終盤にチャレンジした3バックの課題と手応え

「今日試したかったことは、全体のコンディションを上げる部分、ワールドカップ本大会を見据えた時の戦術的な確認という部分、そして状況によって形、システムを変えてという部分。我々がワールドカップ本番に向けてを考えた時に、いい準備ができた試合だった」

森保一監督がそう振り返った、W杯前の最後のテストマッチとなったカナダ戦だが、後半アディショナルタイムにPKを献上して、1−2で敗れた。1−1で終わるのと、最後に負けるのでは大違いで、勝負という意味で反省は必要だ。1点リードした後に与えたCKからの同点ゴールもそうだが、こういう時間帯に失点して勝ち点を失うというのは本番でも起こりうる。

ただ、終盤に吉田麻也(シャルケ)を投入して、3バックで左右のウイングバックを上げる形を試した結果でもあり、実際に山根視来(川崎フロンターレ)の見事な飛び出しからポスト直撃のシーンが生まれたことを考えれば、有効なチャレンジではあった。

「どうやって終わらせるかは90分もそうだし、45分の前半の終わりもそう。いろんな状況で迎える残り10分は、戦い方を変えなきゃいけなくなってくる。間違いなくそこは改善ししなきゃいけないし、当たり前ですけど、わかりやすい反省点だなと思います」

吉田はそう振り返ったが、形の確認のところはもちろん、最後の締め方というのは同点なのか、リードしているのか、負けているのかでも変わってくる。そのなかで、最も大事なのはチームとして意識をそろえるところ。PKを与えたシーンは右サイドを狙われて、センターバックの谷口彰悟(川崎フロンターレ)がワイドに流れたところから、入れ替わりで山根が中をカバーした流れで起きた。

山根の対応もまずかったが、シンプルなつなぎから縦パスをボックス内に通された時点で、チームのディフェンスとしての反省点が大きい。前半に相馬勇紀(名古屋グランパス)のゴールをアシストするなど、全体的に好プレーが目立った柴崎岳(レガネス)も、縦パスを防ぎ切ることはできなかったPKシーンを反省材料として振り返った。

「最後のゾーンで一瞬、心の余裕がない部分が生まれてくる。チーム全体として問題ないよという声掛けとか、粘り強く相手に対応していこうという声掛けができれば、もうちょっと違った守備の仕方や結果になったと思います。今回、ミキ(山根)でしたけど、ミキだけの責任じゃなくて、チーム全体として生まれた結果だと思ってるので。そこはチームの責任として捉えていきたい」

最大のサプライズと言われた相馬勇紀の活躍

本番前ラストで後味の悪さが残る試合ではあるが、もともとボランチの主力である遠藤航(シュトゥットガルト)と守田英正(スポルティング)が別メニューで合宿地のカタールに残り、ディフェンスラインの要である冨安健洋(アーセナル)もベンチ入りはしたものの、カナダ戦で起用しないことを森保監督が明言していた。そうした中で、代わりに柴崎と田中碧(デュッセルドルフ)のボランチコンビがスタメン、そしてケガ明けの浅野拓磨(ボーフム)と板倉滉(ボルシアMG)もスタメンということで、組み合わせやコンディションのチェックという意味合いが大きかった。

1トップで起用された浅野が「ケガに関しての心配は、僕は今日のゲームではまったくなかったです。ほんと残りの時間で自分の状態を100%に持っていきたい」と語れば、谷口とセンターバックのコンビを組んだ板倉も「個人としてはよかったかなと。このスピード感と強度の中で65分間出れた。ドイツ戦にはもっとフィットした状態でいける」とより良い状態に持っていけることを強調する。

さらに相馬が通常と異なる4ー3ー3ー1の右サイドでスタートから起用されて、途中から左に回った。さらに終盤には3ー4ー2ー1のシャドーも担い、柴崎のアシストからこの試合での日本の唯一のゴールを記録した。しかし「左に入った時の仕掛けの形は良い形を出せたんですけど、右は背後へのランニング以外の仕掛けだったり、もうちょっと外に開いてもよかった」と振り返る。

それでもメンバー発表時の26人の中では最大のサプライズとも言われた相馬が、90分使われて結果も出したというのはポジティブな要素で、仮に最初のドイツ戦はベンチスタートだったとしても、2試合目、3試合目、さらに先のどこかでスタメンという見通しがたった意味でも大きなテストだった。相馬も「コンディションもさらに良くなったので、本当にいい準備をして迎えられる」と前向きに語っている。

鎌田大地のボランチ起用。本大会を想定したオプション

さらに後半途中から鎌田大地が田中に代わって、柴崎とボランチを組んだ。鎌田は6月のシリーズで4ー1ー4ー1、9月のシリーズでは4ー2ー3ー1のトップ下で、違いを生み出すプレーを繰り出して一躍、押しも押されぬ攻撃の中心的な存在となった。森保監督はそうした役割での実力を理解した上で、遠藤や守田の状態も考えた上で、所属のフランクフルトでもやっている鎌田のボランチを試したかったのだろう。

「ボランチの選手があんまりゴール前に入っていかなくても、そこに3人、4人の選手が入っていけばいい。7人の選手が入ろうが、得点を取れるチャンスは変わらない。ボランチで出るならリスク管理の部分がすごい大事になってくると思いますし、攻撃よりも守備に比重を置かないといけないと思います」

鎌田自身もそう語るように、フランクフルトでのボランチとタスクや攻守のバランスが異なるだけに、彼が持つ攻撃の持ち味を発揮するには適したポジションと言えないかもしれない。それでも大会の中で必要な状況も起こりうることを想定して、オプションを増やすためのテストだったと言える。

代表チームである以上、勝利にこだわるのは当たり前だし、結果はもちろんデュエルの部分で劣勢になるシーンだったり、失点につながったズレというものは限られた時間の中でも修正していかないといけない。また対戦相手はカナダがそうであったように、リーグ戦以上にデザインされたセットプレーを重視して仕込んで来るはずで、そうした対応は残り6日という限られた時間で詰めていくべき部分だ。さらに居残り組の遠藤や守田、カナダ戦で温存した冨安、さらにコンディション不良で合流が遅れた三苫薫(ブライトン)のフィットも気になる。

それでも結果はともかく、トータルとして有意義なテストだったことは確かだ。何より、この試合の中で大きなケガがでなかったことは前向きに捉えたい。カナダが非常に組織的な良いチームで、エースのアルフォンソ・デイヴィスや大黒柱のステファン・ユースタキオを欠いた中でも、強度の高いパフォーマンスで日本に課題を与えてくれたことに感謝したいし、最後のテストマッチを戦った同志として、大会での躍進にきたいしたい。

文・河治良幸
 

写真:JFA/アフロ