2022FIFAワールドカップカタール(カタールW杯)にて、国際サッカー連盟(FIFA)はその長い歴史上で初めて女性審判員(女性レフェリー)を採用している。各試合を視聴している多くの方は既に目にしていることだろう。今大会では、全6名の女性主審(3名)女性副審(3名)が活躍している。
その中には日本人女性の存在も。様々な国出身のメンバーで構成されているが、W杯という世界規模の大会に選ばれた6名の女性審判員とはどんな人物なのだろうか?1人ずつ紹介していこう。また女性審判員を採用したFIFAの意図とは?
新しい歴史を作る3カ国3名の美しき主審たち
日本出身:山下良美(主審/1986年生)
子供時代からサッカーのある環境に育ち、大学時代ではサッカー部に所属。選手としての経験を持つ日本出身の山下良美(やました・よしみ)審判員。当時の友人からの誘いで、サッカーの審判職の道を歩むことになる。
2016年にはU-17女子W杯ヨルダン大会、2018年に同じくU-17女子W杯ウルグアイ大会に主審として参加を果たした。2021年にはJリーグ史上初の女性審判員として登録され、同年5月J3リーグ第8節で主審を務めた。国内外に限らず様々な大会に選出され、今カタールW杯では男女を通じて唯一の日本人主審となった。
フランス出身:ステファニー・フラパール(主審/1983年生)
13歳の時にユースの試合の審判としてキャリアをスタートした、フランス出身のステファニー・フラパール審判員。2014年にフランス男子2部リーグ・ドゥで初の女性審判員を務め、翌2015年の女子W杯カナダ大会でも審判を担当した。その他にも数々の経験を積み、2020年のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)で史上初の女性主審となっている。
サッカー連盟(FA)の歴史や記録を担当している組織、国際サッカー歴史統計連盟(IFFHS)からは、3年連続(2019〜2021)で世界最高の女性審判賞を受賞。同賞は現時点で2名の女性審判員しか受賞しておらず、フラパール氏の格の高さを感じることができる。
ルワンダ出身:サリマ・ムカンサンガ(主審/1988年生)
10代の頃はバスケットボール選手として活躍をしていた経歴があり、その後サッカーの道へ転身したというルワンダ出身のサリマ・ムカンサンガ審判員。
サッカーの審判職に挑戦するために専門の教育機関で勉強を試みるが、ルワンダサッカー連盟から若年を理由に入学許可が下りなかった。しかし、規定年齢までの数年間は独学をし、その後に無事入学をする。本格的に審判員としての仕事を開始した当時は、地元の男子アマチュアチームの試合などを担当した。
その後、徐々に経験を積み、2012年にFIFAの国際審判員として登録される。2019年には女子W杯フランス大会で主審を担当し、2022年のアフリカネイションズカップ(AFCON)では初の女性審判員として活躍、その他にもいくつかの大会に選出されている。
主審と共に重要な役割を担う可憐な副審3名
ブラジル出身:ニウザ・バック(副審/1984年生)
2005年、大学の体育学部在学中に兄の薦めで審判の勉強を始めたというブラジル出身のニウザ・バック審判員。ブラジルのサンタカタリーナサッカー連盟が毎年開催している審判員養成コースで、2008年に優秀な成績を収めて認定証を取得。翌2009年から本格的な審判員のキャリアを開始する。
当時はトップリーグでの仕事は少なかったが、2010年から徐々に大規模な大会で声が掛かるようになっていき、2014年にFIFAの審判員として登録を果たす。2019年には女子W杯フランス大会の準決勝(イングランド対アメリカ)の副審を担当、その他にも数々の大会で決勝戦などの重要な試合に採用されている。審判として注目の人物だ。
メキシコ出身:カレン・ディアス(副審/1984年)
本格的に審判をする前は、スポーツセンターの喫茶店で働いていたというメキシコ出身のカレン・ディアス審判員。ある日、偶然サッカーリーグの担当者が入店し「今日の試合の審判員が急遽欠員となったので審判をしてみないか?」と声を掛けられたそうだ。それが全ての始まりとなり、審判という仕事の魅力にハマることになる。
サッカーが大好きという気持ちを原動力に経験を積み、2018年にFIFAの審判員として登録を果たす。同年のCONCACAF(北中米カリブ海)U-17女子選手権、同じくCONCACAF U-20男子選手権で副審を務めた。その後も様々な大会から声が掛かる中で、今カタールW杯の副審としての切符を手に入れた。
アメリカ出身:キャサリン・ネスビット(副審/1988年生)
子供時代に毎年夏にサッカーをする機会があり、勝敗を分けるスポーツの競争力や努力をするという行動力に徐々に夢中になったというアメリカ出身のキャサリン・ネスビット審判員。
2019年の女子W杯フランス大会の直前まで、審判とは全く別の肩書という異色の経歴をもつ。アメリカのメリーランド州にあるタウソン大学で研究所を立ち上げ、教育や脳化学物質の分析、開発などの研究を行っていたそうだ。その経歴と、現在の副審の仕事は、かけ離れているようで実は複雑に結びついているのだという。
2020年アメリカのメジャーリーグサッカー(MLS)の審判として活躍時に、初の女性副審として決勝戦に指名された。そして今カタールW杯の副審担当と、順調にキャリアを積んでいる。分析を得意とするネスビット氏の判断は、主審も非常に頼もしく感じているだろう。
FIFAの目指すところは
以上カタールW杯で活躍する6名の女性審判員を紹介した。この意向についてFIFAは、国籍や性別に関係なく審判の質を重要視すること、そして将来的には様々な大会で女性審判員が活躍する状況が通常のこととして認識されるようにすること、を目標として掲げている。
2022年このカタールW杯で、FIFAが史上初めての女性審判員起用したことについて、今世界中の多くのメディアが珍しいこととして話題に取り上げている。しかしFIFAとしては、これを誰もが話題にしない状況、性別問わず誰もが活躍して当たり前の世界へと変わっていくことを願いに込めているようだ。
来2023年開催予定の女子W杯オーストラリア・ニュージーランド大会(7月20日から8月20日)ではどんな審判員の活躍が見られるのか、引き続いて今から非常に待ち遠しい限りだ。