イングランド代表がグループステージを突破した。
カタール・ワールドカップのグループB、最終節のウェールズ戦は3-0で快勝。2勝1分で勝点7を獲得し、グループ首位で決勝トーナメント進出を決めた。試合後、イングランド代表のOBたちも頬を緩めて勝利と突破を喜んだ。
ウェールズ戦で中継番組の司会を務めたガリー・リネカーが「素晴らしいパフォーマンスだった。マーカス・ラッシュフォードが2ゴール、フィル・フォデンが1ゴールを決めた。これまで先発を外れてきたラッシュフォードとフォデンがスタメンに入り、この2人が大きな違いを生んだ。チームとしても非常に好印象のパフォーマンスだった」と切り出すと、元イングランド代表DFリオ・ファーディナンドは、3点を奪った後半のパフォーマンスを褒めながら次のように語った。
「イングランド代表は、どのようなプレーをすべきか。後半は、我々の目ざしているプレーができていたと思う。プレス、エネルギー、アグレッシブさ、そしてボールを持っていないところでの積極性──。これらのポイントを試合のなかで上手く出し、勝利に結びつけることができた」
ウェールズ戦で大きくクローズアップされたのが、殊勲の2ゴールを決めたラッシュフォードである。50分に直接FKから鮮やかに先制ゴールを決めると、68分にも右サイドから鋭いドリブルでダメ押しとなる3点目を決めた。
ウェールズ戦のMOMに輝いたラッシュフォードだが、しかし、ここまで決して順風満帆だったわけではない。怪我の影響もあり所属先のマンチェスター・ユナイテッドでは出番が減り、イングランド代表でも存在感が薄れていた。
大舞台のピッチに立つまで、イングランド代表での出場は、21年7月に行なわれた欧州選手権ファイナルのイタリア戦が最後である。PKを外して一部のサポーターから批判を浴びたユーロ決勝から、カタールW杯まで1年半にわたり、代表での出場歴がなかったのだ。
W杯のメンバー選考に際しても、ラッシュフォードは当落線上、もしくは選外にいると見られていた。しかし今季、マンチェスター・Uを率いるエリック・テン・ハーフ監督のもとで復調。好調さを買われて、滑り込みで代表入りした。
90年代後半にイングランド代表のエースストライカーとして活躍したアラン・シアラーが「ラッシュフォードの活躍は目覚ましかった。これで今大会3ゴール。W杯得点王も狙える位置につけている」と語ると、リネカーも同調し、次のように述べた。
「昨季のラッシュフォードはベストパフォーマンスを見せられず、辛い時間を過ごした。だが今季、マンチェスター・ユナイテッドで先発メンバーに戻ったことは本当に大きい。おかげで見事なまでに復調した。ウェールズ戦は、ラッシュフォードの怖さが実によく出ていた。スピード感溢れる動きで、積極的に仕掛けていたからね」
ファーディナンドも2人の言葉にうなずき、次のように話す。
「ラッシュフォードは時折笑顔を見せながら、自信を持ってプレーしている。これまではそんな様子に見えなかったし、正直言ってハッピーにも見えなかった。もともと彼は、相手に決定的な打撃を与えられるアタッカーだ。ウェールズ戦も、マッチアップするサイドバックが怖がってプレーしていた。強豪国の選手であっても、今のラッシュフォードなら驚くと思うよ。それほど素晴らしい」
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リネカー、シアラー、ファーディナンドのディスカッションは、イングランド代表の定位置争いに及んだ。
イングランドはグループステージで4-2-3-1を採用し、イラン戦とアメリカ戦では両翼にブカヨ・サカとラヒーム・スターリングを先発で起用した。
しかし2節のアメリカ戦を無得点で終えると、ガレス・サウスゲイト監督はテコ入れでスタメンを変更。サカとスターリングの代わりに、ラッシュフォードとフォデンを両翼で起用したのだ。ファーディナンドは、多彩な攻撃オプションもイングランドの力になると語った。
「ラッシュフォード、フォデン、サカ、スターリング、そしてグリーリッシュ。サウスゲイト監督には多くの選択肢がある。このカードをいかに切っていくか。決勝トーナメントを戦っていくうえで、こうした多彩なオプションは強力な武器になるはずだ」
もちろん、課題がないわけではない。近年のイングランドは、格下が相手の場合は「強烈な個の力」でねじ伏せてきたが、力が同等、もしくは強豪国には大苦戦を強いられてきた。
W杯前に行なわれたネイションズリーグでの大不振がその証拠だ。ネイションズリーグは実力別にリーグを分けて争うが、ドイツ、イタリア、ハンガリーといった実力国と同居したグループで3敗3分の未勝利と散々な結果に終わった。
対戦相手のレベルが一気に上がる決勝トーナメントからが真の勝負になると、ファーディナンドは力を込める。
「首位で突破したからといって、良い気分に浸ってはいられない。ウェールズを低く評価するつもりはないが、ここからもっとタフな相手と勝負する。イングランドの力が試されるのはここからだ」
リネカーが「『ガレス・サウスゲイト監督は、試合途中の戦術変更で流れを変えられない』と批判を受けている。今回のウェールズ戦も、こうした批判を覆すことができなかった。実際、この試合も先制点はラッシュフォードのフリーキックだったからね。監督の課題は解決されていない」と指摘した。
イングランド代表は、決勝トーナメント1回戦でセネガルと対戦。良い点も悪い点も見えたグループステージを経て、はたして決勝トーナメントを勝ち上がっていくことができるか。
取材・文●田嶋コウスケ