FIFAワールドカップカタール2022の日本代表26名発表前最後のテストマッチとなる27日のエクアドル代表戦。2-0で快勝した23日のアメリカ代表戦で出番がなかった面々は大いなる闘志を燃やしているはずだ。
その筆頭が、エースナンバー“10”を背負う南野拓実だろう。
「ここまで左サイドでプレーしていて、ゴールに絡めてないと感じる部分もあるし、攻撃の最後のところでもっと相手の脅威になりたいと思うところもある。自分のいいところを出してチームの勝利に貢献したい」と本人は語っているが、アメリカ戦ではその場が与えられなかった。それだけに「今しかない」という思いは強いはずだ。
鎌田大地、久保建英が代表に絡み始め、南野が左に主戦場を移した2019年後半あたりから、彼のゴール数はあまり伸びていない。最たるものが最終予選だ。
得点を奪ったのは、今年2月のサウジアラビア戦の1点のみ。特にシステムを4-3-3にシフトしてからは、左サイドで守備に忙殺される時間帯が長くなり、ゴール前への侵入回数が激減した。
2021年11月のオマーン戦の際には、縦関係を形成する長友佑都と深刻な様子で話し合う姿もあり、南野自身も自分がどうすべきか、という最適解を探し続け、もがき苦しんだことだろう。
リヴァプールで出場機会に恵まれず、心機一転、今夏に赴いたモナコで華々しいスタートを切れなかったことも想定外だった。アメリカ戦で活躍した鎌田、久保らが今季開幕から鋭いパフォーマンスを見せ、左の切り札である三笘薫も今年の代表5得点という目覚ましい成績を残す傍らで、誰よりも負けず嫌いの男は悔しさを感じていたに違いない。
ゆえに、今回のエクアドル戦では大いなるインパクトを残すことが肝要だ。森保一監督は南野をトップ下で先発起用するのではないかという見方が根強い中、古橋亨梧との縦関係でポジションを入れ替えながらプレーすれば、ゴールへの脅威は増すし、守備面でのハードワークも期待できる。
アメリカ戦の控え組だけで行われた24日の練習でのミニゲームでも、いい形の2人の連係が垣間見えた。であれば、本人としては一番やりやすい中央で持ち前の決定力を発揮できる。これは千載一遇のチャンスを見ていい。
「亨梧は裏への抜け出しや、ゴール前で『どこで点を取るか』というポジショニングにうまさがあるので、そういうところでお互いを生かし合えればいいかなと思いますし、ワールドカップへ向けて、いい印象を与えられればいいなと思います」
アメリカ戦で結果を出した鎌田との競争についても「大地と比べると、僕はもうちょっとゴール前で仕事をするタイプだと思うので、いつも通りにプレーできればいい。競争は今に始まったことではないし、ずっとあること。チームにとっていいことで、自分がやるべきなのは持てる力をすべて出し切ることだと思います」と強い覚悟を示している。
そもそも南野が今シーズン序盤で苦戦しているのは、モナコを率いるフィリップ・クレマン監督が求めるハードなフィジカルトレーニングによるところが大きかったようだ。
「我々はフィジカルチーム。昨シーズンはヨーロッパトップ5の負荷でトレーニングしていたし、今シーズン序盤もそうだった。タキ(南野の愛称)はそれで疲れていたけど、今はフレッシュな状態になっている。週ごとに状態がよくなり、質も高くなっている。まだモナコに来て1カ月程度しか経っていないし、これからもっとフィットして重要な役割を果たしてくれると思う。全く心配していない」と、指揮官も南野のポテンシャルに太鼓判を押している。
「練習がめっちゃ、ハードなんです」というのは、南野自身も今回の代表合流当初に吐露していたこと。「体を回復させて、次の試合に向けて合わせるのがすごく大変で、最初は体が慣れていなかった。でも今は少しずつ慣れてきているし、フィジカルコーチとも相談しながらやっている」とも発言しており、復調傾向にあるのは間違いない。
その象徴が代表合流直前だった18日のスタッド・ランス戦での1ゴール1アシストの活躍だった。相手が10人になり、しかも4-4-2の右サイドに入っていた南野の対面の選手が空けていたスペースを突いた状況でのゴールだったため、対戦相手だった伊東純也も「あれはラッキー」と苦笑していたが、ゴールはゴール。最後のアシストにしても、南野の仕掛けのセンスがあってこそ。そこは非常に前向きな要素と見ていいはずだ。
加えて言うと、仮にエクアドル戦で抜群のパフォーマンスが披露できなかったとしても、カタールまで2カ月ある。それだけの時間的余裕があれば、十分にトップフォームに持って行けるだろうし、最大の武器であるシュート精度もマックスまで引き上げられるはず。彼を取り巻く環境は決して悲観的ではないのだ。
“ヨーロッパ最高峰クラブであるリヴァプールに2年半在籍した選手”ということで、南野はどうしても注目される。しかも日本代表の10番を背負っているのだから、目に見えない重圧もあるだろう。そういう中、「批判は見ないし、自分でしか解決できない」と雑音をシャットアウトして真摯にサッカーと向き合っている。
その姿勢がエクアドル戦、そしてカタールW杯で報われれば、まさに理想的なシナリオだ。ここ最近は代表に来るとやや重苦しい表情を浮かべることの多かった日本のエースに満面の笑みが見られることを願ってやまない。
取材・文=元川悦子