カタール・ワールドカップに臨む日本代表のメンバーで、怪我のDF中山雄太(ハダーズフィールド)に代わり、FW町野修斗(湘南ベルマーレ)が追加招集された。

 もともとDFが9人選ばれていたことを考えれば、メンバー構成的には攻撃のオプションを増やすことになり、大会に臨むにあったっては理解できるところもある。

 もちろん攻撃的なメンバーとしては、前回のロシア・ワールドカップで主力だった大迫勇也(ヴィッセル神戸)のほか、古橋亨梧(セルティック)や、ポジションは二列目がメインになるが旗手怜央(セルティック)のようなチョイスもあった。

 大迫に関してはリーグ最終節の試合後に、バックアップの打診を断ったというコメントもある。町野との優先順がどうだったかは詮索しても仕方ないが、この追加招集からチームの方向性、大会のシミュレーションを考えたい。

 まず中山がいないことで、どんなマイナスがあるか。左サイドバックには4大会目のW杯となる長友佑都(FC東京)と、ドイツで成長し、6月の代表シリーズから台頭した伊藤洋輝(シュツットガルト)がいる。長友は本職の左に加えて右サイドバック、伊藤はほぼ半々の割合で、左のセンターバックとしてもテストされている。
 
 4バック全体を見ると、右サイドバックは酒井宏樹(浦和レッズ)と山根視来(川崎フロンターレ)という2人のスペシャリストがおり、センターバックは冨安健洋(アーセナル)、吉田麻也(シャルケ)、板倉滉(ボルシアMG)、谷口彰悟(川崎フロンターレ)に、マルチロールの伊藤という構成だ。

 冨安は9月のアメリカ戦で右サイドバックでも起用された。ただし、周知の通り、板倉は膝の負傷から回復中で、冨安は過去に負傷した、ふくらはぎの痛みが再発したとの情報もある。

 伊藤がセンターバックもできる前提で考えれば十分にカバーできそうだが、中山がいなくなることで、伊藤が左サイドバックに専念する必要性がかなり高まった。MFとFWで最終ラインができる選手では、所属クラブで左ウイングバックを担っている相馬勇紀(名古屋グランパス)はサイドバックができなくもない。ただ、それはよほどの有事に備えてのプランだろう。
 
 そう考えると、東京五輪代表では左サイドバックの候補にもなっていた旗手を追加招集しなかった意味が理解しにくい。あるいは同ポジションで計算できる佐々木翔(サンフレッチェ広島)を加えることで、伊藤をセンターバックで使いやすくなる。

 逆に9月の招集メンバーである瀬古歩夢(グラスホッパー)を加えれば、伊藤を左サイドバックに専念させても中央の選手層を確保できたはずだ。

 戦術面で見ると、中山は良質なビルドアップから三笘薫(ブライトン)のようなドリブラーをサポートする能力が高く、そうした部分では長友や伊藤を上回るものがある。筆者は中山をコスタリカ戦のスタメンに想定していた。

 森保監督のプランは不明だが、三笘を活かすという意味で、かなり頼りにしていたはずだ。それに加えて中山は3バックの左もこなせる。そこは伊藤もできるが、3バックをやるための頭数が減ってしまったことは確かだ。

 こうした中山の役割を補うのではなく、前線のオプションを加えた理由として考えられるのが、もともとオフェンスとディフェンスのバランスで、どちらに厚みを出すかという点。26人の発表前に、かなりギリギリまで代表スタッフ間で議論していたのではないか。

 中山は重要なピースと想定できるので、DFを9人から8人にした場合に誰を外すかは分からないが、ラスト1枚をオフェンシブな選手、おそらくFWにするのか、ディフェンスラインの選手にするのか悩んだ末に、DFを9人という構成にしたのだろう。
 
 そして中山の怪我で8人になったわけだが、そうであれば悩んでいたオフェンス側にオプションを加える。FWは上田綺世(サークル・ブルージュ)、浅野拓磨(ボーフム)、前田大然(セルティック)という3人の構成だが、筆者の予想では4人だった。

 やはり試合中に最も交代のカードを切りやすいポジションで、ハイプレスを基本にした場合の消耗が激しい。さらにスピード系の浅野と前田はいるが、ゴール前でパワーを出せる選手がもう一枚欲しかったのも確かだ。

 町野はまだまだ粗削りな部分も見受けられるが、それが魅力でもある。9月のアメリカ戦で後半から出場したが、慣れない環境や屈強なアメリカのディフェンスに対して、その時は本領を発揮できなかった。

「何もかもが違った」と語った町野。その悔しさをバネに湘南での終盤戦の活躍につなげたが、見方を変えれば、相手にあまり警戒されていない。いわゆる“世界に見つかっていない”という強みもある。
 
 筆者のプランとしては古橋を加えて、ドイツ戦やスペイン戦はよりスピードに特化して、相手のディフェンスを困らせることも想定していた。ただ、森保監督のプランは、やはり前線での高さと強さがあり、ポストプレーからクロスに飛び込んで合わせられるFWを加えたいと考えたのか。それなら26人のメンバーから外れた大迫にバックアップの打診をしたことも頷ける。

 FWに関しては浅野の怪我からの回復状況もポイントなので、17日にドバイで予定されているカナダ戦の前後までチェックして、もし難しい場合は代わりのFWを招集することも考えているはず。

 その意味では大迫、町野の他にバックアップを用意している可能性もある。冨安と板倉にしても、まだ大会に良い状態で臨めると決めつけるのは危険だが、そこは無事を願いつつも、現場で慎重に見極めてもらうしかない。
 
 森保監督はメンバー発表の時にも「23人から26人になったことで、選考が楽になるのかと思ったら全くそんなことはなかった」と語っていた。

“+3”をどう使うかは各国の代表監督で思考が分かれるところで、今大会のキーポイントでもある。ただ、その活用を明確に決められていたわけではなく、グループステージの3試合、さらに先までシミュレーションしながら、色んな要素を組み合わせて悩んでいたことが分かるはずだ。

文●河治良幸

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