【専門家の目|金田喜稔】どう崩すかという課題「明らかに足りない部分だった」

 森保一監督率いる日本代表は、現地時間12月5日のカタール・ワールドカップ(W杯)決勝トーナメント1回戦でクロアチア代表と対戦。1-1の同点で延長戦を終え、PK戦の末に1-3と敗れた。「天才ドリブラー」として1970年代から80年代にかけて活躍し、解説者として長年にわたって日本代表を追い続ける金田喜稔氏が激闘のクロアチア戦を振り返り、日本代表の成果と課題を考察した。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部)。

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 まずは、全身全霊で戦い抜いた選手たち、監督、チームスタッフ、ファンの方々、サッカーファミリーの全員に対して、「ありがとうございました」と伝えたい。素晴らしい戦いを見せてもらった。

 クロアチア戦を振り返れば、勝利のチャンスは十分あったように思う。今大会、日本が初めて先制ゴールを奪った。それも決めたのが前田大然だ。勢いで考えれば日本に分があった。前線であれだけ走って、あれだけプレッシングして、大汗をかき続けた男のところにボールがこぼれてくる。神様がご褒美をくれた。まさにそんなシーンだった。

 そんなゴールが生まれたら、チームは勢いに乗る。実際に日本は勢いがあったし、追加点を取れそうな雰囲気も漂っていた。ただ結果的に取れなかったわけで、課題を挙げるとすれば、守備より攻撃なのだろう。

 日本がボールを保持し、パスを回せる時間帯もかなりあった。こうなると、日本の地力が問われる。たとえば、多彩な仕掛け、多彩なコンビネーションがあったのかと言われれば少なかったし、個を生かす形を十分に作れたかと言えば、その点も不十分だった。

 伊東純也や三笘薫など1人で勝負できるタイプはいる。だが、チーム全体で彼らの良さを生かす形が作れていたかどうかだ。ボールを渡して「あとはよろしく」で崩すには限界がある。チームでできるだけサポートする形を作らなければいけないが、徐々に伊東や三笘は警戒されていたし、分析もされていた。

 ドイツ戦やスペイン戦のように、相手に主導権を握られるような展開だと、日本のプランや戦い方が生きる。ただ、自分たちがある程度ボールを保持した時、どう崩すかという課題が残ったし、明らかに足りない部分だった。大会を通じて日本は攻守に奮闘したが、ここは正直に言わなければいけないポイントだろう。

「いい守備からいい攻撃」が通用することは今大会を通じて証明したが…

 森保監督は「いい守備からいい攻撃」というのを何度も言い続け、チームのコンセプトとしてやってきた。その結果、W杯優勝経験国のドイツやスペインという強豪国と同じグループ入りながらも見事にグループ首位通過を果たして見せた。このグループを突破できたのは日本の成長と言っていい。その原動力になったのは、間違いなく「いい守備からいい攻撃」というスタイルだった。

 その一方で、「いい守備からいい攻撃」の限界が見えた大会でもある。このスタイルは基本的に、相手が主導権を握る展開がベースだ。ドイツやスペインを撃破できたのも、「いい守備からいい攻撃」が上手くハマったからであり、それは大きな成果。「いい守備からいい攻撃」が通用することは今大会を通じて証明した。それでもあと一歩ベスト8には届かなかった。

 日本がワンランク上を目指すならば、「いい攻撃からいい守備」のスタイルも身に付けなければいけない。つまり強豪国の戦い方だ。今の日本に欠けている部分であり、ベスト8に届かない理由でもある。

 日本がさらにステップアップするには、「いい攻撃からいい守備」のスタイルへいかにシフトするか。あるいはシフトしないにしても、その戦い方が時間帯によってできるようにならなければいけない。

 その点で進歩しなければ、「ここで絶対点がほしい」という場面で崩し切れず、あと一歩で勝ち切れずに涙をのむ大会が続くことになるのだろう。「いい守備からいい攻撃」と「いい攻撃からいい守備」、この2つのスタイルは似ているようで全く違うものだ。

 カタールW杯では明確な成果と課題の両方が見えたなか、日本サッカーの将来を考えれば大きな財産になったように思う。(FOOTBALL ZONE編集部)