「勝ってからの評価だと思うので、まずはチームとして3試合全部勝って、必ず優勝したいと思います。自分が(カタールW杯に)入れたらどうなるかを結果で示していけないと思いますし、目標であるゴールに絡むプレーは意識してやりたいです」

 19日から開幕したEAFF E-1サッカー選手権2022を前に、森保ジャパン常連組の1人である山根視来はタイトル獲得に燃えていた。

 2003年から9度目となるこのトーナメントだが、日本は2013年の韓国大会しか頂点に立っていない。韓国が5度の優勝を果たしていることを考えると、自国開催の今回は絶対に王者の栄冠を勝ち取る必要がある。

 迎えた初戦の香港戦。同じ最終予選経験者の谷口彰悟とともに最終ラインに陣取った背番号2は、A代表初キャップ5人をはじめとする代表経験の少ないメンバーを後方からサポート。縦関係を形成した32歳の水沼宏太と非常に息の合った連携で敵陣を切り裂いていった。

 圧巻だったのは、20分。町野修斗の2点目をお膳立てしたピンポイントクロスだ。鋭いボールはDFの間に侵入した185センチの長身FWにピタリと合い、そのままゴールネットを揺らした。「最高のクロスが上がってきた」と町野も絶賛した通り、ダイレクトにゴールにつながる仕事のできる山根らしいプレーだった。

 この後も幅を取る水沼の動きを見ながら、的確なタイミングでインナーラップを繰り返す。それが結実したのが、55分の5点目だ。水沼に預け、一気にペナルティエリア深い位置へ侵入。マイナスクロスを入れたところに相馬勇紀が詰めて得点につなげた。

 直後の町野の6点目も山根が起点。香港という格下相手でやりやすさもあったのだろうが、まさに無双状態。谷口が下がった後にキャプテンマークも巻いたことも含めて、森保監督は彼への信頼をより一層、深めたに違いない。

 ご存じの通り、今回は長友佑都、酒井宏樹というW杯経験者が不在。最終予選に出ている彼と谷口が大黒柱と言っていい状況だ。

「(代表定着に)危機感を持っていないことは1度もないです。自分は代表で全部を出してアピールしていかなければいけない立場だと、ずっと思っているので、今回も何も変わりませんし、しっかり自分の中で覚悟を持ってやっていくだけです」と、本人はあくまでチャレンジャー精神を貫いているが、この日の一挙手一投足は紛れもなく別格だった。

 6月のブラジル戦で長友が右SBを担ったように、フルメンバーが揃った代表になると山根は厳しい立場に置かれることも少なくなかったが、こうやって国内組の中でプレーすると存在感が全く違う。2021年3月の韓国戦で代表デビューを飾ってからまだ1年4カ月しか経っていないことを忘れてしまいそうだ。

 同じ韓国戦でベンチに座っていた畠中槙之輔も「存在感というか、いるだけで安心できる部分は視来君にも感じました」と、神妙な面持ちで言うほど、劇的な成長曲線を辿っていると言っていい。

「いろいろな選手とやっていく中で、どういうプレーが得意なのかを見極めて絡んでいけるというのは自分の新たな発見でした」と本人も話すように、代表に来てからの山根は前後左右の組み合わせが変わる中でも、柔軟に適応。「生かし、生かされる関係」を築いてきた。その臨機応変さと多様性は、長友や酒井宏樹を上回っていると言ってもいい。だからこそ、水沼、岩崎悠人と目まぐるしく縦関係が変わった香港戦でもイキイキと躍動感あるパフォーマンスを示せたのだ。

 とはいえ、本当の勝負はここから。E-1でタイトルを取るためには、中国、韓国というアジアの宿敵を撃破しなければいけない。とりわけ韓国は、山根にとって記念すべき初キャップの相手でもある。あの試合で先制弾を奪ってチームを勢いづけたように、今回も攻守両面で強烈なインパクトを残し、カタール行きを確実にしたいところである。

 その先には夢舞台でピッチに立つという大いなる野望がある。ドイツ、コスタリカ、スペインという相手を考えた時、森保監督は長友や酒井のような複数回のW杯経験と欧州強豪クラブで修羅場をくぐってきた実績に頼る可能性も少なくないが、山根にもチャンスがないとは言い切れない。出番を引き寄せるためにも、武器である攻撃力に磨きをかけ、守備の強度を高めていくことが肝要だ。

 6月のブラジル戦の後、山根は「(世界の強豪は)単純にトップスピードでも技術が落ちないとか、狭いところでもちょっと浮かして間に入っていけるとか、とにかく技術が高い。予測の部分はもうちょっと早くしなければいけない」と神妙な面持ちで語っていた。そのレベルと戦った実体験が少ない分、より高度な察知力と対応力、駆け引きの力が求められてくる。今回のE-1はその能力を引き上げるいい機会ではないか。

 まずは中国に勝ち、韓国を倒して、ノルマであるタイトルを獲得し、カタールへ突き進み、主力の一員として躍動する…。そのシナリオを現実にすべく、山根は貪欲に前進を続けていくはずだ。

取材・文=元川悦子