■グループステージのシミュレーションから導き出された26名

 今月20日からカタールで開幕する「FIFAワールドカップカタール2022」に向けて、日本代表(SAMURAI BLUE)選手のメンバー発表記者会見が行われた。今回の26名を見て最も考えられるのが、森保一監督やスタッフがグループステージの3試合をシミュレーションして、そこに当てはめていった結果であるということだ。

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 シンプルに能力を評価するなら、大迫勇也(ヴィッセル神戸)や原口元気(1.FCウニオンベルリン)のメンバー入りもあり得たが、最初のドイツ戦をはじめとして具体的に使うシステム、配置、ジョーカーという想定をしていくと、少なくともフィールド選手23名の意図はかなり鮮明になってくる。

 その中で浅野拓磨(ボーフム)と古橋亨梧(セルティック)、上田綺世(セルクル・ブルージュ)と大迫、南野拓実(モナコ)と旗手怜央(セルティック)、柴崎岳(レガネス)と原口といったところは、スタッフ内で議論が紛糾したかもしれない。一方でDF枠から一人削って中盤や前線を増やした方が、勝負のオプションが増えるという意見もあると思う。

 筆者もその考えだが、おそらく現場の判断はドイツ戦やスペイン戦でディフェンス陣の負荷がかなりかかること、ケガ明けの板倉滉(ボルシア・メンヒェングラードバッハ)や回復力に不安のある酒井宏樹(浦和レッズ)、年齢が高めな吉田麻也(シャルケ)や長友佑都(FC東京)のカバーリングも考えると、9人編成になったことも致し方ないところはある。

 3試合のシミュレーションを前提に、アクセントも考えると各ポジションに3人は必要で、そのバランスも重視されたはず。E-1選手権のMVPで、9月の遠征にも呼ばれた相馬勇紀(名古屋グランパス)は左右のサイドアタッカーとして起用でき、3バック採用時にはウイングバックも務まる。もちろん突破力やセットプレーのキッカーとしての能力も魅力だが、3試合のシミュレーションでの起用法とアクシデント対応、その両方でマッチしたのだろう。

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■スターターとクローザー。試合によって選手起用を使い分ける

 “デュエル王”遠藤航(シュトゥットガルト)や中盤の戦術マスター守田英正(スポルティングCP)、守備強度の高い冨安健洋(アーセナル)、経験豊富な右サイドバックの酒井、攻撃の中心を担う鎌田大地(フランクフルト)、そして右の仕掛け人である伊東純也(スタッド・ランス)は、監督が誰でも主力になるであろう主軸だ。ただ、彼らも過密日程でドイツ、コスタリカ、スペインという難敵に挑んでいく中で、使い通しでは持たなくなってしまう。

 おそらくドイツ戦のスタメンとコスタリカ戦のスタメンはガラッと変わるはず。フィールドの選手は完全なレギュラーとサブではなく、試合によってスターターとクローザーが変わっていく構成になるだろう。例えば2戦目のコスタリカ戦では、右サイドの伊東をスペイン戦に備えて休ませて、引いた相手により能力を発揮する堂安律(フライブルク)をスタメン起用するプランも有効だ。3試合、さらには目標のベスト8をかけた4試合目のラウンド16で、上記の6人が出来るだけフルパワーを発揮できるプランを組みながら、三笘薫(ブライトン)のような個で違いを生み出せる武器を生かしていけるかが鍵になる。

 筆者が考えるドイツ戦のシステムは4-2-3-1で、おそらく9月のアメリカ戦メンバーがベースになる。ただし、ヒザのケガから回復中の板倉と浅野は、状態が戻れば板倉はセンターバック、浅野は1トップでスタメン起用される可能性もある。さらにアメリカ戦の前半で負傷したGK権田修一(清水エスパルス)、途中からゴールマウスを守ったシュミット・ダニエル(シント=トロイデン)の競争も見どころだ。

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■南野拓実と柴崎岳に求められる周囲を納得させるパフォーマンス

 今回の26名で、筆者が3試合のシミュレーションで具体化できていないのが柴崎と南野だ。前述の通り、柴崎は原口、南野は旗手に取って代わられる可能性もあったと考えられる。ただ、柴崎は攻守のバランスワークに優れており、途中のシステムチェンジなどにも対応できる柔軟性やゲームコントロール力が評価されたと考えられる。さらに監督のトップダウンよりも、ボトムアップで選手と作り上げていくチームにおいて、吉田キャプテンと共に欠かせない選手であるのは確かだ。

 南野に関してはハイプレスの強度とクオリティというところで、2列目の選手の中では高いものがある。もちろん一番求められるのはゴールで、もし本大会でノーゴールに終わるようなら、どれだけ守備面で貢献してもメディアやサポーターからの批判は免れないだろう。柴崎にしても南野にしても、森保監督のチームビルディングで重要な選手であることは間違いないが、やはり目に見えるパフォーマンスで周囲に納得させてほしい期待はある。

 さらに気になるのは三笘の起用法だろう。突破力と個で違いを生み出す能力は右サイドの主力である伊東純也と一、二を争う。ただ、エクアドル戦でわかる通り、継続的に強度の高い守備が求められる前半は守備でラグが生じたり、攻撃で持ちすぎになってしまうところもある。三笘自身はスタメン奪取に意欲満々だが、日本代表の希少な武器である彼の突破力を最大限に生かすなら、ジョーカーとしてスタンバイしてもらうのも考えられるプランだ。

 アメリカ戦のエビデンスを素直に評価するなら、ドイツ戦の左サイドは久保がファーストチョイスになる。ただ、1試合でかなり消耗するはずなので、コスタリカ戦は三笘か、あるいは攻守にハードワークできる相馬がスタートで出て、後半に三笘が出ることで相手ディフェンスに決定的なダメージを与えることができる。

 コロナ禍の対策として、従来の23人から26人に増枠された今大会だが、こうしてみると余剰戦力はいない。もちろん冨安、遠藤、鎌田のような主軸と考えられる選手はいるが、全員で大会を勝ちにいく一体感が必要になってくる。通常は一度も試合に出ないで大会を終える選手が数人いるが、少なくともフィールド選手は全員が一度はピッチに立つ大会になる可能性は十分にある。

文/河治良幸

写真/徳丸篤史、浦正弘(会見)