サッカー日本代表は、FIFAワールドカップカタール・グループE第3節でスペイン代表と対戦する。コスタリカ代表を7-0で撃破し、ドイツ代表とも激しい攻防を繰り広げたスペイン代表は、どのような特徴を持つチームなのか。かつてベガルタ仙台などで監督を務め、2022シーズンからピーター・クラモフスキー監督率いるモンテディオ山形でコーチを務める渡邉晋氏が、スペイン代表の戦術的特徴と日本代表が狙うべきポイントを分析する。(文:渡邉晋【モンテディオ山形コーチ】)

●スペイン代表を戦術的に紐解く

 4年に一度のフットボールの祭典がいよいよ始まりました。数回前までは、「新しい戦術が披露される大会」「今後のフットボールのトレンドが示される大会」などと言われてきましたが、近年は各国リーグのレベルも上がり、またその試合の映像を容易に見ることができる為、こうした要素が少なくなってきたという印象があります。

 それでも、予選を勝ち抜いてきた各国代表の戦略・戦術、そして錚々たるプレーヤー達が披露する妙技やドラマに興奮する日々が続いていることでしょう。

 ワールドカップを通して他国の事に興味を持ち、フットボールを入口に世界の大きさや多様性を実感することが何かの行動を起こすきっかけになるかもしれません。それが今後の人生を豊かにする一要素になったとしたら、こんなに素敵なことはありません。

 勿論、我が日本代表の戦いに一喜一憂している方も多いことでしょう。日本のフットボール界をまさに「代表」して戦っている選手、スタッフの皆様方にその熱い想いを託しつつ、ここではその日本代表がグループリーグ最終戦で戦うスペイン代表にフォーカスしていきます。

 彼らがこれまでの2試合を、どのようなで意図で、どのようにプレーし、実際どのようなパフォーマンスを披露してきたのかを戦術的に紐解いていきます。

●いかにして「優位性」を生み出すか

 スペイン代表が戦う上で大事にしていること。それは「マイボールの時間を増やす。簡単にボールを失わない」ことであると考えます。だから、むやみやたらにボールを放り込んだりしないし、ボールを取られたらすぐに取り返したい。

「いつ、どこでスピードを上げて、相手のゴールに迫るか」というのを共有しながらゲームを進めていると感じます。そしてそれらを実行する為に必要なことが、技術の高さや素早い判断力であり、相手の嫌がる所にポジション取りをする「良い立ち位置」ということになります。

 縦に速く、スピーディーに攻撃を仕掛ける。そんな現代フットボールのトレンドでは無いかもしれません。ゴール前での迫力や力強さ、更にはこの大会を勝ち切る勝負強さがもしかしたら足りないかもしれません。それでも、スペインのフットボールは流麗で美しい。彼らの哲学に基づくこのフットボールはとても興味深く、心を惹きつけられます。

 スペイン代表のシステムは1-4-1-2-3。ワイドにウイング(WG)を明確に置く事で幅を確保しつつ、中央ではアンカー(AN)を起点にインサイドハーフ(IH)、時にはセンターフォワード(CF)も下りて関わり数的優位を作り出します。

 こうした基本的な配置から、Build up(ビルドアップ)のフェーズにおいてWGは下りてこない、という約束事があるように感じます。その為サイドバック(SB)が高さの調節をしながらも基本的には低い位置を取り、センターバック(CB)からのパスルートを確保します。そこへ相手のサイドハーフ(SH)やウイングバック(WB)が食い付けば、高い位置を取っているWGは相手守備者と1対1の状況になっている、という優位性を生かします。スピードがあり、突破力に長けている選手をWGに置いていることも重要なポイントです。

●プレスを受けても前進できるメカニズム

 中央ではANが相手フォワード(FW)の背後で常にボールを引き出す準備をしているので、そこを経由して展開する狙いもあります。勿論、ANが起点になることは相手も織り込み済みです。しかし、そのANが消された時にはIHが下りてヘルプするという構図になっています。

 ボード上でこれを語るのは簡単、言うは易しです。ここで大事になってくるのがIHの下りるタイミングと距離になります。仮に相手に捕まっているANにボールが入ったとしても、1タッチで渡せる場所とタイミングでIHがサポートに入る。そうすることで局面で2対1の状況を作り出し、前進することが可能になります。このタイミングが遅れたり、距離が遠かったりするとANへのヘルプとしては成立しないのです。

 このように、基本的には1-4-1-2-3の配置から大きくずらす事なく、局面のサポートを繰り返す中で前進を試みますが、これらを成立させる為に必要な要素がやはり技術の高さです。この基本配置からずらすことなく後方からボールを引き出そうとすると、角度を作り辛くなることがあります。

 様々な試合でもよく見られる現象ですが、「縦方向」に真っ直ぐ下りてボールを受けると、受け手が苦しくなる事が多くあります。それでもスペイン代表の彼らは少しでも時間とスペースがあればターンする。或いは、ヒールキックなどを用いて自らの背後へパスを通す。つまり「前」へプレーすることができるのです。

 仮に「前」へ行けなかったとしても、ボールを失わない。相手をプロテクトしてしっかりとボールを隠す。その間に、周囲がサポートして「前」や「次」が観えている人から展開していくのです。

(文:渡邉晋【モンテディオ山形コーチ】)

【後編】スペイン代表は背後を突く。日本代表が狙うべきポイントは?
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