日本代表は、ワールドカップメンバー選考前最後となる準備期間「ドイツ遠征」を終えた。実りある時間となったが、同時に日本が本大会で対戦するチームも準備を進めている。ドイツ、スペインという強敵が相手だが、サッカージャーナリスト・後藤健生の目には今回の準備期間では突破口も見えてきた。グループステージを突破し、まずはラウンド16へ到達するのに必要なものとは――。

■参考になるスイスの守備の切り替え

 ドイツに対しては前線からのプレスで高い位置でボールを奪ってショートカウンターという戦法が有効だろうが、スペインに対してはなかなかハイプレスは効かないだろう。なにしろ、パスをつなぐ技術ではスペインは世界最高峰である。

 UEFAネーションズリーグでスペインを破ったスイスは、キックオフ直後はスペインに対して高い位置からプレスを仕掛けに行った。実際、スイスのプレスは有効なようにも見えたのだが、スペインはそのプレスをかいくぐってMFのセルヒオ・ブスケツにつないだ。そして、ブスケツが左右に展開することでスペインは何度かチャンスを作りかけた。

 すると、スイス側はすぐに守備の仕方を変更し、4-2-3-1のトップ下にいたジブリル・ソウがブスケツをマーク。ソウがポジションを変えた場合にはワントップのブリール・エンボロがソウに代わってブスケツを監視した。そして、高い位置からプレスをかけるのを諦めて、全体にコンパクトなブロックを作って守る方法に切り替えたのだ。

 試合開始から10分過ぎには守り方を切り替えたのだから、おそらくスイスは最初から構えて守るやり方を準備していて、キックオフ直後だけ高い位置でのプレスを試みたのだろう。

 そして、スペインはスイスの守り方に苦しんだ。

 ボール保持率は75%に達したものの、シュート数は8対8と同数。前半21分にCKからスイスに先制を許し、後半に入ってマルコ・アセンシオのロングドリブルからサイドバックのジョルディ・アルバが決めて同点に追いついたものの、直後に再びCKから失点し、ホームでの敗戦という屈辱を味わうこととなった(ボールポゼッションで上回ったスペインがカウンターから得点したことも皮肉な結果)。

 ボールは持てるものの、相手のブロックの外でパス回しに終始したスペイン。この日は、アセンシオをFWに置いた、いわばゼロトップだったが、ウィングに入ったフェラン・トーレス(右)、パブロ・サラビア(左)に怖さがなかった。

■スペインには守備を固めてカウンター

 この結果を受けて、ルイス・エンリケ監督はポルトガル戦ではトップにCFタイプのモラタを起用するなど、先発を7人も入れ替えた(2試合とも先発したのはGKのウナイ・シモン、CBのパウ・トーレス、そして両ウィングのフェラン・トーレスとサラビア)。

 しかし、最初に述べた通り、引いて守るポルトガルを相手に、やはりボールは持てるものの崩すことができず、あわやスコアレスドローでファイナル4進出を逃すところだった。

 日本代表も、スペインと戦う場合にはハイプレスをかけにいくより、構えて守る方が得策なのかもしれない。というより、スペインの技術力を考えれば、日本側の意図とはかかわりなく、スペインにボールを持たれる展開になることは間違いない。

 日本代表は、こうした試合展開は2021年の東京オリンピックの準決勝ですでに経験している。

 スペインにボールを持たれて守りに回る時間が長かったものの、日本の粘り強い守備でスペインは得点できずに延長戦に入り、準々決勝のニュージーランド戦でも延長を戦っていた日本選手の足が止まり始めた延長後半の115分にアセンシオに決められて日本は涙を呑んだ(スペインも準々決勝では延長を戦っていたが、スペインは大幅にターンオーバーを使っていた)。

 もちろん、この試合はオリンピック・チーム同士の戦いだったが、オーバーエイジで参加した吉田麻也、酒井宏樹、遠藤航を含めて多くの選手がこの試合を経験したし、スペイン側もGKのウナイ・シモンやアセンシオをはじめ、パウ・トーレス、ペドリ、エリック・ガルシアなど現在のフル代表メンバーが多くプレーしていた。

 従って、スペインにボールを持たれるにしても簡単に失点をせずに、カウンターから得点を狙う戦い方で勝機を見出だすことはできるかもしれない。吉田、冨安健洋のCBの前に遠藤、守田英正を置く日本の中央の守備力は高い。また、スペインは高さはないので、相手のウィング封じのためには長友佑都に期待できるかもしれない。

■勝負をかけるべきはドイツ戦

 9月シリーズを見た限りでは、ドイツやスペインのチーム状態は必ずしも良くない。今年のワールドカップは11月開催となったために、大会前には1週間の準備期間しか与えられず、それはどこの国の代表監督にとっても難しい条件なのではあるが、すでにチームの完成度がかなり高い状態にあることを証明した日本代表にとってよりも、チーム状態が良くないドイツやスペインにとっての方が、準備期間の不足は悩ましい条件となる。

 とくに、大会初戦で対戦するドイツはチーム状態について不安を抱えたまま日本と対戦することになる。しかも、それでも優勝を狙うであろうドイツは初戦に集中することもできない。

 日本としては、やはりこのドイツ戦に戦力を集中させて勝負をかけるべきだろう。3戦目に対戦するスペインは日本のチーム状態を観察して対策を立ててくるはずだが、ドイツは日本の情報を完全につかんでいるわけではない。一方、日本側は映像などでドイツを徹底的に分析して戦える。しかも、主力選手の多くが現在ドイツのブンデスリーガでプレーしているのだから、日本側はドイツ選手について肌感覚で理解しているはずだ。

 この試合で勝負しない選択はない。

 また、日本代表としては、前からプレスをかけたいドイツ戦では前田大然を先発させ、どうしても押し込まれる時間が長くなるだろうスペイン戦ではターゲットになる上田綺世を使うなど、相手のことも考えて選手を使い分けることが重要になる。