[カタール・ワールドカップ・グループステージ第1戦]日本 2-1 ドイツ/11月23日/ハリファ・インターナショナル・スタジアム

 ドイツ戦で日本に勝利をもたらしたのは、浅野拓磨のスーパーゴールだが、同点に追いついた75分の堂安律のゴールも、歓喜の勝利を手繰り寄せるトリガーになった。

 三笘薫の鋭い左からのカットイン→スルーパスに、エリア内の左脇を抜けた南野拓実がノートラップでシュート性のクロスを放った。

「シュート性の、でもどっちやったか自分もあんまり覚えてない、たぶんクロス……まあ、どっちでも、みたいな。たぶん誰かが走ってるやろ、あそこには、っていうのは感じてた」

 そう振り返る南野のイメージ通り、浅野がファー、堂安がセンターに走り込んでいた。ボールはドイツの守護神マヌエル・ノイアーに弾かれるが、手前にこぼれてきたところを堂安が左足で捉えて流し込んだ。

 1点ビハインドで迎えた後半、森保一監督はDFの冨安健洋を入れて3バック(見方によっては5バック)にすると、高い位置からドイツのビルドアップをハメて攻勢をかけた。さらに三笘を左ウイングバックに、堂安をシャドーに入れて、伊東純也を右ウイングバックに。

 GK権田修一の連続セーブに救われる危機もあったが、森保監督は南野を入れて鎌田大地を2列目からボランチに下げる超攻撃的な布陣で、1点リードしているドイツに前から襲い掛かる。その直後。つまり南野にとってはファーストタッチが先述のシュートだった。このシーンを流れから解析すると、日本の攻撃面のビジョンが見えてくる。
 
 この局面の1つ前に、右からの攻撃があった。右センターバックの板倉滉からパスを受けた伊東が、対面するダビド・ラウムを外して中にドリブルするが、行く手を阻んだボランチのレオン・ゴレツカと交錯してボールを失う。こぼれ球をセンターバックのニコ・シュロッターベックが処理し損ねて、伊東が回収に成功した。

 そこから遠藤航、鎌田、吉田麻也でトライアングルのパスを回すことで、ドイツの守備が中央に集まる。吉田から左ワイドでボールを受けた冨安の縦パスを、左サイドでフリーになった三笘が収める。

 前を向いてボールを持つ三笘は、右サイドバックのニクラス・ジューレが遅れて対応してきたところで、ドリブルで縦に行くモーションから、素早く右足のアウトで中に入ってジューレを外し、タイミングよく裏抜けする南野にスルーパスを通した。

「最初のジューレ選手の対応を見て、縦を警戒するのは分かってたので。次も縦を切ってましたし、中に食いついてくる瞬間にギャップができた。そこを(南野)拓実君が素晴らしい動きをしてくれた」

 三笘がそう振り返るように、左で縦に仕掛けた時にジューレがそれを嫌がり、直前に2人がマッチアップした局面で、ジューレは完全に縦を切るポジショニングだった。それが三笘にとってはジューレに対する良いすり込みになった。

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 直前の1対1より深い位置だったにもかかわらず、ジューレが縦を切るポジションを取ったことで、ドイツのディフェンスにズレが生じた。ボランチのヨシュア・キミッヒとゴレツカが一緒に引き付けられてしまったのだ。

 この状況を利用して効果的な動きを見せたのが、ボランチに下がっていた鎌田だった。自陣のビルドアップから三笘にボールが渡る間に、鎌田はスルスルと前に上がる。そして三笘にドイツのダブルボランチが引き付けられるのを見計らったかのように、南野が縦に動き出したことで生じたインサイドのポケットに入り込んだ。

 鎌田としてはそこで南野からマイナスの折り返しを受ければ、シュートやラストパスに持ち込めるイメージでいたはず。実際は南野がシュート性のクロスを選択するが、この鎌田のポジショニングによって、右センターバックのアントニオ・リュディガーが一瞬、南野へのケアが遅れた。

 さらに左センターバックのシュロッターベックも鎌田に視線が行った分、その手前から飛び出す浅野、さらに外からインに流れてくる堂安をケアできなかった。

 浅野と堂安の連動も見事だった。浅野がゴール中央から右斜めに走り、代わりに右の堂安が中央に行く。左サイドバックのラウムは浅野をケアに行かざるを得ないが、ボランチの2人が三笘に寄ってしまっているので、堂安のことは誰もチェックできなかった。

 三笘が入ったら、彼のドリブルを活かすというのは日本代表の共通ビジョンになっている。それにしても南野と鎌田の見事な動き出し、さらに浅野の飛び出しにより、堂安が完全にフリーになったのだ。交代出場の4人のアタッカーの連動は素晴らしかったが、そこにボランチから絡んだ鎌田も効果的だった。
 
 その鎌田は前半について全く上手くいかず、走るパワーの使い所も今ひとつだった一方で、「後半はその分、(やるべきことが)はっきりしていたので、よりそこに力を費やすことができてたと思う。やっぱり頭の部分ではっきりするっていうのは、すごく大事だなと思いました」と語る。

 この日は出番がなく、ベンチから試合を見守っていた柴崎岳が「あのシーンは(攻撃に)枚数をかけていた分、相手もどう付いていいか分からない。最終的に2人がファーサイドでフリーになっている状況だった」と振り返る。

 森保監督は、前半から高い位置でボールを奪ってショートカウンターという得点パターンを思い描いていたかもしれない。しかし、そこで上手く行かなければ次の手を打ち、ビルドアップから崩してゴールを奪う。

 ここから森保監督はコンディションも考えて、多少メンバーを入れ替えてくるはず。次のコスタリカ戦で、ドイツ戦はサブだった選手が存在感を見せれば、他のメンバーにも大きな刺激になりうるはずだ。

取材・文●河治良幸