取材陣用のバスがいない!
カタール到着後に滞在アパートのシャワールームで排水トラブルがあったことは前回にお伝えした。その翌日、メインメディアセンター(MMC)のあるドーハからバスで約1時間30分(渋滞込み)ほど移動したアルホールで開催される開幕戦を取材した。会場はアルバイト・スタジアム。対戦カードはカタール×エクアドルである。
ホスト国であるカタールは動きが固く、試合はエクアドルの勝利で終わった。公式記録によると67,372人が詰めかけたが、その多くが前半終了で帰りはじめ、試合が終わるころには空席が目立った。取材陣の動きも早く、スタジアムから移動をはじめる。向かうのはバス乗り場で、MMCへ戻るまでのドライブが束の間の休憩時間となる。
通常、復路のバスは乗り場に待機していて、時間設定があればオンタイムで出発し、時間設定がなければほどよく埋まると出発する。W杯はもちろん、アジアカップも同様でこれまで不具合を感じたことはあまりなかった。
カタールW杯ではフイにトラブルが起こる。乗り場に到着すると、なにやら雰囲気がおかしい。大会スタッフ用の紫バスは2台止まっているが、取材陣用の黄色いバスがいない。漠然と列ができていたので「あれ?」と思ったが、すぐに状況を理解して後方に並んだ。要は、待機しているはずのバスがいなかったのである。
ここからが長く、乗車待ちの取材陣の列がどんどん伸びていった。通常、この場にいるはずのスタッフもいない。一応はみな並んでいるが、内心では「ここでいいのか?」「バスは来るのか?」と疑心暗鬼になり、どことなくガヤガヤしている。時間の経過とともに不安が募り、状況を撮影しはじめる者も出てくる。W杯にはどんなときも仕事を忘れない働き者が集まってくるのである。
「ダメだ、この大会!」
行動をともにするベテラン・ライターが夜空に向かってこう叫んだのは、並んでいたことよりも現状を説明するスタッフの不在を憂いてのことだったと思う。約1時間は並び、ストレスもピークに達していた。
その後にバスは到着したが、同時に行列がなし崩し的に乱れ、我先に乗車せんとする者たちで混乱を極めた。「Don’t push!」「Ladies First」などの声が飛んでいたが、その場が収まることはなかった。たしか3台目に乗り込んでMMCにたどり着いたが、開幕したばかりなのにかなりの疲れを感じる出来事だった。
文/飯塚 健司(ザ・ワールド編集ディレクター)