サッカージャーナリスト・後藤健生のカタールワールドカップ取材は終了した。多くの材料を持ち帰ってきたが、帰途にも取材はある。スリランカでは蹴球放浪家として、懐かしい風景に出会っていた。
■仏教徒の「満月祭」
そして、張り切って“放浪”を始めました。まず目を付けたのは国立博物館でした。博物館や教会は涼しくて、時間がつぶせるからです。
ところが、行ってみると「今日は休館」と言われてしまいました。
12月7日は仏教徒の「満月祭」だったのです。
博物館だけではありません。ちゃんとしたレストランの多くも休業。また、やっている店でもアルコールはご法度だったのです。
「美味しいスリランカ・カレーを食べながら、約3週間ぶりの(アルコール入りの)ビールを飲む」という僕の目論見はあっさりと否定されてしまいました。
道端のベンチで座っていたら、英語で話しかけてくる人がいました。
実は、その人から今日は「満月祭」で、レストランなどもそのために休みなのだということを教わったのですが、その人が「そこのお寺で儀式をやっているから連れてってやる」と言うので付いていきました。すると、すっとトゥクトゥクに乗って走り始めたのです。
■「ヒン仏混交」の寺院
皆さん、お気づきのように、これはどう考えても怪しいですよね。
まあ、トゥクトゥクに乗ってしまったのと、お寺はたしかに観たかったので、多少はボラれてもいいかと思いながら、付いていくことにしました。
ガンガラーマ寺院という有名な寺でした。「神仏混交」ならぬ「ヒン仏混交(ヒンドゥー教と仏教)」の寺です。
で、その男性が次はあそこに行こうとか、今日は「満月祭」だから宝石が安い値段で買えるだのと言い出したので、「間違いない、偽ガイドだ。ここは早めに切り上げなければ」と思って、「人と会う約束があるから」と言ってさっと離脱しました。2000ルピーというベラボーなトゥクトゥク代を支払わされてしまいましたが、まあ、拝観料だと思って目をつぶることにしました。
その後、市内をぶらぶら“放浪”していたら、今度は銀行員だという身なりのピッシとした若い男が「ヒンドゥー寺院で祭りをやっているから行こう」と言ってきました。みなさん、スリランカ観光の時はどうかお気をつけください。
■安心できる場所
空港の客待ちトゥクトゥクにしても、観光客相手の偽ガイドにしても、どれもこれも昔のアジアの旅行を懐かしく思い出す材料ばかりです。
コロンボは、コルカタ(インド)やカラチ(パキスタン)に比べればずっと清潔で秩序だった街ですが、下町の混沌とした光景とか、多くの客引きとか、本当にアジアチックで昔懐かしい“放浪”を経験できました。
結局、10時間ほどのスリランカ滞在のうちで、最も長い時間を過ごしたのは空港から市内までのバスの中という、情けない“放浪”となってしまいましたが……。
街中ではたいしたものは食べられず、早めに(2時間かけて)空港に帰ってきたので、奥まったところにあるカフェテリアのようなところで(一般人の目につかない場所なので、客のほとんどが客室乗務員など航空会社や空港関係者なのでとても静かです)、ピザを食べながら終わったばかりの“放浪”をネタに、この「放浪記」を書いているというわけです。