あと少し、何が足りなかったのだろう。

 クロアチアにPK戦で敗れてから、そればかり考えている。

 日本国内の熱狂は、森保一監督と選手たちの帰国で再点火されたと映る。指揮官と選手たちは、テレビ局をはしごするような日々を過ごすことになるのだろう。年末から年始の特番の収録にも駆り出されそうだから、年明けまでW杯の余韻が引っ張られるかもしれない。

 その一方で、次期日本代表監督をどうするのかが話題に上がっている。いつものように外国人のビッグネームの名前が飛び交っているが、森保監督の続投の可能性もある。

 ロシアW杯でチームを指揮した西野朗監督(当時)は、「どんな結果になってもロシアまで」との前提でチームの先頭に立った。今回は、森保監督が引き続き采配をふるうことも選択肢に入っている。

 まず必要なのは検証だ。

 カタールW杯の4試合から、何が見えたのか。グループステージを首位通過できた要因と、クロアチアにPKで敗れた要因を、洗い出すことが大前提だ。

 外国人監督の招へいについては、個人的には消極的なスタンスである。理由はいくつかあり、最初にあげたいのはコミュニケーションだ。

 日本語をしゃべらない外国人監督は、通訳を介したコミュニケーションとなる。監督の母国語を通訳が日本語に訳すと、細かい部分がどうしても伝わりにくい。日本代表選手が漏れなく多言語を話すか、外国人監督が完璧に日本語を操らないかぎり、コミュニケーションの問題は必ず横たわる。

 もうひとつは「経験の継承」だ。

 外国人監督が日本代表を率いると、コーチ以下のスタッフも連れてくる。監督ひとりでやってくる、ということはないだろう。

 そうなると、メンバー選考から試合へ向けた準備、試合中や試合後のマネジメントなどを、外国人スタッフに任せることになる。日本人スタッフを入れたとしても、代表監督にチームを託した期間が、日本サッカー界の財産になりにくい。

■外国人監督には「帰る場所」がある

 さらにあげたいのが、外国人監督には「帰る場所」があることだ。日本を愛し、日本に愛されたとしても、彼らは任期が満了すれば母国へ帰る。

 W杯のグループステージで敗退に終わっても、母国で叩かれることはない。外国人監督が日本人選手の経験不足や実力不足を敗戦の理由にあげれば、母国のメディアの大半はそれを信じるだろう。

 言い方を変えれば、日本代表を率いることは、外国人監督にとってリスクの大きな仕事ではない。W杯予選で敗退するような失敗を演じないかぎり、経歴に傷がつくことないと考える。

 日本人監督は、違うだろう。

 ドイツとスペインを連破し、グループステージを首位通過したことで、森保監督は称賛の対象となった。帰国した彼は拍手で迎えられたが、グループステージで敗退していたらどうだったか。出国ゲートで待ち構える人はまばらで、わざわざ待ち受けた人からは罵声を浴びせられたに違いない。

 どんな結果になっても、森保監督の帰る場所は日本だ。そして、海外へ移住でもしなければ、そのまま日本に住み続けることになる。結果が伴わなければ、家族にも息苦しい思いをさせてしまう。

 勝って得るものは大きいが、負けて失うものもとんでもなく大きい。つねに追い詰められている状況である。そこに、勝負に賭ける思いの違いが表われると思うのだ。

■ブラジルW杯のザッケローニ監督の采配への疑問

 古い話を承知で言う。

 2014年のブラジルW杯のグループステージ第2戦で、日本はギリシャと対戦した。初戦のコートジボワール戦を落としていた日本にとっては、勝点3がほしかった一戦である。

 覚えている方もいるだろうが、ギリシャは前半終了待たずに退場者を出した。日本は数的優位に立った。

 アルベルト・ザッケローニ監督は、ハーフタイムに長谷部誠を下げ、遠藤保仁を投入した。長谷部は前半に警告を受けており、2枚目を嫌ったのと同時に、遠藤を入れることで攻撃のギアをあげたかったのだろう。

 2枚目のカードは57分だった。大迫勇也を下げて香川真司がピッチに立つ。

 後半は押し込むことができた。しかし、得点を奪うことはできない。ベンチには柿谷曜一朗と齋藤学がいた。ブロックを敷いているギリシャの守備網を切り裂くのに、齋藤のドリブルは有効では思った。
選手を入れ替えず、パワープレーを仕掛ける手もあった。森重真人を入れて、吉田麻也を前線へあげるといった策は取れた。

 ザッケローニ監督はどうしたか。

 動かなかった。3枚目のカードを切ることも、パワープレーをしかけることもなく、0対0のまま試合終了のホイッスルを聞いた。

 後日、ザッケローニ本人に「なぜ動かなかったのか」を直接聞いた。納得できる答えはもらえなかった。

 なぜ、彼は動かなかったのか。僕自身の答えは「覚悟」である。失うものがない、あるいはさして多くない彼は、いつもどおりの采配をした。そして、負けてしまったのだ。