[キリンチャレンジカップ]日本 4-1 パラグアイ/6月2日/札幌ドーム
 
「選手間の競争という意味ではここが最後のアピールの場になる」とキャプテン吉田麻也(サンプドリア)が強調したように、今回の6月の4連戦は、半年を切った2022年カタール・ワールドカップへ向けた貴重なサバイバルの場。2日のパラグアイ戦は“当落線上”と目される面々が数多くスタメンに名を連ねた。
 
 W杯最終予選ラストの2連戦、オーストラリア戦とベトナム戦で選外となった堂安律(PSV)もその1人。「(メンバーに)入れなかったのは悔しいけど、感謝している。森保(一)監督が思っていることを伝えてくれたんで、しっかり存在感を見せたい」と前向きに語っていた。
 
 その言葉通り、自身の進化を明確に示す必要があった。
 
 2020年10月に行なわれた国際親善試合のカメルーン戦以来、1年8か月ぶりに右MFで先発した背番号21は、立ち上がりからアグレッシブさを前面に押し出した。

 南野拓実(リバプール)、中島翔哉(ポルティモネンセ)との“三銃士”として主力に位置づけられた森保ジャパン発足当時から、ゴールに向かう貪欲さは誰よりも強かったが、自分が決めたい思いが強すぎて、敵に突っ込んでいってボールを取られたり、フィニッシュに至らなかったりと空回りしがちだった。

 その“エゴイスト”的要素が堂安の良さでもあるのだが、それがマイナスに作用して、伊東純也(ヘンク)にポジションを奪われる結果になっていたのも事実だ。

 しかしながら、パラグアイ戦は縦へ行く動きよりも、味方を生かすチャンスメイクの意識が高かった。開始5分に右から大きなサイドチェンジを出し、三笘薫(ユニオンSG)に展開したシーンが最初。「この日の堂安は一味違う」という印象を与えた。

 16分にはペナルティエリア右外から敵をかわして、原口元気(ウニオン・ベルリン)の決定的シュートをお膳立てし、34分にも三笘と伊藤洋輝(シュツットガルト)の左サイドコンビのビッグチャンスを演出した。

 なかでも堂安が最も輝いたのが、42分の鎌田大地(フランクフルト)が決めたチームの2点目のシーン。山根視来(川崎)からボールを受けた瞬間、以前の彼ならムリな体勢から強引にシュートを打ちにいっていただろうが、今回はしっかりと鎌田の動きを見て、ファーサイドにラストパスを送った。これを背番号9がヘッドで押し込む。背番号21は周りがよく見えていた。
 
「律と元気くんと近い距離感でプレーすることが多かったので、3人で連動しながらできていた。律は左利きでゴールに向かっていくのが特長の選手なので、インナーラップするなりして、相手の目線を少しでも縦に意識させることで、彼がカットインする機会が多くなるように考えていました」と山根も堂安を生かそうと務めていた。そういった関係性も彼が輝く要因になったと言っていい。

 後半も強度が落ちることはなく、中寄りの位置で攻撃の起点になると同時に、リスタートのキッカーとしても存在を示す。自らの仕掛けとスルーパスから得た70分のPKを決めていたら文句なしだったが、このシュートはまさかのGK正面。本人も2019年1月のアジアカップ、ベトナム戦以来となる代表ゴールを奪えず、悔しさいっぱいだったに違いない。

 それでも献身的姿勢を忘れず、4-1勝利の原動力になったことは高く評価されていい。

「何も考えずサッカーを楽しんでいるときは調子が良い。その感覚をビーレフェルトに移籍してからの2年間で取り戻している。PSVで今シーズンもそうですけど、考えすぎないでプレーするのが大事なんじゃないかなと思います」と本人も話していたが、今は間違いなく肩の力が抜けた状態。そういうときの堂安は、本当に多彩なパフォーマンスを見せられる。

 この一挙手一投足なら、爆発的スピードと決定力でのし上がった伊東との差別化も可能だろう。場合によっては4-3-3のインサイドハーフ、4-2-3-1のトップ下というオプションも生まれそうだ。
 
 となると、今度は久保建英(マジョルカ)との競争ということになる。パラグアイ戦は堂安が71分間、久保が19分間プレーし、明らかに堂安のほうが数多くの見せ場を作り、好印象を残したが、左足キックの精度と臨機応変な状況判断力を備えた久保の才能を森保監督は高く買っている様子。だからこそ、3月シリーズで彼を残したのだろう。

 6月4連戦の第一ラウンドは堂安リードの状況だが、6日のブラジル戦以降、どうなるかまだ分からない。だからこそ、堂安はこの水準を維持し、さらに高い領域に上り詰める必要がある。

 とりわけ、強豪相手にはボールを奪い切る守備というのが強く求められる。そこは堂安自身もよく認識している点だ。

「昨年、ドイツに移籍してすごく強度の高い守備ができるようになった。そこは僕自身、成長したと思っていますし、PSVに戻ってからも監督がウイングに対して守備をすごく求める人だったので、そこを評価してもらって1年間、出場時間を多くもらえた」と彼自身も言う。

 その自信を確信に変えるべく、ブラジル戦で出番が訪れた場合には、“フォア・ザ・チーム精神”を忘れることなく、地に足をつけて泥臭く戦い続けてほしいものである。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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