[キリンチャレンジカップ]日本 0-1 ブラジル/6月6日/国立競技場

 力の差は一目瞭然だった。

 ブラジルは90分間を通して、ペナルティエリア内でのボールタッチが60回を超えたのに対し、前半の日本はセットプレーからのヘディングによる2度だけにとどまり、最後まで1度も枠内にシュートを飛ばせなかった。

 日本も序盤は前からプレッシングに出ようという姿勢を見せ、開始早々には相手の左サイドで詰め切り、エデル・ミリトンに蹴らせて板倉滉が奪取に成功している。だが格上のブラジルがその後も果敢にボール奪取に出たのに対し、日本はミドルゾーンで待ち構える戦い方に変えてしまう。

 これで総体的な個々の力量の違いは一層浮き彫りになった。最終ラインから余裕を持って組み立てるブラジルは、絶対にボールを奪われない技術に創意をおりこみ、怒涛の攻勢を仕掛けてくる。一方で日本は、まず頼みの伊東純也がギリェルメ・アラーナにしっかりと対応されると、縦への仕掛けが消え、長友佑都のインナーラップで何度かは脅かすも、ほぼエリア内に侵入する術を失った。
 
 日本代表選手たちも底上げはできている。だが同じ欧州組でも、ブラジルが頂点レベルのエース級の選手を揃えているのに対し、日本で同等レベルのレギュラー格なのはアーセナルでプレーする冨安健洋だけだ。端的に個で相手をはがせるタレントが不在で、格の違いがそのままチーム力の差として反映されてしまった。

  それでも遠藤航は「相手も本来のコンディションではない」と感じていたし、吉田麻也も「本番はこんなもんではない」と見ている。

 率直にブラジルに限らず、ワールドカップで戦うスペインもドイツも明らかに格上で、試合後に三笘薫が語ったように「1試合だけなら勝てたり引き分けたりできるかもしれないが、まだまだ圧倒的な差がある」のが現状なのだが、それを踏まえたうえで本番のW杯では何を残そうとするのか。まだ日本代表では、この肝心なポイントが絞り切れていないように見える。
 
 森保一監督は「過去最高のベスト8」と繰り返すが、結果を得るための最善策と、日本代表の最高のパフォーマンスを引き出す術には、齟齬(そご)が生じる可能性がある。ブラジル戦も、引き分ける可能性はあったとしても勝利を掴み取るための策は見えてこなかった。

 例えば遠藤は「後半は完全に引いた方が相手も崩し難くて嫌だと思った」と振り返りながら、「前から行くのは難しいという感覚で、行くならもっとマンツーマン気味で(プレスをかける相手を)はっきりしないと」と語っている。

 亡くなった元日本代表監督のイビチャ・オシム氏は、よく「弱者の論理」という言葉を用いて「主役はチームだ」と話していた。世界の趨勢(すうせい)をわきまえ、そのうえで機先を制し、相手を驚かせるアイデアを追求し続けた。だが森保監督は常々「勇敢に」「チャレンジャー精神を持って」と強調しながら、選手たちが躊躇なくそれを表現できるチーム作りが立ち遅れている。
 
 試合後に吉田が後方からのビルドアップについて「今日トライしなければ本番では全然できない」と言及したが、逆にそれをこの時期に「トライ」しているようでは4年間という長期政権を託し、しかも多くの試合を固定メンバーで戦ってきた意味が薄れる。

 もちろんW杯は結果が重要で、結果が出てこそサッカー人気が盛り上がるという真実もある。ただし反面、「奇跡の勝利」が劇的な前進に繋がらないことは歴史が証明しており、結果を出すのが難しい大会だからこそ次代への有益なヒントを残すことこそが大義になるはずだ。

 ブラジル戦は勝点1を残すには効果的な策に映るかもしれないが、開始早々2分のポストに当たったルーカス・パケタのシュートが、何センチかずれて入っていればゴールが雪崩になっていた可能性もある。

 カタールW杯を終えても、日本が世界を追いかけていく立場なのは変わらない。森保監督には、きまぐれな勝敗や数値ではなく、確実な前進を見込める指針を掲げて欲しい。

取材・文●加部 究(スポーツライター)

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