スピードだけに頼らないドリブル術

いよいよ決勝を残すのみとなったFIFAワールドカップ・カタール大会の『ドリブル成功数』を見てみると、最多はフランス代表FWキリアン・ムバッペで21回を記録している。

それに次ぐ2位がドイツ代表MFジャマール・ムシアラで19回、3位がアルゼンチン代表FWリオネル・メッシで15回だ。

試合数の関係もあるが、ドリブル成功数TOP10においてメッシは最年長となる35歳でのランクインとなっている。やはり年齢を重ねるとともにスピードが落ち、突破が難しくなってくるところがある。メッシも10年前と同じスピードというわけではないだろう。それでもドリブルで相手をかわす技術があるのは見事だ。

元アルゼンチン代表でチームメイトだったセルヒオ・アグエロは、メッシのドリブルにも変化があったと語る。

象徴的なシーンに挙げられたのが準決勝のクロアチア戦で見せた3点目のシーンだ。右サイドでボールを受けたメッシは前を向いてドリブルを開始。この時点でクロアチア代表DFヨシュコ・グヴァルディオルを完全に突破できていたのだが、メッシはそこでスピードを緩めた。

もう一人のDFデヤン・ロヴレンが距離を詰めてきたこともあるだろうが、若い頃のメッシならそのままトップスピードに乗ってグヴァルディオルとロヴレンを振り切ってしまったかもしれない。しかしメッシは速度を緩め、追いついてきたグヴァルディオルに背中を向けてボールをキープする態勢へと移行した。

そこから素早くターンしてグヴァルディオルを再度かわし、最後はFWフリアン・アルバレスのゴールをアシスト。この一連のプレイは、年齢を重ねたからこその変化だったのかもしれない。

米『ESPN』によると、アグエロはメッシのドリブルについて、「彼は長距離のドリブルでは以前よりスピードが落ちてきていることを理解している。だからあの場面でストップした。でも、短い距離であれば違いを生み出せる」と語っている。

以前のメッシは長い距離をドリブルで切り裂いてしまうこともあったが、35歳を迎えた今となっては難しい。スピードではなく、相手DFのタイミングを外す形で逆を突き、短い距離のドリブルで違いを生む方向へとスタイルを微妙に変えているのだろう。

それが今大会でもドリブル成功数第3位に入っている理由で、ファイナルのフランス戦でも相手の守備を自慢のドリブルで外してくるはずだ。スピードに頼るだけでなく、そうした変化をつけられるのもメッシが天才と呼ばれる所以か。