーマンスを見せたことに衝撃を受けました。

 コスタリカ戦のスコア推移を考えると、GKとしては最低でも0-0で終えたかったのが本音でしょうし、それは権田選手も分かりきっていると思います。ですが、中3日でスペインとのグループリーグ最終戦があります。GKがグラグラと揺れてはいけません。日本代表のGKはたかだが1点取られたくらいでは物ともしない。そういったパフォーマンスを見せてほしい。

 チームとしては、ドイツ戦でしっかりと戦える力を示したのは紛れもない事実。自信を失うことなく、スペインにぶつかっていくべきだと思います。このグループリーグは、第1戦に勝って何かが決まるわけではなく、第2戦に負けても何も決まっていない。すべては第3戦の結果次第です。

 スペインとコスタリカは全く違うチームで、ボールを持てる想定をしてくるはずのスペインには隙があるはず。守備から攻撃に切り替わった瞬間が大切なので、ボールを奪う術を持つこと、そして奪ったあとのプレーの質が重要になるでしょう。攻守ともにアグレッシブに戦い、最後まで日本らしく戦い抜くことを期待したいです。(藤井雅彦 / Masahiko Fujii)