キリンカップサッカー2022の決勝。日本はチュニジアと対戦し、0-3で敗れた。

 日本は前半から再三訪れた決定機をものにできず、スコアレスで折り返すと、後半はミスを連発。自滅的な敗北を喫し、約5か月後のカタール・ワールドカップへ向け不安を残した。

 日本とチュニジアはともに[4-3-3]。システムは同じだが、運用の完成度ではチュニジアが上だった。[4-3-3]は配置の急所として、センターフォワードの裏が空きやすい。相手のアンカーが立つ、このスペースをどう管理するかにより、守備のスタートの成否が決まる。

 チュニジアはセンターフォワードのタハ・ヤシン・ケニシが下がり、アンカーの遠藤航をマークすることで、急所となるスペースを抑えた。ケニシがマークできない状況では、後方からアンカーのアイサ・ビラル・ライドゥニが前へ出て、代わりを務めた。
 
 日本はケニシが下がるため、基本的にセンターバックはプレッシャーを受けず、後方でボールを持つことは容易だった。しかし、そこから縦へ運ぶのが大変だった。相手はMF3枚にケニシを加えた4枚が中央を抑えているため、中にスペースがない。

 序盤はサイドからボールを運び、伊藤洋輝から前線の南野拓実へのスルーパスなどで攻略に成功したが、チュニジアはサイドへのアプローチを鋭くしたり、スルーパスに対するDFのスライドを速めるなど、対応した。日本としては一度中央へボールを入れ、相手の守備を集結させてから、サイドへ展開しようとするが、その前に中央でボールを刈り取られる場面が目立った。

 日本がサイドからビルドアップするためには、例えば吉田麻也や板倉滉が少しワイドに張って、サイドバックの伊藤や長友佑都を高い位置へ送り出してもいい。これによって、相手ウイングに対応を迷わせることができる。

 あるいはマークされた遠藤がサイドへ出て、インサイドハーフの鎌田大地がアンカーの位置へ斜めに下りるか。この場合も、相手FWやMFに「どこまで付いていくか?」と迷わせることができる。

 しかし、日本はあまりこうした工夫がなかった。チュニジア戦に限らず、この4連戦、日本はシステムが硬直化していた。[4-3-3]の初期配置で固まってしまい、立ち位置を動かせていない。システムの奴隷になっている。
 
 あとは個人頼みだ。遠藤がプレッシャーを受けつつもはがしてしまえば、それで解決するかもしれない。だが、デュエルに長けた遠藤も、四方から囲まれると弱い。得意の1対1ではなくなるからだ。

 そうした密集の脱出なら、田中碧や守田英正のほうが得意だろう。仮に田中、守田、遠藤の3人で出場すれば、もっと中盤で柔軟性を出せたはずだが、この6月に初めて試した中盤の組み合わせでは、「対応力」を発揮できなかった。

 守備時も同様だ。この3人で組む[4-3-3]は、遠藤がアンカーというより、田中、守田、遠藤の3人が並列に立つイメージなので、遠藤が前へプレスに行き、ほかの2人でカバーすることもある。非常に柔軟だ。しかし、今回の[4-3-3]は、遠藤が完全にアンカーのイメージで中盤の底に立つため、前線と後方のプレスが分断され、中盤にスペースが空く場面が目立った。
 
 新たなセットを模索した6月。パラグアイ戦とチュニジア戦では、浅野拓磨、鎌田大地、原口元気、遠藤と、中盤から前のセンターラインを固定し、同じ配置でスタメンに並べた。

 カタールW杯は5人交代制が濃厚であるため、例えば連係の取れているMF2~3人を丸ごと交代することも可能だ。守田、田中、遠藤に次ぐ2つ目の組み合わせを模索した様子は、ある程度読み取れる。彼ら以外にも伊藤と三笘薫、久保建英と堂安律など、セット起用を匂わせる采配は多い。

 ただし、問題は完成度。今の硬直したシステムや戦術で、実戦に耐え得るのか。そこは疑問だ。

 森保一監督のやり方を完全否定するつもりはない。選手に戦術を委ね、対応力のある自立型のチームを目ざすのは、ひとつの方針としては成立する。阿吽の呼吸で成立するチームは、構造がないため、対戦相手にとっても分析しづらい厄介な相手だ。目ざす理想はわかる。

 だが、もう時間切れではないだろうか。この6月が終われば、残る強化の機会は9月の2試合しかない。W杯最終予選で結果を残した守田、田中、遠藤を中心とする[4-3-3]以外は、W杯本番に耐え得る完成度がない。チュニジア戦をあと4回ぐらいできれば、どうにかなったのかもしれないが、現実はあと2試合だけだ。
 
 もともと選手に委ねるチーム作りは時間がかかる。今回はもっとブーストをかけ、2セット目を模索する必要があったのではないか。つまり、相手のプレスに応じた形を複数用意し、細かく戦術を組み立て、ブラジル戦やチュニジア戦に挑む。森保監督が明らかに本番モードに入ったと、誰もが思うくらいに。そうしなければ、間に合わない。
 
 しかし実際、そこまでの緊張感はなかった。ベンチからのコーチングは今までよりも多く感じたが、内容を見れば十分とは思えない。このままでは森保ジャパンのチーム作りは、時間切れが濃厚だ。

 本番は最終予選で完成したファーストセットをぶつけるのみか、あるいはそのファーストセットが、グループステージの連戦で疲労して崩れるか。不満と不安を残す6月だった。

文●清水英斗(サッカーライター)

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