■ベンチャー立ち上げと世界への挑戦

勝田准教授
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 薬の開発には、莫大な費用がかかる。勝田准教授は「僕の負の遺産ですね」と言いながらあるファイルを見せてくれた。「『Staple核酸』を最初考えた時に(研究費の申請を)いっぱい出したんです。ほとんど駄目でした」。

 国の予算も限られ、思うように開発は進まない。勝田准教授は「死の谷」を越えるためにベンチャー企業「StapleBio」を立ち上げた。

「日本の技術って優れた、欧米に負けないような技術があるのに、会社をつくって実用化されることがないなと。勝田先生の技術は本当にユニークで、『賭けてみたい』と思った」(StapleBio 谷川清代表取締役CEO)

 共同創業者の谷川代表は製薬企業の出身で、会社の経営戦略などを担っている。研究をスタートして6年。薬の開発が大きく動き出す。

 2023年10月、「Staple核酸」の実験結果を医学系の大学関係者らに説明した。

「素晴らしい進展があって、非常に感激しました」(佐谷医師)

 日本癌学会の理事長を務めた佐谷秀行医師は、さまざまな病の薬になり得る実験結果に驚きの声を上げた。「このプラットフォーム技術は世界中の人が欲しがる素晴らしいものになるのではないか」。

 勝田さんらの研究に注目が集まり始める。2024年5月、研究成果に興味を持った投資家らが一堂に会した。そこには実験結果を高く評価した佐谷医師の姿もあった。

「私たちが持っている技術・医学的な見地から、『Staple核酸』を実装化していくのに対して内部から全力でサポート・貢献できれば」(佐谷医師)

 銀行や製薬系の投資会社から4億6000万円の投資が集まった。「ベンチャーは次の目標に向けて資金調達の繰り返しになる。実績を出しながら信頼関係を築きながら、ここからさらに2年間が勝負です」(谷川代表)

 2024年8月、ビジネスコンテストの世界大会にも挑んだ。「多くの方に希少疾患を知っていただくチャンス。本当に治そうとしている会社があると知っていただくいいチャンス」(勝田准教授)

 100以上の国と地域で開催される世界最大規模のコンテストで、優勝者は日本代表としてアメリカの本選に進出する。製造現場の人手不足を解決するAI技術や微細な手術を可能にするロボット開発などそれぞれが社会課題の解決に挑む企業だ。

「しゃべってきた回数は今日のスピーカーの誰よりも多いと思う。研究のプレゼンもそうですし、会社つくってなおのこと『僕ができることはしゃべってお金を取ってくることだ』と言っている」(長谷川さん)

「多くの企業をこの業界に巻き込み、すべての希少疾患に対して業界全体で宣戦布告をする。僕たちはそれをリードする会社でありたい」(勝田准教授)

 治療法のない様々な病の薬となり得る技術。世界中に薬を待つ人たちがいる。

 StapleBioは本戦に進むことが決まった。平野洋一郎審査員長は「今だけでなくて世界に対してその未来にどれだけ役立てるかこの可能性を考えた」と評価した。

「1秒でも早く薬を届ける。僕は大学発のベンチャーなので学生を含めいろいろな方と話をしながら目指していきたい」(勝田准教授)

 大きく前進した手応えを感じた。

揺らぐ「創薬大国」の地位と政策の壁
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